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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「『ガンダム THE ORIGIN』から考える「SFとファンタジーの違い」」

2019/07/15 07:00 投稿

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岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/07/15

 今日は、2019/06/30配信の岡田斗司夫ゼミ「『君の名は。』完全解説と、『なつぞら』『ガンダム THE ORIGIN』、プラス6月のお便り&ステッカープレゼント」からハイライトをお届けします。


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nico_190630_01043.jpg【画像】スタジオから

 じゃあ次は、『ガンダム THE ORIGIN』ですね(笑)。
 もう、毎週毎週、話してる『ガンダム THE ORIGIN』の話をちょいとします。

 あのね、せっかくYouTubeライブでも配信してるから話しますけど。
 このニコ生ゼミの無料枠というのは、分割してYouTubeでも公開しているんですね。
 で、YouTubeにはコメント欄というのがあって、その動画に対するコメントが付きます。僕、そういうコメントには、だいたい目を通しているんですけど。

 先週、『ガンダム THE ORIGIN』に関して「月面都市の中にあるアナハイム・エレクトロニクスのシーンの、6分の1重力の表現が、まあ、ひでえよ」という話をしたんですよ。
 そしたら、YouTubeのコメントとしてわりと多かったのが、「いや、あの時代だから人工重力があるんだろ?」とか、「巨大ロボットを作れるほどのアナハイム・エレクトロニクスの技術があれば、宇宙に移民してから70年も経ってるんだから、人口重力くらい当たり前だろ」という意見。
 これを読んで、僕、ちょっと複雑な気持ちになっちゃったんですよね。

 まず、SFとファンタジーの違いから、説明させてください。

 SFというのは「科学的なお約束に沿って展開するもの」なんですよ。
 例えば、「100年以内に巨大ロボット」はアリなんだけど、「100年以内に重力制御」はナシなんですね。
 まあ、『銀河英雄伝説』みたいな千年以上の遠未来だったら、重力制御もアリなんですけど。

 この「アリ / ナシ」というのは、「技術的に無理なのか? 科学的にまだ無理なのか?」で決まります。
 例えば、巨大ロボットは単に技術的に無理なんですよ。つまり、技術が追いつけば、巨大ロボットは作れるんですけど。
 でも、人間みたいに恋愛するロボットというのは、科学的にまだ無理なんですね。
 この技術的に無理と、科学的に無理というのには、ちょっと温度差があるんです。

 こういう、僕が今言った面倒くさい制限とか約束事を、あえて面白がって守って、そういうルールの中で遊ぼうというのがSFなんですよ。
 それに対して、こういった制限が面倒くさくなって、それを外してもっと自由に遊ぼうというのがファンタジーなんです。
 ファンタジーとSFというのは、どっちが優れてるというものではなくて、そういった技術的な制限や科学的な制限、制約、縛りを面白がるか、あんまり面白がらないかの差だと思ってください。

 例えば、『ハリー・ポッター』はファンタジーだから、魔法のエネルギー源を問わないんですよ。
 魔法を使っても、「じゃあ、この系にあるエネルギー保存則はどうなっているのか?」ということは、あんまり気にしないんですね。
 逆に、初期の『機動戦士ガンダム』というのは、慣性の法則とか、科学的な部分にこだわりまくってるんですよ。そこがこの作品を面白がるポイントの1つなわけですね。

 富野さんというのは、その時代にやっていたような他のロボットモノとの差別化というのを、ここでやろうとしたわけですね。
 なのに、「所詮は巨大ロボットモノなんだから、そこまでのリアリティなんか別に要らない」と言うと、あの頃の富野さんを全否定するような形になるんです。
 俺、YouTubeのコメントを見て、「それは富野さんが気の毒だよ」って思ったんですけど。

 巨大ロボットというのは、さっきも話したように、技術的に無理なだけなんですよ。材料工学とか動力源の問題が解決したら、全然アリなんですよね。
 でも、反重力とか重力制御というのは、科学的にまだ無理なんです。理論も実験も、その基礎状態から何もない状態です。「こうすれば可能なんじゃないかな?」という仮説が、かろうじてあるくらいですね。
 なので、『ガンダム』の中に、人工重力場を登場させると、一気にジャンルがファンタジーになっちゃうんですね。
 「技術的に無理だけど、科学的には不可能じゃないよね」っていう、「もしも」を重ねて楽しむのがSFであって、SFとファンタジーでは、どっちが上とかじゃなくて、ジャンルが違うんです。

 もちろん、そういうこだわりがない人にとっては、「ファンタジーだろうがSFだろうが、どっちでも自分の好きなロボットモノの世界なんだから、うるさいことを言わずに楽しませてくれよ」という話なんですよ。
 それはね、すごくよくわかる。
 ただ、この岡田斗司夫ゼミというのは、申し訳ないけど「ファンタジーなロボットモノが大好きだ」と言う人をターゲットにしてないんですよね。
 なので、たまたま動画を見ちゃって、気分を害してしまった人には「申し訳ございません」と謝るしかないんですけど。

 さて、そういうこだわりが大好きな人への、SFの話です。
 先週の『ガンダム THE ORIGIN』で、僕が一番ゾクゾクしたのが、コロニーの落下シーンなんです。
 これ、初期のTVシリーズでも「人類史上最悪の被害」として描かれているんですけども。

 この人類の歴史上最大の被害というのがかなり正確に描かれているところが、僕、見ててゾクゾクしたんですよ。
 『機動戦士ガンダム』の放映当時、ガンダムのファングループの1つにGun Sightというところがありました。東京のファングループだったんですけど、そこが作った有名な商業誌に『ガンダムセンチュリー』というのがあるんです。
 この本の中で、コロニー落としの被害のすごまじさを、たった1行で語っているんですけど。「コロニー落下の影響で、地球の自転速度が1時間あたり1.2秒加速した」って書いてあるんですね。
 これが、やっぱりSFの感覚なんですよ。

 つまり、地球がこういうふうに回転しているわけですね。
(地球儀を見せながら)

nico_190630_01600.jpg【画像】地球儀

 それに対して、コロニーが地球の自転と同じベクトルで衝突してくるわけです。すると、地球の自転は、コロニーの重さ×速度によって、加速しちゃうわけですね。
 それまでの自転速度より、1時間につき1.2秒速くなる、と。
 この言い方が、なんかゾクゾクして、「かっこいいー!」って。「ああ、自転速度が速くなるんだ!」って。

 ここらへんがSFなんですよ。そこら辺をあまり気にしないというのが、ファンタジーなんですけど。
 まあ、そういうSFファンの業の深い見方で見ておるというところで、ご容赦願いたいと思います。

 今週の『ガンダムTHE ORIGIN』の話はここまでです。


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