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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「緻密な演出で優れたSFドラマとなった『機動戦士ガンダム』」

2019/02/14 07:00 投稿

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岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/02/14

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この記事は、KADOKAWAから発売された岡田斗司夫の『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』から、一部抜粋してお届けします。

緻密な演出で優れたSFドラマとなった『機動戦士ガンダム』

 最初の『機動戦士ガンダム』は、何がすごかったのか。
 それは緻密な演出で構成された、優れたSF作品だということです。
 富野由悠季は宮崎駿と同じ一九四一年生まれ。宮崎駿に対する劣等感も吐露していますが、富野作品の演出は宮崎作品に優るとも劣りません。
 そもそも、『機動戦士ガンダム』って何なのか? まずはその第一話を分解し、どん な演出がなされているのかを見てみることにしましょう。
 テレビ版『機動戦士ガンダム』は、さまざまな動画配信サービスでも視聴できますから、第一話だけでも観てから以下を読んでいただくと、僕のいいたいことがより伝わると思います。
 『機動戦士ガンダム』の記念すべき第一話のタイトルは「ガンダム大地に立つ 」。しかし1980年に日本サンライズ(現サンライズ)が発行した『機動戦士ガンダム 台本 全記録』を見ると、興味深いことがわかります。台本の段階では、第一話のタイトルは「モビルスーツ」です。ちなみに、第二話については実際に放映されたタイトルが「ガ ンダム破壊命令」、台本段階では「赤い彗星」となっています。

 放送局やスポンサーからリクエストがあったのかもしれませんし、制作スタッフ自身がわかりやすくしようとしたのかもしれませんが、スタッフがほんとうにやりたかったことが、「モビルスーツ」というタイトルによく表れていると僕は思います。
 それは何かといえば、「モビルスーツ」という誰も聞いたことのない概念を説明すること。第一話をあらためて観ると、モビルスーツの概念、ガンダムという主役ロボット、主人公アムロ・レイの紹介、要素はこの三つしかありません。
 いわゆるロボットアニメの定石を確立したのは、『マジンガーZ』(一九七二年) です。『マジンガーZ』には、「毎回新しい敵ロボットが登場する」「主人公が必殺技を叫ぶ」「主人公はヒーローであり、子どもたちが憧れるお兄ちゃん的存在である」というパターンがありました。
 『機動戦士ガンダム』は第一話で、このパターンをすべてひっくり返してみせたのです。
 第一話の冒頭では、永井一郎による有名なナレーションが流れます。


人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして、死んでいった。宇宙世紀ダブルオーセブンティーンナイン(0079)、地球から最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。


 「人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって」という表現。主語は「人類」で、「移民させる」という使役動詞。何を移民させたかというと、「増えすぎた人口」です。
 つまり、増えすぎた人口を邪魔ものとして宇宙に追い出した、そういうことが言外に語られていて、戦争の原因もここにあることがわかります。追い出された都市が、追い出した地球に戦争を挑んできたのです。
 1979年に第一話を初めて観たとき、僕はびっくりしました。アメリカなどの歴史 ものを観ていると、独立戦争に挑むほうが正義、挑まれるほうが悪だと思いがちです。『ガンダム』が放映された1970年代後半も、アフリカではいろいろな国家が独立をしていた時期ですし、ベトナム戦争もありました。
 「植民地が独立戦争をする」ことを、日本のマスコミはすべて「正しいこと」としていましたから、この「敵が独立戦争を挑んでくる」という設定は、視聴者にとってすごく引っかかる不自然な設定だったのです。
 ガンダムの初期の設定を見ると、「植民地」と書かれているのを消して「都市」と書き直してあります。植民地という言葉が子どもにはわかりにくいということもあったのでしょうが、「植民地じゃない、独立した都市なんだ」という富野の主張が見てとれます。
 こういう複雑な状況を、ナレーションで流れるようにさっと説明してしまうんです。


この記事は、KADOKAWAから発売された岡田斗司夫の『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』からお届けしました。

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