岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/02/08
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2019/01/13配信「『ナニワ金融道』で学ぶ『風の谷のナウシカ』、『耳をすませば』でさぐる宮崎駿のすごさ」の内容をご紹介します。
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2019/01/13の内容一覧
- 前説と「王蟲のセル」の補足
- ブラナウシカ 前回のやり残し、トルメキアの襲撃
- オープニングから読み取れる世界の裏側
- タペストリーに描かれた巨神兵
- 突然現れる青空カットのうまさ
- なぜ高畑勲は『風の谷のナウシカ』を「30点の作品」と評したのか?
- 高畑勲と宮崎駿に影響を与えたマルクスの唯物史観
- 『耳をすませば』のあちこちに残る「宮崎駿の痕跡」
- 『耳をすませば』に乗り切れない理由
- 『ナウシカ』のエンディングで語られた、トルメキアと風の谷の盟約
- 風の谷の生き方を伝えようとするナウシカ達
- 価値観を変換させるラスト
- ナウシカこぼれ話、『ナウシカ2』と2人の王女
- 王蟲が主役になる話
『耳をすませば』のあちこちに残る「宮崎駿の痕跡」
『耳をすませば』というのは、もともと宮崎駿が、親戚が持っていた信州の別荘でゴロゴロしていた時に、何にもすることがなかったので、親戚の女の子が忘れていった『りぼん』という少女雑誌を読んだことから始まります。
この時、押井守とか庵野秀明とかいろんな人が、その別荘に呼ばれたそうなんですけど、そこで宮崎駿は訪れるみんなに議論をふっかけたそうなんですね。
「これをアニメにできるか? というか、根本的に「少女マンガ」というのはアニメになるのか?」と。
すごいことを言いますよね。つまり『キャンディキャンディ』や『魔女っ子メグ』などの、それまで脈々と続いてきた少女アニメの歴史を、宮崎駿はまったく認めてないんですよ(笑)。
(中略)
この頃の宮崎駿は、自分がプロデューサーをやったり、絵コンテと脚本をやったりしていました。
そうすることで、身近にいる後輩……ということではないんですけど。というか、アニメ業界では先輩・後輩は、あんまり意味がないんですけども。
まあ、もっと若手にチャンスを与えようと思って、近藤さんを監督にしたわけですね。
さて、さっき言った「甘ったるい嘘」というのをどうやって成立させるのかっていうと、「徹底的にリアルな日常描写を重ねることによって、甘ったるい嘘というのを作っていこう」と。
こういった考えが、冒頭の猛烈にリアルな表現に表れています。
これはまあ、高畑勲が作った『おもひでぽろぽろ』に対する対抗意識が溢れまくっているというのもあるんですけども。
ということで、『耳をすませば』のオープニングがどんなふうに出来ているのかというのを解説したいと思います。
これ「カントリーロード~♫」という歌で始まる、『耳をすませば』のオープニングです。
(パネルを見せる)
まず、夜景の街が現れます。この夜景の中で、点々と光だけが明滅しているのがメチャクチャ綺麗です。
その中でタイトルが表示されて、細い電車が線路を走っているのが見えます。
画面の中で大きく動いているのはこの電車だけなので、すごく目を引くんですね。この電車を目で追わせることによって、お話を作って行くんです。
そんな「大東京の夜景を超高空から見ている中で、電車だけが動いてる」というカットです。
(中略)
そうすると、次に映画の中でも出てくる「地球屋」というアンティークショップのベランダが映ります。
(パネルを見せる)
そのベランダでじいさんが一息ついて夜景を眺めていると、そのベランダの手すり越しに、さっきの電車がスーッと走っているのが見える。
カメラはどんどん田舎に行って、高度を下げながら、この電車を追いかけます。
というところで、やっと電車が停まります。
(パネルを見せる)
ついにカメラが地面に来ました。
「駅前の踏切が映り、女の人が踏切が開くのを待っている」、「そこへ電車がゆーっくりと入ってきて、駅に停まる」、「駅に停まると、車掌がいるドアが先に開いて、その後で、客席のドアが開く」という、すごく丁寧な作画なんですけど。
この女の人が、電車が通り過ぎる時に、ほんの少しだけ首を曲げて視線を送っている。この辺りの演技がすごく細かいですね。
もうカメラも、人が歩く位置まで降りて来ています。ここでようやっとお話の舞台が整ったわけですね。
(パネルを見せる)
電車が停まって、次に駅から人がワーッとお客さんが降りてきて、駅から出ていきます。
高度千mくらいの大俯瞰から見た東京から、電車の動きをずーっと追いかけて、その電車が郊外にやってきて、踏切があるような小さい駅に停まったかと思うと、そこから人がワーッと溢れて来て、その人波の向こうにファミリーマートが見えるんです。
もう実在のコンビニがハッキリと見えて、そこへ向かって人が溢れて行く。
そうすると、そのファミリーマートの中から、無表情で牛乳パック1つが入ったビニール袋を持った主人公の雫が、自動ドアを開けて出てくる。ようやっとここで主人公登場なんですね。
(パネルを見せる)
つまり、これは宮崎駿のアニメの劇的な主人公の登場の仕方ではなくて、すごく抑えた登場なんです。
遥か空の上からずーっと降りてきて、地上にある駅前のファミリーマートにみんなが入って行く中で、1人だけ出てくる主人公ということで、キャラを立てています。
(中略)
このアニメには「宮崎駿の痕跡」が、いくつも残っています。
例えば、こういうことは自分のアニメではあんまりやらないことなんですけども、もう本当に最後の方のシーンです。主人公の雫が、初めて書いた小説を地球屋のじいさんに見せて、恥ずかしがるシーンですね。
(パネルを見せる)
じいさんは「これ、素晴らしいよ」と言うんですけど、雫は「そんなのダメです。私、恥ずかしい、恥ずかしい!」とメチャクチャ恥ずかしがります。「そんな「恥ずかしいもの」を見せた後、身体が冷えてしまったので、じいさんと2人で鍋焼きうどんを食べる」というシーンがあるんですけども。
まあ、ぶっちゃけ、メチャクチャエロいんですよ、このシーン。
というのも、ここでは、裸を見られるより恥ずかしいものを、生まれて初めて「宮崎駿の分身のようなじいさん」に見せているわけですよね。
そして、その後、まるで男女の営みの後のように、なんかこう火の前で鍋焼きうどんをすする。
なんか、このシーンだけが、このアニメの中でメチャクチャエロい臭いを醸し出していて、「ああ、宮崎駿、ここでちょっと「出しちゃった」な」って思ったんですけども(笑)。
宮崎駿というのは、この手の「エロの自然な出し方」がメチャクチャうまいんですね。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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