岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/02/05
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2019/01/13配信「『ナニワ金融道』で学ぶ『風の谷のナウシカ』、『耳をすませば』でさぐる宮崎駿のすごさ」の内容をご紹介します。
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2019/01/13の内容一覧
- 前説と「王蟲のセル」の補足
- ブラナウシカ 前回のやり残し、トルメキアの襲撃
- オープニングから読み取れる世界の裏側
- タペストリーに描かれた巨神兵
- 突然現れる青空カットのうまさ
- なぜ高畑勲は『風の谷のナウシカ』を「30点の作品」と評したのか?
- 高畑勲と宮崎駿に影響を与えたマルクスの唯物史観
- 『耳をすませば』のあちこちに残る「宮崎駿の痕跡」
- 『耳をすませば』に乗り切れない理由
- 『ナウシカ』のエンディングで語られた、トルメキアと風の谷の盟約
- 風の谷の生き方を伝えようとするナウシカ達
- 価値観を変換させるラスト
- ナウシカこぼれ話、『ナウシカ2』と2人の王女
- 王蟲が主役になる話
タペストリーに描かれた巨神兵
次は、オープニングの「タタタンタンターン、タタタターン~♫」というところで、かつての人類の発展みたいなものがタペストリーとして描かれます。
(パネルを見せる)
絵コンテにある説明文によれば「かつて人は大いに栄え、天に届く壮麗な都市を築き、奇跡の技を持って天翔ける船を作り、星々にまで運行させるに至った」とあります。
このタペストリーに描かれているのは「流れ星とか太陽より上を飛んでいる船」なんです。つまり、これは単なる「空飛ぶ船」ではなくて、「星を渡る船」。いわゆる宇宙空間を飛ぶ船なんですね。
「そういった宇宙船が別の太陽系に行っている」というのを暗示させるために、こういう星とかを複数描いているんですけど。
絵コンテの方が、それがわかりやすいですね。
(パネルを見せる)
絵コンテの方では、流れ星と、あとは影を受けている月、星、太陽があって、もうちょっと宇宙空間感を出しているんですけど。
こういう辺りからもわかる通り、「他の惑星に行く」と言うよりは、「他の太陽系に行く」というようなイメージです。
地上部分に描いてあるビルも「天まで届く建物」というふうにコンテの中に指示があるので、実際は高さ数千mくらいの建物だと思ってください。
なんとなく僕らは、現代の高層建築みたいなものを考えるんですけど。これは、現代よりも800年進んだ世界の終わりというのを描いたものなんですね。
タペストリーの上下の橋の欄外にある装飾にも注意してください。
上に描かれているのは「繁栄の印」である豚です。こういうのは豊穣を意味するんです。
けれども、そんな繁栄の中で人間は飽きるほど食い、その中で戦いをやめない。それを示すように、下には剣が描いてあります。
そんな中で、巨神兵という生き物が作られたんですね。
(パネルを見せる)
このタペストリーも、人間が人型のものを作る不気味さというのがよく出ていると思います。
この巨神兵が作られる様子を描いたタペストリーが出た後に、ついに戦争が始まるわけですね。
(パネルを見せる)
欄外の装飾には、さっきの繁栄の印である豚や剣ではなく、もうハッキリと「骸骨」が地面の中に埋まっている様子が描かれます。「いよいよ死の世界が始まった」ということですね。
巨神兵が口から火を吹いて、ビルの上から人が落ちているというタペストリーなんですけど。これも、実際は高さ数千mのビルがすべて破壊され、焼き尽くされて、この世界が滅びつつあるということが表されています。
ここで描かれている巨神兵の形についても、北斎の『がしゃ髑髏』の構図を左右逆転させたようなものだというふうにも考えられるんですけど、ちょっと南米っぽい構図でもありますね。
この欄外から「無数の人が死んだ」という情報が伝わるというのも、わりと面白いです。
で、このタペストリーが映し出された後に、実際の巨神兵の映像に行くんですけど。
(パネルを見せる)
ここでのカットの繋ぎがうまいんですよ。
タペストリーとして抽象的に描かれた巨神兵の絵から、アニメとしてリアルに描かれた巨神兵の絵に急に切り替わると、突然過ぎる。なので、宮崎駿は、このタペストリー全体を映したカットの次に、巨神兵の部分のアップをストンと入れたんですね。
このカット繋ぎは生理的な感覚によるもので、ちょっと宮崎駿以外には発想できないようなものなんです。
このシーンについて、庵野秀明も、オーディオコメンタリーで「こういうオープニングはうまいなあ!」と言っています。この繋ぎの上手さを語ってるわけですね。
タペストリー全体を映した後に、その中の巨神兵の顔の部分のアップをポンと挟んだ後で、セルによる動きのある巨神兵を見せているから、これらが繋がっているように見えるわけですね。
ただ単に、タペストリーの後にアニメの画面に行くだけだったら、かなり唐突に変に見えちゃうんですけども。
ここでワンカット、アップの画面を入れることで、見ている人が「この巨大な巨神兵が見ているものはなんなのか?」と、彼が見ている破壊の世界を、頭の中で一瞬、思い描く。
その瞬間に、実際に動いている巨神兵の映像が映る。すると、高さ数千mのビルが壊れて倒れている後ろに、ものすごいデカいものがヌッと立っている。
こここでも、視聴者の視線が、画面の中で唯一白く光っている、巨神兵の目と槍に、注意が行くように出来ています。
こういった流れは論理的なものではないんですね。いわゆる秀才タイプのアニメの監督さんには出来ない、もう本当に天才的な、生理的な発想なんですよ。
だから、これを見た庵野秀明も、コメンタリーで「うまいなあ!」と叫んでるんですけども。
では、ここで歴史的に何があったのかというと。
「実際の巨神兵というのは、背の高さが数百mから、下手したら1千mくらいあった」と。高度数千mのビルが倒れてるくらいですから。
そんな、ものすごくデカい巨人が、ビッシリと左右に隊列を組んで進んでいるわけです。
実は、この巨神兵たちが、横一列にどれくらい並んでいるか、わからないわけですね。僕らはついついアニメのフレームの中で物を考えてしまうんですけど、実際にはこの超巨大な巨人が、地平線を覆い隠すように横一列に連なっている状態で、この世界を蹂躙しているというようなイメージなんですね。
つまり「何者も逃さず皆殺しにする」という意味で、この世界を破壊して歩いているわけです。
その結果、このタペストリーで描かれているようなことになりました。
(パネルを見せる)
ここで映されるタペストリーは全体を見せるのではなく、下の方で丸まって死んでいる人をよく見せるために、わざわざタペストリーの下の部分だけをトリミングして映してるわけですね。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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