岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2018/08/06
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2018/07/29配信「アニメ界 夏の重大ニュース!『進撃の巨人』『この世界の片隅に』『未来のミライ』『シン・エヴァ』……」の内容をご紹介します。
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2018/07/29の内容一覧
- 本日のお品書き
- 世界の村上隆と150万円のディスカバリー号
- アニメ版『バナナフィッシュ』が失ったもの
- 『未来のミライ』は「高級な『クレヨンしんちゃん』」
- さらに10分延長されることになった『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
- 『シン・エヴァンゲリオン』が行き着く先は『火の鳥』?
- NHKの「10分でわかる進撃の巨人」がすごい
- 『こち亀』のGIジョー解説と『ガルパン』最終章
- 『バナナフィッシュ』と『約束のネバーランド』の類似点
- 『未来のミライ』賛否両論の原因は細田監督が「作家主義」に舵を切ったから
- 『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、さらにとんでもない作品になる!
- 『シン・エヴァンゲリオン』と、庵野秀明の終わらない青春地獄
- 『進撃の巨人』シーズン3ほど出来の良いオープニングは見たことがない
アニメ版『バナナフィッシュ』が失ったもの
『バナナフィッシュ』のアニメが、ノイタミナ枠で始まりました。
原作は、1985年に連載していた漫画なんですけど、これがアニメになるということで、舞台が現代に変更されたんですよね。
これによって何が変わったのかというと。例えば、これは原作1巻の「借りるぞ!」と言ってバイクに跨って、バーンと走っていくシーンなんですけども。
(パネルを見せる)
『バナナフィッシュ』というのは、アメリカの話なんですよ。ニューヨークの話なんですよ。主人公は不良少年なんですよ。なので、当たり前だけど「借りるぞ!」と言ってバイクで走り出す時は「ノーヘル」なんですね。
ところが、2018年の現代のアメリカに舞台を移してリメイクされた今回のアニメでは、不良少年、それもマフィアの手先として働いている少年であるはずの主人公がちゃんとメットを被って、そこそこ今っぽいバイクに乗ってるんですよ。なんか、これがメチャクチャカッコ悪いんですよね。
(パネルを見せる)
その上、バイクから下りてヘルメットを脱いだら、こんな弱そうなアッシュが現れるんです。
(パネルを見せる)
「ダメじゃん」と。
不良少年がバイクを借りて乗るというシーンで、ヘルメットを被っててもしょうがないんですよ。
たぶん、これは最近のコンプライアンスを守るための配慮だと思うんですけども。でも、こんな改変をするくらいだったら、舞台は1985年のままにして欲しかったんですよね。
そもそも、原作の『バナナフィッシュ』には、1985年が舞台でなければいけない理由というのが、ちゃんとあるんです。
この物語はもともと「ベトナム戦争の後遺症」の話なんですよ。
主人公のアッシュには、グリフィンという、ベトナム戦争に従軍した結果、ドラッグ中毒になって帰ってきたお兄さんがいるんです。「兄のグリフィンが、なぜドラッグ中毒になったのか?」という原因をアッシュが探るというところから、ストーリーは始まります。
中毒になったグリフィンが1つだけ覚えていた言葉が「バナナフィッシュ」だったんですよ。だけど、アッシュにはこの言葉が何を意味するのかがわからない。
しかし、その後、アッシュが偶然捕まえた、ニューヨークの路上で死にかけていた麻薬の売人みたいな男も、死ぬ間際に「バナナフィッシュ」と言うんです。つまり、この「バナナフィッシュ」という言葉が前半における大きな謎になっているんです。
だけど、現代に舞台を移したアニメ版では、主人公のアッシュは平然と「スマホ」で電話をしているんですよ。だって、現代だから。
ちょっと待てよと。スマホがあるんだったら、「バナナフィッシュって何だ?」って気になった瞬間に、ググればいいじゃん。そしたら、トップに「バナナフィッシュとはサリンジャーの小説である」って出てくるはずなんですよね(笑)。
こうやって、何も考えずに舞台を現代に動かして、スマホを使わせたり、今風のバイクに乗せちゃうから、こんな変なことになっちゃうんですよ。
ベトナム戦争というのは、アメリカが初めて、そして、今のところ唯一、勝つことができなかった戦争なんですよね。勝ち目があると思って始めたのに、結局、勝てないままに延々と続けてしまった戦争なんです。
そのおかげで、前線では兵士たちがドラッグ中毒になり、そして、ドラッグ中毒になった兵士が帰ってきたおかげで、アメリカ中にドラッグが蔓延することになった。
そのドラッグを運んだり売ったりするために、アメリカ全土に「マフィア」と呼ばれるイタリア系のヤクザが蔓延る原因にもなり、その結果、いわゆる黒人の人権運動のような社会運動も一斉に始まった。
こういった現代につながる様々な問題は、実は「ベトナム戦争からうまく抜け出せないアメリカ」というのが原因で起きているんですよ。
『バナナフィッシュ』の連載時期である1985年というのは、まさに、この物語を語るための時代なんですよ。これを、2018年の現代に持って来るということが間違いなんです。
アニメ版では、お兄さんのグリフィンは「イラク戦争で負傷して帰ってきた」という設定になっているんですけど、イラク戦争にはドラッグ問題なんてないんですよ。
ベトナム戦争で散々懲りたから、現代のアメリカ軍というのは、もう、メチャクチャクリーンなままで戦地に行って帰って来るんです。そもそも、イラク戦争の頃には、アメリカというのは、戦場で人が1人死んだら大騒ぎするような国になっちゃってるんだから。
時代性という話でいうと、この時代には、『バナナフィッシュ』にあるような「ドラッグで人間の深層心理をコントロールする」という研究が、実際に始まっているんです。その研究が、後のCIAのウルトラ計画とか、あとはオウム真理教の洗脳というのにも繋がっているわけで、すべてはこのベトナム戦争がスタートになっているんですよ。
この『バナナフィッシュ』という物語は、この1985年というベトナム戦争直後の時代だったからこそ、唯一成立していたんです。
それを、アニメ化する時に、よりによって一番やっちゃいけない「舞台を現代に変える」ということをしているんですよね。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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