すいません、10年後の幼児教育から大学までの景色(その3)はきっと明日に……。
赤崎・名城大教授の一問一答 「私一人でできた仕事ではない」
赤﨑勇さんのインタビューは中継で見たんですけど、この答えが凄まじいのです。
――若い研究者にメッセージを送るとしたら。まさに老獪。「はやりの研究にとらわれず、自分が本当にやりたいならやりなさい。自分がやりたいことをやりなさい。それが一番だと思う。自分がやりたいことだったら、仮になかなか結果が出なくても続けることができる」
常識的な柔らかい言葉で語られ、多分、研究者でない人には、普通にいいこというなあと聞こえると思うのですが、そこがミソ。でもこれ、当事者の若い人には「土へ還れ!(はあちゅうさんのブログで覚えた)」ってくらいひどい言葉なんです。
スターウォーズのヨーダってなんかよぼよぼで大したことないと思ってるとひどい目に合うように、赤﨑教授もよぼよぼのおじいさんに見えるのに、全国民が注目するノーベル賞受賞直後にすかさずこの言葉を放てるとは、やはり歳を取るというのはものすごいことです。
NHKの中継でこの言葉を聞いた刹那、私の心には怒りがわき上がりました。
はあ? 若い人なんて、みんな任期付のポストになって、研究成果も毎年外部の流行しか知らない奴らに評価される状況で、仮にも研究者の最高の名誉を受けた人がなんでそんなこと言えるん。耄碌しすぎ! 現場知らなすぎ!
そうなんです。今の若い人は、自分のやりたいことやりたくたって、給料を出す社会が許さないのです。
ですから、これを聞いて憤っている若い研究者はたくさんいると思います。「そんなん分かってるわ。だったら、ポストくれよ」と。
しかしですね。そんな現状は今に始まったことではなくて、いわゆるポスドク問題として10年というオーダーで問題になっていることです。もしかしたらもっと前から。達者な赤﨑教授が知らないわけがないのです。
ではなぜそんな若い研究者の心を折りかねない発言をするのか。
……。そうか、これは全国民が見ているからなんだ!!
10年後の幼児教育から大学までの景色(その2)
でも取り上げましたが、普通に就職する人にとって、大学4年の学費は元を取りにくくなっていて、したがってそういう人は減り、これから大学は元の研究のための機関に戻っていくと考えています。
そして、その研究について、何を研究すべきかという点で、今大切なタイミングに来ていると思います。10年後の幼児教育から大学までの景色(その2)でも書きましたが、たとえば大学でやる研究全体の費用が、実用化された研究が産む利益でとんとんにはなりません。そういったネタの多くは民間が放っておくわけがありません。大学はもっと大きな視野で研究をする必要があります。
たとえば私が大きくなるうちに、鎌倉幕府が開いた年は1192年から変わりました。それを地道に研究している人がずっといるということです。でもそんなのお金になんかなりません。でも止めてしまったらどうなるでしょう。歴史を掘り下げることを止めたら、その瞬間時の施政者によって、都合のいい歴史が作られ、私たちを動かすことに使われます。鎌倉幕府が開いた本当の年が分かった!っていう喜びも大切ですが、歴史の研究を止めてしまうことは大きなものも失うのです。
では、何を研究すべきかをどう決めるべきか。それは、研究者たちが自分のやりたいことを研究することが最善なのです。自由な環境に置かれているならば。すべての研究者たちがばらばらに考えて、やりたいことをやる。それでいいのです。だって、あまりに流行りのとこは、他の人にやられるかもしれませんから、当然躊躇もします。社会に問題は掃いて捨てるほどあります。なにか成果を出したければ、基本は他人がやってないことをやるのが鉄板です。
ですから、「はやりの研究にとらわれず、自分が本当にやりたいならやりなさい。」なんて、本来、当然そうなるはずのです。
なぜそうなっていないか。それはシステムに問題があるのです。ですから、赤﨑勇さんは、若い人に向けてという答えで、施政者に対する、皮肉たっぷりの宣戦布告をしたのです。
若い研究者は憤るでしょう。でも、そのために戦わなくてはいけないという思いに至ります。若い人以外も、この問題を知らないわけがありません。この問題を真剣に考えることでしょう。
若くない人にとってこれは二極化しかねない深刻な問題です。たとえば、iPS細胞の山中教授に問うてみたらどうなるでしょうか。若い人の流行りでない自分のやりたい研究をサポートするということは、流行りのiPS細胞の研究費を削るということになりかねません。彼はどう答えるでしょうか。
iPS細胞は国家戦略級ですから、特例になるかもしれません。では、それよりちょっと下だけど優れた研究をして莫大な研究費を集めてぶいぶい言わしている研究者たちはなんと言うでしょうか。こういう人たちは、もちろん大学のあり方についての議論に今影響力があります。
ひとたび「選択と集中」戦略を取ったことで、資金が集中した研究者たちは影響力を持ちました。その影響力が減るような動きは阻止するよう働きかけるでしょう。もしも赤﨑教授がそれを赤裸々に非難すれば、当然すさまじいカウンターを食らうことでしょう。
ですから、彼は、全国民が聞くであろうインタビューで、まずもってだれも非難できない言葉を放ったのです。
「はやりの研究にとらわれず、自分がやりたいことをやりなさい。」
老獪です。大人は本気を出すと、こうやってケンカを売るのです。
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