【“究極のAndroid端末”に眠るビジネスチャンス】
ここ数年、日本メーカーのスマホ事業撤退が相次いでいる。NECやパナソニック、東芝といえば、日本のモバイル端末市場を牽引してきたメーカー。これらの名だたるメーカーでさえも、シェア獲得が困難になり、出荷台数の減少という窮地に立たされたのだ。
そんななか、中国では『小米(Xiaomi)』というメーカーが破竹の勢いでシェアを伸ばしている。小米といえば、元キングソフトCEO雷軍氏によって2010年に創業された端末・ソフトウェアメーカー。2011年に初のスマホ端末の販売をスタートし、順調にシェアを拡大。現在では中国国内で約11%ものシェアを獲得、Appleをおさえ第3位のシェアを誇っている。その上、世界シェアも約4%と、ソニーと肩を並べている。
この雷軍氏は、2009年から開催されている中国発の『GMIC(Global Mobile Internet Conference)』というモバイルインターネットカンファレンスを、発足当初から支援している人物でもある。このカンファレンス、発足当初は数百人規模であった参加人数が、現在では一万人規模へと発展するなど、参加人数が着実に増加。その成長は留まることを知らず、中国から飛び出しシリコンバレーでも開催されているほどだ。ネット系カンファレンスのほとんどが欧米発であるなか、突如として現れた中国発のネット系カンファレンスということでGMICは大きな注目を集めている。故に、雷軍氏は「中国のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれ、伝説的な存在になっている。
そんな雷軍氏率いる小米は、GoogleでAndroidの製品管理担当副社長を務めていたヒューゴ・バーラ氏をヘッドハンティング。iPhoneをベンチマークしつつも、iPhoneよりも価格を抑えたAndroidベースの端末を作っている。そして、iPhoneのような使い勝手や優れたUIを備えたスタイリッシュな端末を大ヒットさせ、わずか4年でこれほどまでの企業へと発展した。
ここで1つの疑問が生まれる。なぜ、創業わずか数年の小米は急成長しているにも関わらず、モバイル市場で長年培ってきたノウハウや世界最高レベルの技術を抱える日本メーカーは撤退にまで追い込まれてしまうのか。実際に、Android端末の開発メーカーを取り巻く環境が厳しくなっているのは確かだ。OSが世界規模で共通化されているため、サービスや機能面での差別化が困難になっている。結果、「価格」が差別化要素になり、し烈な価格競争を強いられるという状況が発生した。このような価格競争下では「規模の経済」によって、必然的にスケールの大きなメーカーが有利になる。事実、サムスンは大きなシェアを維持し続けている。NECやパナソニックが撤退したように、シェアの小さなメーカーにとってはかなり厳しい戦いとなるのだ。
だが、小米は成長している。つまり、シェアの小さなメーカーの生き残るためのビジネスモデルが全くないわけではない。小米の躍進の裏には、中国国内でのスマホ需要の拡大もあるので、日本の国内メーカーと単純に比較することは少し乱暴ではある。しかし、需要の拡大は中国だけでなく世界中で起きていること。小米のように、“究極のAndroid端末”を開発し、全世界で販売するというモデルは巨大なビジネスチャンスが秘められているのではないか、と感じるのだ。
そして、つい先日、「iPhone6に防水機能が追加されるかもしれない」というニュースを見かけた。記事のソースが噂やリークであるため確証はないのだが、遅かれ早かれiPhoneに防水機能が追加される可能性は非常に高い。防水機能といえば、ガラケーにも搭載されていた機能だ。実は、歴代iPhoneのメジャーなアップデートを辿っていくと、カメラの進化や指紋認証など、ガラケーの進化の歴史とかなりの部分でリンクすることがわかるはず。以下が主な追加機能を表にしたものだ。
◆「歴代iPhoneの主な追加機能一覧」
★Photo★
※編集部作成
これ以外にも、絵文字機能も当てはまるだろう。iPhone5Sで追加された指紋認証センサーも、とっくの昔にガラケーが実現していたこと。先進的なイメージがかなり強いiPhoneだが、機能面では「ガラケーの後追い」と言っても過言ではない状況と整理できてしまう。「ガラパゴス」や「進化しすぎた」と揶揄されるガラケーだが、これで、その先進性を理解いただけたと思う。
では、ガラケーの機能をきちんと網羅したAndroid端末は存在しているのだろうか? 防水機能や指紋認証センサー、おサイフケータイなど、一見するとガラケーの機能を網羅したように見える端末を見かけることはある。だが、ガラケーの使い勝手まで再現したものはほとんどないと言っていいだろう。機能の全部載せを打ち出す端末もあるものの、「見せかけ」的なものが多く、もっと言えば、日本市場向けの端末ばかり。「世界へ打って出る」という姿勢の端末がどれほどあるのだろうか? 機能や端末のスペック的には、iPhoneを凌駕し世界に通用する競争力はあるものの、日本市場向けの“ガラパゴススマホ”になっているものがあまりにも多い。つまり、ガラケーの機能や使い勝手をきちんと網羅したAndroid端末を開発・販売することこそ、大きなビジネスチャンスなのではないかと感じているのだ。
【日本メーカーがとり憑かれた”万人受け”の呪縛】
ガラケーの機能や使い勝手をきちんと網羅したAndroid端末を開発・販売するために、メーカーがやるべきことはたくさんある。ジャンルを分けるとしたら、「UI」「機能」「クラウド」「目玉機能」だ。
まずはUI。Android端末の操作性が悪いと思っている人は少なくないはず。そこで、UIを徹底的に改善する。Androidはカスタムできる範囲が非常に広い。にも関わらず、独自のインターフェイスを製作する日本メーカーはほとんどない。auの『INFOBAR』は独自のカスタマイズを行っている端末ではあるが、他のラインナップに完全に埋もれてしまっている。もっと優秀なデザイナーを起用し、Androidをカスタマイズすべきだ。もちろん、動作を軽くすることは言うまでもない。
機能面では、防水や指紋認証などのガラケーが実現していた機能をフル装備する。そして、スマホの機能で意外に重要なのが、電話帳まわりの使い勝手だろう。正直なところ、iPhoneの電話帳は登録数が100件を超えた辺りから非常に使いにくくなってしまう。ガラケーでは電話帳の登録数が500~1000件単位を前提にされていたが、iPhoneで1000件の電話帳をストレスなく管理するのは至難の業と言える。このようなディテールの部分も含めて、徹底的にガラケーの良い部分をスマホに移し替えていく。もちろん、iPhoneが持つスマホの良い部分も踏襲していく。
クラウドもiCloud並の使い勝手を用意すべきだ。クラウドサービスはさまざまなサービスが台頭しているので、自社で開発しなくても、アウトソーシングすればいいだろう。キャリア独自のクラウドに合わせる必要もない。むしろ、キャリアに頼る部分を極力減らし、本格的なMVNO時代の到来にも対応できる端末にすべきなのだ。
そして最後に目玉機能。例えば……と、具体的なサービス内容を言いたいところだが、目玉機能はその都度決めればいいと思っている。モバイル端末メーカーに限らず、多くの日本企業が目玉機能を先に決め、そのロードマップに従って端末や製品の開発を進めている。いわば、「ロードマップ主義」なわけだが、これでは目的に縛られることで柔軟性がなくなりフレキシブルな方向転換も難しくなる。加えて、地道に開発していてもキリがない(間に合わない)とも言え、端末や製品が発売する頃には、「時既に遅し」という状態にもなりかねないからだ。大前提として、より便利な端末の方が需要は高いはず。ロードマップ主義にするのではなく、全体の方向性定めておけば、視野が狭まることはなく、時代の変化や技術の進化にも柔軟に対応できるだろう。例えば、ガラケーで指紋認証やおサイフケータイを搭載したときもそうであった。その時に可能な技術や機能をピックアップし、魅力的なものから搭載していく。例えば、iモードスタート時に「ネット上からアプリをダウンロードしてゲームができたり、携帯のなかに財布の機能があればユーザーにとって魅力的」と考えて『Java』に対応させておくといったような、目玉機能を実現するための「仕込み」は行ったとしても、「どの端末で、何年に、どんな目玉機能を搭載するか」という細部まで決め打ちする必要はないと感じる。
新しい端末が発表されると一番に報道され注目を集めるのが目玉機能なのだが、ここに注意すべきポイントが存在することを忘れないで欲しい。これまで携帯開発に携わってきた経験上、目玉機能と同じくらい重要なのが端末としての実用性の部分。携帯電話やスマホのように、日常的に使う端末は、新機能と実用性の組み合わせが鍵となる。処理能力の向上など、土台としての機能アップも欠かせないのだ。例えば、『ダイソン』の製品もこれに当てはまる。イノベーションを起こした製品も、よく見れば、真新しい機能は一つだったりする。このポイントをおさえて、スマホ端末も毎年アップグレードしていくのだ。
イノベーティブな商品を開発するという点では日本メーカーは海外メーカーに劣っているのが現状だろう。AppleのiPhoneやダイソンのサイクロン式掃除機、iRobotの『ルンバ』など技術的には日本メーカーでも開発できる商品だ。むしろ日本メーカーの技術を最大限に活かせれば更に上に行くことは可能だと感じる。もちろん、スマホ開発の場でも、UIや機能など要素的には世界トップレベル。優秀なUIも多く存在している。にも関わらず、「日本製スマホ=“もっさりしたUI”」というイメージを持つ人が多いはず。では、何が原因なのか。それはひとえに、経営者や意思決定者の能力不足だ。ビジョンを示すべきリーダーらが、リスクを取ることを恐れ、「万人向け」の端末開発を目指してしまう。その結果、もともとはエッヂが効いていたUIも、「子どもたちが使えなかったらどうするのか」「お年寄りにもわかりやすいデザインにしよう」と、無難で最大公約数的な仕上がりになってしまう。これは、デザインや機能にも同じことが言える。国内には優秀なデザイナーや最先端の技術は多い。ウェアラブルデバイスとの連携など、目玉機能を開発する力も日本の強みであり、そのポテンシャルは計り知れない。しかし、「万人向け」を目指した途端にレベルが急激に落ちてしまうのだ。
【目指すはシェアNo,1ではなく、シェア10%】
では私が今からスマホを作るとしたらどんなスマホにするだろうか。
現状では、多くの経営者やリーダーが万人向けや平均を狙っている。そのような経営者にとってみれば、独創的なアイデアやデザインはリスクと思ってしまうのだろう。たしかに、無難な製品を作っていれば仮に失敗しても言い訳はしやすい。だが、考えてみて欲しい。平均的なユーザーは、「機能やデザインは今のままでよい」と思う人がどうしても多くなってしまう側面がある。商品開発でのキーポイントは、“マーケティングを鵜呑みにしない”に尽きるのではないだろうか。アンケート結果に従うと、値段も機能も中途半端に削ぎ落とされた、誰も満足しない製品になってしまう可能性が非常に高い。加えて、他社との比較をすることによって、発売開始を急ぎ、結果としてソフトの作り込みやクオリティが犠牲にされてしまうケースがいかに多いことか。この現実が多くの国内メーカーで起こっている。あくまでもマーケティングは、製品やサービスのチェックとして使用するべきであり、間違ってもマーケティングに頼った製品づくりはすべきではない。全体を指揮するリーダーや開発者の信念に基づいて、自分たちが満足するものを作っていくべきであろう。
そしてiPhoneがターゲットにしているのは、テクノロジーやガジェット好き、流行やオシャレに敏感な“イケてる”ハイエンドのユーザー層だ。同じように、この端末もイケてるユーザー層を狙いにいく。iPhoneは彼らの心を強烈に揺さぶるような製品であるが、さまざまな理由からiPhoneを含むApple社製品を使わない人は多い。「Macを使いたいと思っているが、互換性や社内PCなどの兼ね合い上、Windows機を使わざるを得ない」というユーザーも多いだろう。このようなユーザーを狙うのだ(余談だが、先日SONYが売却を決めた『VAIO』。Windows機のなかでも唯一と言っていいほどデザインコンシャスなVAIOは、このようなユーザー層が愛用していたPCといえる)。潜在的にこのようなこだわりを持っているハイエンドなユーザー層は、全世界で10%は存在するはず。
端末の値段設定は、iPhoneより安ければいいので、他のAndroid端末との値段差は特に気にしない。これによってコスト的にもかなりの余裕が生まれる。安くて高性能な端末にするのではなく、iPhoneをベンチマークし、それなりの値段ではあるもののデザインと機能が抜群に優れ、目玉機能による差別化を行った究極のAndroid端末に仕上げる。技術的にもコスト的にも不可能ではないだろう。
もちろん、目標は全世界展開。例えば、優れたプライバシー機能を搭載すれば先進国での隠れた需要が掘り起こせる。コミュニケーション好きの南ヨーロッパや南米の市場のニーズも拡大するだろう。全世界の10%のユーザーのうちの半分、5%が購入することを目指し、5年で一気に世界シェアを獲得しにいく。できれば全世界で5000万台規模での販売を達成したいところ。Amazonなど多くの企業がスマホ開発に注力しているという報道もあるが、日本メーカーの要素技術やパッケージング能力の高さは、かなり優位性があると思う。
世界中のスマホで使われている高度な要素技術が日本に数多く存在している。村田製作所のコンデンサー、TDKの電源コイル、東芝のメモリ、ソニーの充電池など例を上げれば枚挙にいとまがない。「iPhoneの部品の50%は日本製」という報道もあった。SHARPは小米にディスプレイを大量に供給している。スマホ開発のコア部分を日本が握り、世界屈指のモバイル市場で培ってきたノウハウもある。あとは、いかに実用性やUI、目玉機能を拡充させていくか、ここに“セットメーカー”としての力が試されている。現場レベルで危機感を持っている人もいるだろう。しかし、ボトムアップ型ではどうしても限界が生じる。統合力を持った経営者や開発者が自らの信念に従って、開発していかなければならない。足りないのは経営者の信念とこだわりに尽きる。しかし残念ながら同じ釜の飯30年のサラリーマン経営者にもっとも足りないのがこの信念やこだわりであることも事実。ただ、幸いなことに、iPhoneというベンチマークすべき良い見本と市場がある。Androidという、さらに巨大な市場も存在する。ソニーやSHARP、富士通や京セラはスマホ開発を続けているが、いつ撤退やスマホ部門の売却をしてもおかしくないのが現状。つまり、今がラストチャンスだ。「ものづくり大国」として世界に名を轟かせてきた日本メーカーだが、その栄光もすでに風前の灯火。その灯火を日本の技術力を結集させた携帯メーカーを発足させ、トップに信念を持った経営者を据えることで大きくしていくことは可能だろう。最後の勝機を見逃し、朽ち果てていくのはもったいないのだ。
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