原宿のパンケーキ屋さんの前には、長蛇の列ができている。
中山さん(貿易事務/29歳)もそのひとりだ。もう1時間近くも並んでいる。でも高校時代から仲よしの友だちとずっとおしゃべりしているのでちっとも待ちくたびれない。
みんな仕事が忙しく、3人で集まるのは半年ぶりだけれど、一気にあのころに戻り、心が穏やかになる。
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「3名様、お待たせしました。どうぞ!」
アロハシャツのコスチュームを着た店員さんが満面の笑みで迎えてくれた。中山さんは、さっそく一番人気のメニューを注文する。
しばらくすると、大きなパンケーキが運ばれてきた。真っ赤な苺と、たっぷりのホイップクリームが雪山のようにとろりとかかっている。大きな口をあけてほおばると、噂どおり、ふわふわでとろけそうだ。
女性客ばかりの店内で、中山さんはふと向かいの席のカップルに目をとめた。いやおうなく先週末の出来事が頭のなかをよぎる。
つきあって3年目の彼が、急に決まった海外駐在に慌しく旅立ってしまったのだ。彼は、すぐ帰ってくるから心配するなと言っていたけれど、ふたりの将来は結局あいまいなまま。ひとりで部屋のなかにいると、どうしてもそのことばかり考えてしまう。
そんなとき、こうやって気の許せる友だちがいることを、中山さんは今日ほど感謝したことはない。
セーラー服を着ていたころからもう10年以上経っているけれど、3人でいると、あのころと変わらず、おなかが痛くなるほど笑う。
離れていても友だちは友だちだな。そう思った瞬間、彼にも当てはまることに気づき、中山さんはパンケーキでふくれたおなかの底から、妙な自信が湧きあがってくるのを感じた。