世間からは「なんで?」と思われることでも、本人に聞くときちんと理由がある。そんな個人の「原動力」に迫ります。
「東京都生まれ、東京都育ちです。母がアメリカ人で父が日本人」
──地元はどこ?
「高円寺。高校も大学もわりと地元に近かったんで、いまでもほとんどその辺で過ごしてます。新宿より先にはあんまり行かない」
──そうなんだ。ところで、EMILYさんがやっているデュオ「HONEBONE(ホネボーン)」の曲って、飾らない歌詞が特徴だね。
「ぜんぜんお洒落なことが言えないんですよね。最初に出したアルバム『Too Many Kisses』は、いまと違ってポップな曲が多くて。まだ若かったし、言いたいこともそんなになかったから、『歌詞ってこんなもんなんじゃないか』くらいで書いてたんです」
──たしかに、1枚目のアルバムは明るめの曲が多いね。
「2枚目からは、まるっきり自分で曲作ってみようって思って。でも、ぜんぜんうまく書けないから、一度相方のKAWAGUCHIさんに、私が昔から書いてる日記を見せてみたんです。もう何十冊もあるんですけど。『私こんなのしか書けないよ』って。けっこう暗い内容なんだけど、相方のKAWAGUCHIさんが『これでいいじゃん。別にうまいこと言わなくていいよ』って言ってくれたんです。じゃあ、歌詞を書くっていうマインドじゃなくて、日記を書くっていう感じで最初に書いてみたのが『するめいか』」
──たしかに1枚目と2枚目だとぜんぜん雰囲気が違う。私、1枚目だと『ドクター』って曲が好きなんだけど、あれって何をモチーフにしたの?
「あれは、うつ病の知り合いがモデル。最初は薬に依存してたんだけど、薬をやめたいからってカウンセリングを受けるようになったんです。そしたら、次はその先生に依存するようになって。その様を書いてます。曲を作るときにモデルになる人はけっこういて、自分のことを書くときもあるかな。『するめいか』もそう」
──『するめいか』っていじめられた側からの視点だよね。いじめられてたのはいつ?
「中学校1、2年でがっつり。女の子ってグループで順番にいじめていくじゃないですか。シカトしたり。多分私も誰かのことしてたんだろうし。それが自分の番の期間が長かったんですよね。でも、当時は自分がいじめられてるってあんまり思わなくて。『あれー? なんか私の番、長いぞ。もう年単位だぞー?』って(笑)」
──どうやってなくなったの?
「当時携帯を持ってたんだけど、いじめてる子たちから変なメールがきたりしてたんですよね。私、強そうに見られるんですけど、ぜんぜん怒れなくて。それを見かねた兄が、ある日『いい加減にしろ。我慢してるのがダサすぎる』って、私の携帯から『ぶっとばすぞコラ』みたいな内容のメールを勝手に送っちゃったんです」
──お兄さん強い(笑)。
「『あーもう終わったー』って思いながら次の日学校に行ったら、普段おとなしかった人があんなメール送ってきたからびびったんでしょうね(笑)。謝られた。その日からいじめはピタッと終わったな」
──その女の子たちとはまた仲良くなれた?
「いや、ぜんぜん仲良くなれなかった。私、当時地毛が金髪でただでさえ目立ってたのに、男勝りで男子とも平気で話してたから、それが気に食わなかったみたい」
──あー、中学生ってそういうところ気にするもんね。
「そういうのもあって、基本的に人を信用してないんですよ。面倒くさいことが嫌だから、ある程度の距離をとってる。とくに女の子は何して遊んだらいいかわからない。たいていお茶で終わるな。どうしても私と会いたいって言ってくれたとしても『何が目的なんだろう?』って勘ぐっちゃう(笑)。あんまり交友関係広く無くて、完全に閉鎖的なんですよね」
──じゃあ男友だちのほうが多いんだ?
「そうですね。飲みに行ってもサクッと終われるからラク」
──なんかちょっと意外。華やかな見た目とのギャップっていうか...。
「それはよく言われます。パーティ好きそうとかね。ぜんぜんそんなことないんです。クラブとかもダメですね」
──自分の性格どう思う?
「完全にひねくれてる。元気な歌とか聞くと、『重た〜い』ってなるんです(笑)。冷たいのがいい」
──それは歌詞にも反映されてるのかな?
「そうですね。考えて書くといい歌詞ってできなくて。たまに歌詞って意識しないで、思うままにひどいことを書きなぐったりもします。『死んでほしい』みたいな。『こんなん使えるかい』って思うんだけど、意外とKAWAGUCHIさんが『これいいよ』って言ってくれる。聴いてくれる人からも共感したって声を聞いたり。そこで気づいたのは、意外とひねくれちゃったほうがみんな共感してくれるってこと」
──案外みんなひねくれてるものなのかもね。
「そう、私の場合はあんまり考えすぎないほうがいいんだと思う」
──たとえばSNSを見てて、他人の華やかな写真が本当は羨ましいのに、「別に羨ましくないし」って斜に構えてみたりね。それがストレスになる。
「わかります。そういうSNSへの思いを歌にしようと思って、いま作ってるんです。私自身、インスタに疲れちゃったんで、思い切って全部フォロー外しました。それによって空いた時間を有意義に使いたいって思ってます。フォロー外したらラクになった。外すまではけっこう悩みましたけど。『なんでフォロー外すの?』って思われるかな? とか。でも、自分がいろいろ悩んでても、他人はそこまで気にしてないんですよね」
──SNSもそうだけど、もやもやした気持ちってどうやって発散してる?
「ブログとか日記とか歌。私のなかで、歌でいちばん暗いこと言えたら勝ちみたいなところがあって。新しいアルバム『船出』は、そういう暗い部分がつまっています。セカンドアルバムの『SKELETON』も暗いけど、それよりも一歩先に行っちゃってる感じ」
「たとえば『空は青いのに』っていう曲は、ある病気で入院している知り合いの家族のことを書いてて。けっこう重い病気だから外にも出られないし、私も面会に行ったことがあるんですけど、その病室には窓もないんです。病室から出たら空がすっごく晴れてるんだけど、その人は見ることができない。そのときの気持ちを書きました」
──けっこうディープな曲だね。
「でも、意外と共感してくれる人がいるんですよね。曲についての長い手紙をもらうこともあるし。あと、よく相談されることも多い。でも、私どうしていいかわかんなくて。この人はアドバイスを求めているのか、ただ話を聞いて欲しいのか、その対応が見極められない」
──けっこう相談されるんだ。
「インスタでも相談がくることがあります。でも、私、文字に敏感で、そういう文章読むと持ってかれちゃうんですよね。自分までガーンって暗くなっちゃう。それで感情の波ができる」
──気をもらっちゃうんだね。落ち込んだときはどうなるの?
「落ちるときは、もうどんな言葉を言われてもダメですね。でも、自分が文字に敏感だって気づいてから、落ち込んだときは相方に『なんでもいいから論理的に励ましてくれ』って言ってます」
──論理的に?
「そう。『元気出せ』じゃなくて、『こうこうこうだからこうなると思えばいいじゃん』って言ってって。それで、実際に言ってもらうと心がすっと軽くなる。モヤモヤしたままが耐えられないから、その原因をとことん突き詰めたいんです。明日になれば忘れる、とかができない」
──おもしろい気分の上げかただね。
「だから、人付き合いも面倒くさいと思う。友だちとケンカしたら、最後までどう解決するか話し合いたくなっちゃうし。彼氏にも納得できてなかったら『さっきの話の続きなんだけど』ってもちかけちゃう。別に怒ってるわけじゃなくて、ただディベートしたいだけなんだけど、かわいげないんでしょうね(笑)」
──KAWAGUCHIさんとはいい関係性だね。
「そうですね。KAWAGUCHIさんがいないと、私は音楽ができないと思う」
──歌はいつから始めたの?
「歌は15歳ぐらいのときに、近所のよくつるんでるお兄ちゃんたちがバンドを作るからって誘ってくれたんです。ボーカルは女の子がいいんじゃないかって。本当軽いノリで始めたんですよ。そしたら、私と相方のKAWAGUCHIさんだけやめるにやめられなくていまに至る、みたいな感じ」
──バンド始めるまでに歌ってやってたの?
「それが何にもやってなくて。当時の音源とか残ってるんだけど、誰に聴かせても『超下手だね』って言われる。ライブハウスに行っても『お姉ちゃんハーフで目立つのはいいけど、歌が下手だしダメだね』って言われてました。やっと17歳くらいで自分が歌下手だってことに気づいて、ボイトレに2年くらい通いました」
──けっこうはっきり言われたんだ。
「もうめちゃくちゃ言われてましたね。自分ではそこまで下手とは思っていなかったけど。気づくのが遅かった(笑)」
──HONEBONEのメロディって男前だよね。
「それは完全に私が好きなアーティストが男性ばっかりだからかな。イエモンの吉井さんが好きなんです。ああいうひねくれた感じが。私自身、女の子っぽいことができないし、わからないから。雑誌とかもほぼ見ないし。お洒落にも興味無い」
──そうなんだ。じゃあ普段は何着てるの?
「Tシャツにジーンズです」
──シンプルだね! 何してるときがいちばん好き?
「しゃべってるとき。歌ってるときよりMCのときのほうがテンション高いし、生き生きしてるって言われる。バラエティ番組に出てみたいんですよね。あとはお笑い見てるときがしあわせだな」
──お笑い好きなんだ。好きな芸人さんは?
「かもめんたるさん。好きすぎて、ライブにいったりして、交流をもたせていただいてます。もうお笑いの話を聞けるだけでしあわせ。お笑い好きなのに、曲は暗いっていう(笑)。でも、曲が暗いからこそMCとかでメリハリつけたいっていうのもある」
──曲とMCでいいバランスだね。これからどうなりたい? HONEBONEとしても、個人としても。
「いまは音楽で生活してるけど、もうちょっとゆとりができたらいいな。だから、HONEBONEとしては、CDの枚数も売れて、メディアにも出て、認知度を上げられたらって思う。自分自身としては、完全にHONEBONEに左右された生活なので、自信を持ってやれる仕事にしたい。いまはやってることがインディーズバンドなんで、いろいろな人に何やってるかわかんないって言われるんですよね。いちいち説明しなくても、これで生きてるってわかってもらえるようになりたいですね」
「でも、結局は認知させることでしか証明できないって思ってます。だから、いまは『わからない』って言われてもしょうがないなって思いながら活動してる。そういう意味では、他人の目は気にしてないですね」
──結果を出すことがいちばんの近道だね。
「私たちと同じような位置のインディーズバンドには、意外とハングリー精神が少ない人が多いと思うんですよね。音楽にはこだわってるけど、バンド活動を本気でお金にしようとしてないっていうか。それはそれでかっこいいんですけど、私たちはお金を作っていかないと生きていけないから、グッズもたくさん作るんですよ。それをライブハウスで並べてると、ほかのバンドさんやお客さんから『どこに力入れてんだ』みたいに冷やかされることもある。私たちが露骨にハングリーすぎて、そうやって距離を置かれちゃうことはあるかもしれないですね」
──なるほど。
「打ち上げで飲みながら夢を語るとかも得意じゃないです。夢を語るときは、ちゃんと具体的に計画立てないと意味ないって思っちゃう」
──それも論理的に突き詰めたいっていうところにつながるんだね。
「本当そう。『いつか売れようぜ』みたいなことはもう言えないですね。それなら、シラフのときに話し合って、イベントをいつ組んでそう宣伝するのかって具体的な話をしたい。無駄が嫌いなんですよね」
[HONEBONE EMILY official blog, Twitter, Instagram]
撮影・取材/グリッティ編集部
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