小説から映画にもなった『プラダを着た悪魔』は、米国VOGUEのアナ・ウィンター編集長がモデルと言われる人物のありえないブラック上司ぶりと、それにひたすら耐えるアシスタントを描いた作品です。
鬼編集長が次々と繰り出す要求が無茶すぎてコミカルだったことや、ファッショナブルな衣装も目に楽しく、話題作となりました。
『プラダを着た悪魔』はアナの近しい人には極めて不評だったファッションに興味のない人でも楽しめた作品でしたが、アナ本人はそれについての言及をこれまでずっと避けてきました。
というのも、この作品は部外者が想像で作ったものではなく、実際にアナのアシスタントを務めていた女性、ローレン・ウェイスバーガーがその経験を元に書いたものだったからです。
アナに近い人物――。
たとえば米VOGUEで長年アナの右腕を務めたグレース・コディントンは自伝のなかで、「彼女(ローレン)は、アナの性格をばかにすることでお金を稼いだだけ」と言っています。
グレースが言うように、映画も原作も、実際のアナに近い人にはきわめて不評だった模様。
アナが初めて映画について言及でも、その『プラダを着た悪魔』に、アナが初めて公の場で言及したのです。
舞台は、11月14日に開かれた雑誌『Glamour』による「Women of the Year」の授賞式。
受賞者のひとりとなったミウッチャ・プラダを紹介する役割を務めたのがアナでした。ミウッチャとは毎年、ミラノでのプラダのショーの後にランチする仲だと言って、こう語りました。
何年も前、プラダと私の名前が、ある本のタイトルになり、その後、映画にもなりました。(略)ミウッチャと私はその話を一度もしたことがなかったのですが、あるランチのとき、彼女がテーブルの向こうから顔を近づけてこう言ったんです。
「アナ、あの本、あれは私たち両方にとって良いことよ」と。
それからこの話題は、ふたりの間で二度と出てきませんでした。
もちろん、ミウッチャの言うとおりです。それからずっと、私は彼女の静かな自信にインスピレーションを受けています。今夜祝福するのは、そんなプラダの格別に広い心、そして寛容なヴィジョンです。素晴らしい誇りと愛をもって、ミセス・プラダをご紹介します。
The Cutによれば、最後の方はつまり気味に話していたというアナ。何かこみ上げるものがあった様子だったそうです。
アナはこの作品についてずっと何も言わずにいたけれど、きっとものすごく深く傷ついていたんでしょう。ミウッチャはそれに最初から気づいていて、あえてほとぼりの冷めたころ、温かいひと言でそれを癒やしてくれたのかもしれません。
アナとミウッチャの余計なことは言わない聡明さ、人としての器の大きさ、そして大人の友情、憧れます!
[The Cut]
写真/gettyimages
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