「haptein」はスキンシップ、「nomos」は規律や方法という意味。簡単に言えば、アプトノミーは「(妊娠19から20週目くらいから始めることのできる)胎児とのスキンシップの方法」ということになります。
おなかの赤ちゃんとスキンシップ
胎児とスキンシップと聞くと、なんだか眉に唾をつけたくなるかもしれませんが、じつに大真面目なもの。アプトノミーを打ち立てたのは、20世紀半ばのオランダの医師Frans Veldmanという人だそうです。
フランスでは、ここ20年ほどで徐々に広がり、いまでは社会保険でカバーされるほど認知度も上がっています。指導するのは、アプトノミーの資格を持つ助産婦さん。ただし、受けるのは義務ではなく、希望者のみの準備講座のようなものです。
具体的にどんなことをするの?
一般には、妊娠中に8回くらい講座を受け、その時々、胎児の大きさによって、異なる手の動きを習います。重要な点は、ママだけでなくパパの存在が不可欠であるということです。あくまで赤ちゃんとパパとママ、3人のふれあいなのです。
たとえば、女性のうしろから男性が支えることで、女性だけでなく胎児も同じようにリラックスすることができるそうです。そして声をかけながら男性がおなかの上から優しく刺激を与えると、胎児もそれに反応するそう。
胎児にとっては、ほぼ初めての「触感」による触れ合いとなります。講座でこれらの動きを習ったら、それを家で定期的に行うことが大切です。
経験者夫婦の話
実際にアプトノミーを経験したという私の友人、ピエールとアンヌクレールに話を聞いてみました。
彼らの場合、経験者である友人の熱心な推薦を受けて、資格を持つ助産婦さんに会いに行ったのが始まりだとか。
おもしろいことに、その助産婦さんは最初に必ず面接を行い、その夫婦がアプトノミーに適しているかどうか見極めるのだそうです。夫と妻、ふたりに「胎児とコミュニケートしたい」という意欲がなければ、講座を受けてもムダということなのでしょう。
最初はどんなものか、おっかなびっくりで体験してみたという友人夫婦。初めての講座はどう感じたのでしょう。
ピエール:教えられた動きはとても簡単だったよ。じつは、アプトノミーと知らず、家でもしていたような動きだったんだ。違ったところといえば「聞くこと」かな。胎児の動きや反応をどういう風に感じたらいいかは、そこで初めて習ったよ。
アンヌクレール:講座の時間が思ったよりずっと短くてびっくりしたわ。でも、それはそうよね。やり方を教わるだけで、あとは家でするものだものね。
アプトノミーの楽しさ
講座終了後、さっそく家でアプトノミーをしたときの感想については、こんな風に語ってくれました。
ピエール:胎児が大きくなってくると、だんだん場所を取るから同じようには動けなくなるんだけど、5か月から7か月の頃はすごく反応して楽しかったな。
僕がおなかに手をおいて名前を呼ぶと、僕の手にぴったり寄り添うようにやってくるんだ。さらにそのまま反対側に手を持っていくと、ついてくるのがわかるんだ。
不思議なことに、胎児を身体のなかでも感じる女性は、かえって、おなかの上に置いた手のひらで胎児の動きを感じるのが難しいそうです。また、男性の低い声の方が、胎児の反応を呼びやすいという意見もあります。
いずれにせよ、ふたりが口を揃えていうのは、アプトノミーのおかげで、妊娠期間を夫婦ふたりで楽しむことができたということ。
普通の妊娠前検診や出産準備プログラムだと、男性の居場所はあまりありませんよね。しかし、アプトノミーでは男性はいてもらわなければ困る存在なのです。
出産と育児に違いは出る?
かといって、友人夫婦もアプトノミーを盲信しているわけではなく、たまたま自分たちに合うメソッドだったと思っているようです。
実際、アプトノミーを経験したことで、出産とその後の育児に違いがあったか聞いてみると、次のような慎重な答えが返ってきました。
ピエール:比べられないからわからないな。でも初めて赤ん坊を腕に抱いたとき、もっと緊張するかと思っていたのに、意外なほどリラックスしていたかな。
アンヌクレール:出産にリラックスして臨むことはできたわ。それがアプトノミーのおかげかどうかはわからないけど。
アプトノミーの効果については明確には言えませんが、ひとつ言えるのは、妊娠期間を女性だけのものでなく、夫婦のものとするのに、一役も二役も買っていたということ。
また、友人夫婦に話を聞き、アプトノミーを通して男女とも親になる心の準備をしていく部分も大きいと感じました。加えて、女性は出産に備えて身体の緊張の解き方を覚えるメリットもあります。
アプトノミーを経験した赤ちゃんは、落ち着いた手のかからない子だという話も耳にしましたが、こればかりは個人差があるでしょうし、比べられないのでわかりません。ただ、ピエールとアンヌクレールの赤ちゃんは、私の知る新生児の中でもとりわけ手のかからない赤ん坊だということを言い添えておきましょう。
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