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天然の地下水と太陽の光で育つ「おひさましいたけ」。永島農園(神奈川)【やさいの現場】

2015/07/24 21:00 投稿

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今日は神奈川県横浜市のシイタケ農家、永島農園を訪れました。代表の永島太一郎さんは元外資系銀行員。3年前からシイタケとキクラゲの栽培に取り組んでいます。キノコ? キノコって畑で育っているの? そもそもキノコってやさい? でも八百屋さんとかスーパーの野菜売り場にあるもんね、ってことで、さっそく農園を案内してもらいました。

農園内のハウスの戸を開けると熱帯のような温度と湿度の中、茶色いブロックが整然と並んでいます。そこからにょきにょき、と顔を出すシイタケ。大小さまざま、シイタケってかわいいんですね。思わず「シイタケくんっ」とよびかけたくなるかわいさ、鼻を近づけるとプワ~っといい香りがします。

「ブロックは菌床といってクヌギ、ナラなどの木を細かくしたおがくずのベースと米ぬか、とうもろこしの芯の栄養分でできています。菌床にしいたけ菌が植え付けられ、温度・湿度が整うと、こうやってシイタケがにょきにょき、と」。なるほど、キノコって木の子。木から生まれて栄養分を食べて大きくなるんですね。そしてキノコは湿気が大好き。なのでハウス内の湿度は100%。人にはつらいけれどシイタケにとっては最高の環境です。

湿度計のメモリはちょうど100%。冷房は使わないので夏はサウナ状態。

農園内の直売所のオープン時間にあわせて朝7時ころから収穫する。お店には毎朝穫れたてのシイタケが並ぶ。

「ハウスには、昔飲み水に使っていた地下水を霧状にして散布しています。ふつう菌床シイタケは暗く、工場のような蛍光灯の光の中で作られます。木に菌を植え付ける原木シイタケは逆にこもれびが入るような明るいところで育ちます。うちのシイタケは原木に近い環境で育てたい、とハウスのビニール越しにおひさまの光をあびています。なので『おひさましいたけ』、と名前をつけました」。天然の地下水とやわらかい太陽の光、健康なシイタケが育ちそうです。

ひとつずつ手で菌床をたたく

トントントン、太一郎さんが菌床をたたきはじめました。「こうやってたたくとたくさん出てくるんです。シイタケはショックがあると活発になってでてくるんです。なのでたたいたり、水につけたり」。カミナリが鳴るとキノコがよく生える、という言い伝えがあるとか。命の危機を感じるとキノコを作り胞子をだして生き延びようとする、なんだか不思議な菌の世界です。

右が新しい菌床、左は2ヶ月後の菌床。栄養分がなくなり小さくなっている。

「実はシイタケには品種があります。こっちはトネ、あっちはアカヤ。見た目はほとんど同じですが(笑)」。たしかにどこが違うの? 素人にはまったく違いがわかりません。

「スーパーに並んでいる品種は大きくて形がよいのが多いです。でも僕はおいしいシイタケを作りたいので香りや味、うまみにこだわって品種を選んでいます」。

安心して食べられるように殺菌剤、農薬を使わない。「洗うとうま味も流れてしまうのでぜひ洗わずに食べてほしい」。

「おひさましいたけ」のように健康的でさわやか男子の永島さん。シイタケを熱く語る姿からは元外資系銀行員の姿が想像もつきません。なぜシイタケ栽培を?

結婚したい人がたまたま農家の娘さんでした。彼女に『結婚する人は一緒に農業をできる人』って言われて。農業? って思ったけれどそれでも結婚したかった。それで彼女の実家の永島農園を継ぐ前に千葉の農業団体で3年間研修をしました。研修先は野菜、くだもの農家などいろいろでした。あるときシイタケの農家さんのところで穫れたてのシイタケをその場で焼いて食べさせてもらって。びっくりしたんです。シイタケってこんなに美味しいんだって。それまではばくぜんと農業、と思っていましたがシイタケ栽培やりたい、と思って」。

シイタケは夏の熱さに弱い。冷房を使わないので夏の間はかわりに生キクラゲを栽培する。生キクラゲは夏が旬、そのまま細切りにして和え物などにするとコリコリと食感が楽しめる。キクラゲはビタミンD、鉄分、カルシウムなどの栄養素が豊富なのでアンチエイジング効果があると注目されている。

太一郎さんはさっそく先代のおじいちゃんに相談、「おもしろそうだからやってみろ」。その言葉に背中を押されシイタケ農家のもとで研修、栽培をイチから教わり3年前から永島農園で栽培を始めました。

「おじいちゃんはお花農家でしたから僕にも花の栽培を、と反対されるかもしれないと思っていました。でも新しいチャレンジを応援してくれた。農法など技術的なことは全く違うので教わりませんでしたが、時代に合わせて新しいものを作っていく、というチャレンジ精神は学びました」。昨年亡くなられたおじいさまはその当時、横浜ではめずらしかった花の栽培をはじめた先駆者。本牧の米軍住宅までひとり自転車で花を売りに行きマーケットを開拓、花農家として成功をおさめました。

時代に合わせてチャレンジしていく精神を僕も次の世代に引き継いでいきたい」。太一郎さんもまた、試行錯誤しながら新しいことに挑戦中です。

敷地内には戦時中、防空壕として使われていた洞窟がある。ひんやりとした天然の環境を利用して白キクラゲの栽培に挑戦している。「白キクラゲはデリケートで難しいんです。まだまだ研究しないと」。

生の白キクラゲはとても貴重。

研修先では、農家は野菜を作ることも大切だけれどどうやって食べてもらうか、買ってもらうかも大切、と学んだ太一郎さん、農園の敷地内で直売所をオープンしました。

「最初はシイタケだけを売っていました。お客さんに他の野菜はないの? と聞かれるようになったので研修先や地域の仲間の野菜をおくようになりました」。仲間の野菜は有機栽培、特別栽培の野菜がほとんど。野菜だけでなく生産者のことも知って欲しいと直売所は情報を発信する場ともなり、おいしく新鮮な野菜を求める地域のお客さんに人気のお店になりました。

太一郎さんと妻の陽子さん。お店は月~土曜日、9~12時営業。近所のお客さんやシェフが訪れる。

直売所ではお花も購入もできる。

農園には建築家と一緒に自分たちで作ったという本格的なピザ釜がある。

「これからはもっとたくさんの人が来れる農園にしたいんです。シイタケ狩りやピザ窯で焼いたシイタケピザの食事会などイベントを企画して、来て見て少し体験してもらって。ここが農業を知る最初の一歩になればうれしいです」。ピザ窯で焼いた穫れたてシイタケピザ! おいしそうです。ぜひ呼んでくださいね。

シイタケのソテーのレシピ

ふだんから台所に立ちお料理もするという太一郎さんにシイタケ料理を一品作ってもらいました。「シイタケは軸にうま味があっておいしい。ウチのシイタケの軸はやわらかいので捨てずにまるごと使ってください」。

◆材料

シイタケ、オリーブオイル、塩、こしょう

◆作り方

1.シイタケをかさと軸に分け、それぞれ2~3mm幅に薄切りする。

2.フライパンを強めの中火で熱し、オリーブオイルを入れる。

3.温まったらシイタケのかさと軸を同時に入れ炒める。火は強めで少し表面に少し焼き目をつけ香りをだす。

4.香りがでてきたら火を弱め塩、こしょうを入れる。

取材を終えて

フライパンからはシイタケのいい香り! 材料はシイタケのみというシンプル料理でしたがうまみにびっくり。時間をかけずに手早く美味しく食べられる、シイタケが主役となる一品、ごちそうさまでした。

永島農園のシイタケ・キクラゲを買えるところ

永島農園直売所

永島農園のシイタケ・キクラゲを食べられるところ

たのし屋本舗

海彦

驛の食卓

レストラン ラタトゥイユ

[永島農園]

(撮影・文/柳原久子)

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