「昨今、正しくあろう、前向きでありたい、と思うあまり、自分を責めすぎたり、心の暗がりを否定しすぎたりして、苦しんでいる人が少なくないように見えます。私たちは本来、みんな大きくちがった存在なのに、どこかにある正しさに自分を合わせようとして必死になっている人もよく見かけます。」
(『黒い鳥の本』序文より引用)
これは、6月16日に刊行された石井ゆかりさんの著書『黒い鳥の本』(パイインターナショナル)の一節です。手のひらほどの大きさで、美しい木版画のイラストがふんだんに散りばめられたこの本は、ビブリオマンシーという古くからある占いのスタイルにのっとっています。辞書や聖書など、厚みのある本を自由に開いて、目に止まった言葉を「お告げ」とするもので、やってみたことがある人も多いかもしれません。
石井さんは今まで3冊のビブリオマンシー本を出されていますが、新作の『黒い鳥の本』のテーマは、「心の中の一番暗く湿った場所」。本をぱっと開くと、そこにはいつもの石井さんの文章とはすこし違う、胸が痛むような鋭さのある言葉が待っています。
ネガティブなわたしも、打ち消さなくていいわたしがこの本を最初に開いたときに出てきたのは、
「やる気がおきなくなったとき休むべきなのは
やる気をふやすためではなく
中途半端に残っているやる気をたたき出すためなのだ。
やる気がないのが辛い
と思えるくらいに、
うっすらやる気が残ってるから、辛いのだ。」
(『黒い鳥の本』26ページより引用)
という文章でした。思い当たるフシがありすぎてドキンとすると同時に、「そうだったのか......」と妙に気持ちが楽に。もやもやした悩みを、誰かがだまって聞いてくれたときのような、不思議な安心感がありました。
『黒い鳥の本』の言葉に触れていると、自分のみっともないところや嫌なところを、いろいろと思い出してしまいます。でも、それが決して不快ではないのです。心の水面に小石を落として、波紋をじっと見ているような感覚。波がおさまると、不思議と気分が落ち着いて、光に向き合う勇気がわいてくるような気がします。
指先がおもむくままにページを開けば、きっと何かが得られるはず。辛らつだけどあたたかい友だちのような、愛おしさを感じる一冊です。
[黒い鳥の本]
Vintage books via Shutterstock