1月31日から公開になる映画『バベルの学校』は、パリの中学校が舞台のドキュメンタリー。アイルランド、セネガル、ブラジル、モロッコ、中国など24人20国籍の生徒たちが、フランス語が話せない子どものための適応クラスに入ります。
母国の生活から逃れるため、などさまざまな事情でパリにやってきた彼ら。通常クラスに移るため、フランス語をはじめ他の教科も学びながら友情を育み、ときにぶつかりながらも成長していく姿をカメラは追い続けます。
「世界の縮図」のようなクラス国籍も宗教も、パリにやって来た理由も違う生徒たち。彼らは、慣れないフランスでの生活に悩み、軋轢を生じさせながらも、その違いやバックグラウンドを超えて、必死に前に進もうとします。
そんな彼らの姿を見ていると、全員に感情移入し、彼らを応援している自分がいて、最後には表情も発言も成長した生徒たちひとりひとりに涙が止まりませんでした。
監督を務めたのは『パパの木』や『やさしい嘘』で知られるジュリー・ベルトゥチェリ監督。1968年生まれの女性監督とあって、鑑賞者と距離を感じさせない目線で撮られ、スクリーンを通しても母親的な優しさが伝わってきます。
さらに本作で印象的なのが、担任のブリジット・セルボニ先生です。この適応クラスが、先生にとっては人生最後のクラス。最初は言葉も通じなかったり、反抗的な生徒もいるのに、
優しく、ていねいに、辛抱強く生徒たちと向き合い、通常クラスに移ることができるように指導していきます。
右がジュリー・ベルトゥチェリ監督、左がブリジット・セルヴォニ先生。©UNITED PEOPLE
年ごろの生徒たちの扱いは、普通のクラスですら大変なもの。それが、フランスに来たばかりの子どもたちとなったら想像を超える苦労があると思うのですが、生徒それぞれの個性を尊重し、常に寄り添います。
昨年フランス映画祭で来日した際、ブリジット・セルヴォニ先生はこんなふうにコメントしていました。
子どもたちはみんな非常に情熱的です。確かにこの仕事は難しいですが、私たち教員の側も情熱を掻き立てられます。 子どもたちはいろんな経験を経て、学校に来ています。それも自ら望んだのではなく、両親の意向や、さまざまな経済的・政治的理由で来ています。子どもたちには、自分が経てきた困難や辛い生活を言葉にして、表現する機会を与えるようにしています。
ひとりひとりが話すことによって、自分だけが苦しんでいるわけではないこと、自分はひとりで生きているわけではないことを伝えたいのです。また、自分の国のことを一生懸命話そうとすると、「言葉を覚えないと」と言語学習のモチベーションもあがってきます。
生徒たちひとりひとりのがんばりと、先生の熱心な指導によって、どんどん自信をつけていく子どもたち。学校という教育の現場は、将来、社会に出るにあたって、とても大事な場所なのだと改めて感じました。
最後にまた、ブリジット・セルヴォニ先生のコメントをご紹介します。
異文化に触れることでさまざまなことを学ぶことができますし、それは生きるうえで大切なことだと思います。
そもそもフランス文化も、たったひとつの文化で成り立っている訳ではありません。違いとは、ひとつの豊かさの象徴なのです。それを糧にして生きていく必要があると思います。
今回のフランスのテロ事件で、移民の受け入れをはじめ、世界が抱えている問題を目の当たりにしました。根底にある歴史や複雑な現状、格差はすぐには埋められないかもしれませんが、世界のいろんな国からやってきて、同じ教室で、机を並べて、悩みながら、ともに歩んでいく生徒たちの笑顔をみると、彼らから教えてもらうことがたくさんありそうです。
[バベルの学校]
2015年1月31日より新宿武蔵野館/渋谷アップリンクにて劇場公開。全国順次公開
監督:ジュリー・ベルトゥチェリ
編集:ジョジアンヌ・ザルドーヤ オリジナル
音楽:オリヴィエ・ダヴィオー サウンド:ステファン・ブエ、ベンジャミン・ボベー ミキサー:オリヴィエ・グエナー
制作:Les Films du Poisson、Sampek Productions
共同制作:ARTE France Cinema 配給:ユナイテッドピープル
原題:La Cour de Babel
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
フランス/2013 年/フランス語/89 分/1.85:1/カラー/5.1ch/ドキュメンタリー
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