この技法は、紀元前16世紀頃のメソポタミアで生まれたもので、19世紀末のアールヌーボーの時代には秘密とされていたことも。そのような経緯や量産に向かない製法のため、過去に2度も消滅してしまいますが、1970年代に入り復興されました。その技法を用いて美しい作品を生みだしているのが、ガラス工芸作家「Mellow Glass」のタナカユミさん。
透明なガラスで作られる街並みはひんやりしているのに、柔らかな日差しのなかでとろけるようなあたたかな質感。時が止まり、音がしんと静まったようなガラスの世界。じっと見ていると、吸いこまれてその街に迷い込んでしまったのではないかと錯覚してしまいそうです。
花や木の実を組みあわせたガラス標本は、不思議な空間へといざなってくれます。大切な宝物のような独特な雰囲気はまるで絵画のよう。ここから素敵な物語がはじまっていきそうです。
シャンパンの泡のような細かな気泡はPâte de verreの特徴。透明な部分と半透明な部分、そしていくつもの気泡が、無機質であるはずの硝子にさまざまな表情を与えます。まるでいろいろな記憶や想いがそこに留まっているようです。
この技法で用いる型は粘度で形成されるので、ひとつの型からひつしかつくられません。完成作品は世界にただひとつのものになります。作品の完成までに30~50日を要する長い工程のなか、タナカさんは日々呼吸するように作品と向きあい、手のなかで大切に仕上げていきます。うれしかったり、楽しかったり、こころの景色を形に込めた作品の数かず。少し足を止めて覗いてみると、なつかしい気持ちがふんわりと心に顔を出すかもしれません。
空気がきりっと冷える季節、広尾で展示会が開催されます。水彩画家、今井さんとのふたり展。絵本のなかに入りこむような素敵なひとときが味わえそうです。
[Mellow Glass + 空詩土 今井和世 「ねむれる森」]
日時:2014年11月18日~12月25日
場所:bistro avec