インドの首都、デリーのスラム街の中心部。ちいさなテントが多く立ちならび、たくさんの家族が生活しています。ここで暮らす子どもたちはすこし歩いたところにある世界的に名の知れたスパイス市場にまで、週3日ほど足を運びます。そこらじゅうに落ちているごみを集めるためです。
そのゴミには、市場で売っている唐辛子やナツメグなどのスパイスが混ざっています。子どもたちはごみを丁寧に取りのぞいたあと、スパイスだけを小袋に詰めて、道端で安く売ることで生計をたてているのです。
未来ある子どもたちを救う、子ども銀行
将来ある子どもたちをひとりでもスラムから助け出したい。独りだちする術(すべ)を身につけるには、子どもたちにもお金に関する知識とやりくりの仕方を教える必要があるのではないか。
そう考えた支援団体が、スラムで働く子どもたちが集めた大切なお金を預ける場所として「子ども銀行」をはじめました。子どもたちはだれでも口座を開くことができ、ひとりひとり貯金通帳をもつことができます。
「子ども銀行」は拡大し、いまでは300店以上の支店ができました。お客さんだけでなく、なんとスタッフもバンク・マネージャーも子ども。子どもたちはお金を預けるだけでなく、1回は給料の支払われるバンク・マネージャーを任されることになっています。
子ども銀行のシステムたとえば自分でお店を出したい場合などは、子どもでも融資を受けることが可能です。マネージャー同士が集まって話しあう会議もあります。クレジットカードもない「帳簿をつける」システムの、ちいさな銀行。けれど、このビジネスモデルが果たす役目はかぎりなく大きいのです。
子ども銀行にお金を預ければ、もちろん利子もつきます。支援団体の協力により3.5%と高めに設定されていて、お小遣いをもらったり、すこしでも手持ちのお金ができた子供たちは、いそいそとやってきては楽しく貯金しているのだそう。一方、マネージャーを務める子供たちは、お金の価値や考え方、責任感、信用というものを学んでいきます。
生活を立てなおす子どもたちこの団体は12歳ぐらいの子供たちを集め、まずはバンク・マネージャーを育成することから始めます。たとえば、ある男の子は6人兄弟のいちばん上。母親が現在7人目の子供を妊娠中であること、彼の父親が病気で働けないことから、家族を養うためにとマネージャーを志願しました。
家族で銀行口座を持つのは彼ひとりで、1日に500ルピー(日本円で899円ほど)をかせぎ、そのほとんどが家族の生活費として、残りのいくらかを貯金にまわしています。
ある男の子は同じようにしてお金をため、学校へ通い、ホテルのレストランでインターンシップの機会を得ました。そうして得た仕事では適正な給料が支給され、彼はスラム街の外にアパートを借り、さらにキャリアを積むように。安定した暮らしを立てることができるようになったのです。
ちいさなビジネスがつなぐ明日への希望インドでなくても、世界中どこでもこのような銀行システムがあれば、子どもたちはちいさいうちからお金にきちんとかかわっていけるのではないでしょうか。
ちいさなビジネスモデルから、多くの子どもたちの夢をサポートする大きなプロジェクトへ。世界中で、いま注目されています。
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photo by Thinkstock/Getty Images