Photo Credit: Shake Shack - Brooklyn, NY
これは、現在世界69カ国で広がっている、「Before I die...」(死ぬ前に私は......したい)という文字で埋め尽くされた伝言板です。事の発端は、2009年、女性アーティストのCandy Change(キャンディ・チャン)さんが、母親同然の存在だった人を失い、死について考えるようになったことに遡ります。
その時のことを振り返り、チャンさんはこう語っています。
死について考え、自分に与えられた時間をありがたく感じることができ、また、大切な物が何なのかはっきり見えるようになりました。ただ、日常の些細な出来事に追われ、その気持ちを持続するのは難しいものでもありました。
同時に当時チャンさんは、「自分の人生を永遠に変えるようなものはないか」とも考えていました。そこで、自分の住む大好きな街・ニューオーリンズで、見捨てられた廃屋の壁を大きな伝言板に変え、『死ぬ前に私は......したい』という穴埋め形式の言葉を何列にもわたって書きました。
そこを通りがかった人が、置いてあるチョークを手にとり、「自分の人生を振り返り、個人的な望みを公共の場で共有できるようにした」といいます。そして翌日、その伝言板を見に行くと、巨大な壁につくられた伝言板はたったの一日で埋まりきり、さらに広がり続けていたといいます。
Photo Credit: Candy Chang - New Orleans, LA
そこで書かれていた言葉の一部をご紹介します。
「死ぬ前に木を植えたい」
「死ぬ前に日付変更線をまたぎたい」
「死ぬ前に何百万人もの人の前で歌いたい」
「死ぬ前に自給自足生活をしてみたい」
「死ぬ前に彼女をもう一度抱きしめたい」
「死ぬ前に本当の自分になりたい」
一人ひとりが、忙しい日常生活の中ではなかなか思い描くことができない、「秘められた本心」。それについて考え、書きつづることができる空間と時間が、そこには用意されているのです。
当時落ち込んでいたチャンさんは、「この見捨てられた場所が、みんなの夢や希望を見て、意味を持つようになった。(いろいろな人の言葉を見て、)すごく笑い、また涙を流し、つらい時にもなぐさめられた。自分は1人ではないんだと思えた」と語っています。
この伝言板の意義は、自分にとって何が本当に大事なことなのかを思い出せる場所であると同時に、近所の人とのつながりや、近所の人を開かれた目で見られるようになるということにもあります。公共の場に人びとが伝えたいことを表現し、お互いに共有できる空間を築くことで、今までになかった見えない絆がうまれていきます。
Photo Credit: Kristina Kassem - New Orleans, LA
チャンさんは、私たちの人生でいちばん大事なものについて、こう語っています。
いちばん大事なものは時間と、他の人との関わりです。気をそらされる要素の多い時代にあって、全体を見失うことなく、かつ人生はもろく短いということを忘れずにいるのはすごく大事なのです
また、「死」という普段は避けがちになるトピックについて考えることについて、自身の経験からこう述べています。
死に備えることは、これ以上なく力をあたえてくれるものだと気付きました。死について考えることは、自分の人生をはっきり見せてくれます。また、希望や恐れや体験を共有することで、より良い場所を作り、さらには、よりよい人生を歩めるよう助け合うことができるでしょう。
この伝言板は世界中の人びとの共感を呼び、アフリカ、オーストラリア、オランダ、フランス、ドイツ、そしてアジア諸国へと広がっています。
物事の真理を見抜き、人に希望を与えながら人と人のつながりをも実現しているチャンさんは、偉大なアーティストであると言えるでしょう。各国の模様に興味がある方は、こちらからどうぞ。
Thanks to Before I die...