日本各地には、星や月にまつわる土地や神社仏閣がたくさんあります。なかでも、5月の満月の夜に注目したいのが、京都の鞍馬寺(鞍馬山)です。
鞍馬寺の仁王門(受付所)。本殿までは、お散歩がてら由岐神社や九十九折を経由して行くのが気持ちいい。ケーブルカーを利用するのもオススメ。
鞍馬寺の特徴は、宇宙の大霊とされる「尊天」を信仰しているところ。尊天とは、月輪の精霊(愛)・太陽の精霊(光)・大地の霊王(力)を一体として称したものです。そのため、「月のように美しく、太陽のように暖かく、大地のように力強く」と祈り、「すべては尊天にてまします」と唱えます。お寺といえば釈迦や菩薩をイメージしますが、鞍馬寺はこのようにとても宇宙的なのです。
本殿金堂。正面にある「六芒星」の中心は、パワースポットとして有名。ウエサク祭では聖火を灯す場所として飾られている。
5月の満月の夜に行われる秘儀「ウエサク祭」そんな鞍馬寺では、毎年5月の満月の夜に、すべてのものの「目ざめと平和」を願って、「ウエサク祭(五月満月祭)」が繰り広げられます。5月の満月の夜は、天界と地上の間に通路が開け、強いエネルギーが降り注がれると信じられてきました。古くから鞍馬山では秘儀が続けられていましたが、戦後にこの秘儀を「ウエサク祭」として、鞍馬寺で広く公開するようになったのです。
ウエサク祭は、月が東の空に現れる頃に始まります。昇ってくる月に水を捧げ、満月の光を受けた明水をいただいたり、大地に腰を下ろして月に向かって瞑想をしたり、ろうそくに灯をともして掲げたり。月が没するまで夜を徹して続く、それはそれは美しく、静かで神秘的な祭典です。私もこの祭典に参列したことがあります。満月の光をたっぷりと浴びた、ひんやりとした神聖な水を飲んだときの、体にしみわたる感覚は、今でも忘れられません。
毎年三部構成で夜通し行われるウエサク祭ですが、今年から第一部のみとなるそうです。儀式のすべてを体験できなくなるのは残念ですが、山の厳しい寒さの中で野宿する必要がなくなるので、これまで参列をためらっていた人にもチャンスが巡ってきたといえるかもしれませんね。
純粋無垢な心の象徴「心のともし灯」で縁どられた本殿。ウエサク祭が、光と水と聖音の祭典といわれる所以のひとつ。
さて、気をつけたいのは、「満月の夜」の解釈の仕方。カレンダーを見ると、5月15日(木)に満月のマークがついていますよね。けれど、満月を迎える瞬間は午前4時16分。月が西へ没する前に満月になります。つまり、15日の夜では、もう満月がすぎてしまっているということ。その点を考慮しているのか、ウエサク祭は14日(水)19時から始まります。現地へ足を運ぶ場合はご注意くださいね。
5月の満月の夜は、一番大切な願い事をひとつだけ、心を込めて祈れば天に聞き届けられるといわれています。私利私欲ではない清らかな願い。それは自分だけでなく、自分の周りにいる人々や、ひいては動植物や環境を含めた幸せと共生につながっていくはず。
14日の夜から15日未明にかけて、ここではないどこかで、自分が知らない誰かが、同じ月を見上げてる。そうやってつながりあうのって、素敵なことですよね。年に一度の機会を、大事にしたいと思います。
鞍馬寺
京都市左京区鞍馬本町1074
075-741-2003
叡山電鉄・鞍馬駅下車
ウエサク祭
5月14日(水)19時~(儀式が終わり次第終了)