出産するなら、病院の分娩台の上で。それが当たり前だと思っていました。でも、もっと自然で、赤ちゃんとのつながりを感じられる出産の形があるのかもしれません。
昨年3月に長男・尊(たける)くんを出産したオーガニックコンシェルジュ・岡村貴子さんが選んだのは、自宅出産。
岡村さんのお話に、先日対談を行ったカヒミ カリィさん、そして編集部一同も興味津々。岡村さんが2年前から田舎暮らしをしている阿蘇山の村での自宅出産、ハートフルな尊くん誕生ストーリーをお送りします。
カヒミ:自宅出産のことを伺いたいです!
岡村:前回の対談のあと、順調に月齢を重ねていたのですが、出産予定日間近にB群溶血性レンサ球菌という常在菌の有無の検査があり、陽性だと自宅出産ができないと知りました。今まで計画的に体力づくりや体重調整、赤ちゃんや母体についての勉強などそれなりに努力を重ねてきたのに、このギリギリの時期にもし陽性が出たら病院出産が即決定。内心「えーっ!ここまで頑張ってきたのに」と(笑)。結局、陰性だったので無事おうちで出産することができたのですが、妊娠中はさまざまな検査や体調管理が最後まであって、つくづく自宅出産って思いだけじゃできないんだなと感じました。
カヒミ:昔は菌の存在すらわからずの自宅出産で、リスクがすごく高かったのかな。現代の医学も駆使しながらの自宅出産って、安全でいいですね。
岡村:自宅出産は危ないというイメージがあるかもしれませんが、何かあっても提携病院の受け入れ体制があるので安心でした。カヒミさん、陣痛は何時間でしたっけ?
カヒミ:わたしは帝王切開だったんですけど、予定日の前に偶然陣痛が始まって、6時間くらいでした。
岡村さんのお産は、なんと42時間!陣痛が順調に来てからが長く、助産師さんのが内診したところ、赤ちゃんが逆向きにまわって出てこようとしているかもしれないと......。
岡村:どうすればいいのかを聞いたら、「赤ちゃんに声をかけてあげてください」って。
カヒミ:えーーー!!
岡村:それで、「おーい、逆にまわってるみたいだよ~! アゴは引いて出てきてねー!!」って旦那さんとお腹の赤ちゃんに向かって声をかけました。やさしく、そして必死に(笑)って伝えたら、3、40分くらいしてまわり方を変えて降りてきてくれました。その後も、頭が子宮の入り口にひっかかっていたり、頭が出そうになったら、またゆっくりになったりと...最終的に、巻いていたんですよね。
カヒミ:へその緒が!?
岡村:はい。だから自分でとろうとゆっくりまわっていたみたい。
「とりあえず一番落ち着く場所にいてください」と助産師さんに言われ、岡村さんが選んだのは、トイレ。
岡村:42時間中40時間くらいトイレにいたかもしれない(笑)。便座はあったかいし、背もたれの角度もちょうどよくて、陣痛の痛みが軽くなったんです。助産師さんも、膝を抱えて狭いトイレの中に一緒にいてくれました。
お産も30時間を超え、陣痛が5分おきになった頃、新たな展開が。
岡村:陣痛の痛みを和らげるためにオイルマッサージや、アロマテラピー、ホメオパシーなど助産師さんが状況に合わせていろいろとやってくれたのが本当に良かった。私自身もソファに横になったり、畳の上でストレッチしたりと身体を自由に動かすことができたので長時間だったけどあまり苦痛を感じなかったんです。家の中だからリラックスできて精神も安定していましたし。
尊くんが産まれたのは、その日の明け方。満潮に合わせてお産がスムーズに進んだのだそう。カヒミさんの出産日も満月。
カヒミ:やっぱり人間も動物ですよね。
岡村:ですよね! 産まれてすぐ、助産師さんが赤ちゃんをお腹の上に置いてくれたんです。で、へその緒を切ったら自分でおっぱいまで這い上がってきたんですよ。ビックリ!
カヒミ:探しますよね。
岡村:今まで口にしたことないはずなのに、しっかり吸えてる感じじゃないけど、とりあえずパクッて加えるんです。
ここで、カヒミさんにはひとつ気になることが。
カヒミ:ところで、出産にご主人は立ち会われなかったんですか?
岡村:立ち会う予定だったんですが、いざお産が始まったら、人が近くにいると気が散ってしまって。夫には「ごめんね」と他の部屋に行ってもらいました。どうやってお産に立ち会うか、どんな風にサポートしたらいいかなどずっと二人で勉強してきたのに、結局は42時間中、最後の30分くらいしか一緒にいられなかったんです。
カヒミ:わたしもそうでした!結局立ち会ってはもらったのですが、出産のときはひとりで集中したいと思ってた。
岡村:後で考えてみたら、夫がいちばんかわいそうでした。41時間半わたしの苦しむ声だけをひたすら聞かされて、飲まず食わず眠れず。
ただ祈るしかないという......。最後には夫がいたことが匂いでわかるようになってしまって、2階から降りてもこられなかった。
岡村さんが見せてくださった写真には、産まれたばかりの尊くんを抱く岡村さんの姿が。
カヒミ:岡村さん、キレイ。お疲れ様でした。出産後、わたしはがんばりすぎてしまって、よくなかったなぁといまになって思うんです。
岡村:わたしは出産に42時間、普通の人の3倍かかったので、回復も時間がかかるから、体を休めるのを最優先するよう言われました。それで、産後1か月は安静にしてました。無理しすぎると更年期に出るっていいますよね。
カヒミ:それ言いますよね〜。
岡村:だから、これから産む皆さんには、気をつけてほしいなと思います。
42時間の出産は、とてつもなく大変だったはずなのに、終始穏やかな笑顔で話す岡村さん。最後に産み落とす瞬間はソファに手をついてしゃがんだ姿勢だったと伺った時、それが重力に従ったいちばん産みやすい体勢なんだと気づき、ハッとしました。
流れてくる情報だけを鵜呑みにせず、自分で知ろうとするのはとても大事。次回は、仕事に没頭した時期を経て、結婚、出産したお二人からのメッセージをお送りします。
文/渡部えみ 写真/小林みのる