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ドストエフスキー文学の翻訳者として活躍した女性の数奇な人生

2014/02/21 23:00 投稿

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まだまだ寒い日が続きそう。こんな季節には、じっくりと外国文学の古典に向き合ってみるのもいいかもしれません。ドストエフスキー文学の翻訳者として活躍した女性の数奇な人生を追ったドキュメンタリー映画が公開されます。

優れた文章だけに起こる不思議な現象

2010年に87歳で亡くなったスヴェトラーナ・ガイヤーさん。80歳を超えてなお現役翻訳家として仕事を続けた彼女は、ドイツのドストエフスキー文学の第一人者として、長編作品5編の新訳を発表しました。

この映画は84歳の彼女をとらえたもので、自宅の仕事風景から、料理やお菓子作り、アイロンがけなどの家事を手際よくこなす日常風景までを切り取り、日々の暮らしをていねいに重ねることが翻訳にも生かされていることをわたしたちに伝えます。

たとえば、翻訳の下準備をしながら彼女は語ります。

優れた文章だけに起こる不思議なことがある。文章が自ら動き出す。それは突然起こる。何度も目を通した文章なのに、ふいに未知のものが見えてくる。

汲めども尽きぬ言葉の織物。そのような文章はすでに訳したことがあっても汲みつくせない。おそらくそれこそが、最高の価値を持った文章である証拠。それを読み取らねば。

続けて、アイロンをかけている彼女の口からは、さらに翻訳を織物にたとえるようなこんな言葉が。

洗濯をすると、繊維は方向性を失う。その糸の方向性をもう一度整えてやらなければならない。文章(テクスト)も織物(テクスティル)と同じこと。語源も同じ言葉。一本一本の糸は、多くの糸と織り合わされている。

ほかにも、書き留めておきたくなるような味わい深い言葉が随所に登場するのですが、「人生に負い目がある」という気になる発言も。その言葉の意味が映画の後半で明らかにされます。

歴史に翻弄された彼女の数奇な運命

監督のインタビューにあるのですが、この作品を撮り始めた時には、後半部分は予定されていなかったそう。

映画は突然、ドラマティックな展開を見せます。彼女の息子が事故に遭い、翻訳の仕事を中断して看病を始めたことをきっかけに、彼女は封印していた自身の過去を旅することになります。その昔、スターリン時代に粛清に遭い、壮絶な獄中生活を送った父親のこと。ユダヤ人の友人がある日いなくなったこと。戦時下でドイツ語通訳として働いたこと。あるきっかけから、スヴェトラーナは移住後初めて故郷のウクライナに向かう旅に出かけます。

ウクライナで出会う学生たちに彼女がかける言葉があります。

勇気を出して、内なる声に従うこと。たとえそれが、世界を支配している一般的な常識に逆らった行為となっても。

つらい歴史に翻弄された彼女の人生と、彼女を救い、精神的に支えることになった「翻訳」という仕事。その全貌が見えたとき、彼女の翻訳にかける情熱が、さらに深く理解できそうな気がします。

映画の公開に合わせて、柴田元幸さん、鴻巣友季子さんら日本の人気翻訳家によるトークショーや写真展などのイベントも予定されています。こちらもお見逃しなく!

ドストエフスキーと愛に生きる

監督・脚本:バディム・イェンドレイコ

出演:スヴェトラーナ・ガイヤー

原題:Die Frau mit den 5 Elefanten

2月22日(土)より渋谷アップリンク、シネマート六本木ほか全国順次公開

(ミヤモトヒロミ)

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