屋外の能舞台の周囲にかがり火を焚き、演じる能楽が「薪能」です。気軽に鑑賞できるものも多く、能・狂言初心者も楽しめます!
その源流は、神事・仏事の神聖な儀式であり、平安時代中期、奈良の興福寺での催しにまで遡るといわれます。先週末に開催された伊勢神宮の「伊勢薪能」をはじめ、平安神宮の「京都薪能」、春日大社・興福寺の「奈良薪御能」、生國魂神社の「大阪薪能」、弘前城の「弘前薪能」、神田明神の薪能、奉納靖国神社夜桜能など......全国各地で開催されている薪能のうち、これからの季節にオススメの情報をご紹介します。
静岡県熱海市にある海の見える美術館「MOA美術館」では、日本の伝統芸能の普及活動の一環として、1985年より薪能が行われています。今年の薪能は、MOA美術館ムア広場特設会場で、8月1日と2日の開催です。
<演目>
・8月1日(木)
能「菊慈童 遊舞之楽」 関根知孝/狂言「文相撲」三宅右近/能「鉄輪 早鼓之伝」 観世清和
・8月2日(金)
能「弱法師」渡邊荀之助/狂言「酢薑」大蔵彌太郎/能「紅葉狩」宝生和英
屋外の雄大なロケーションを生かした舞台で、観世流、宝生流、和泉流、大蔵流の皆様による能・狂言が上演されます。夏の夜を幻想的に彩るかがり火、舞台後方に広がる雄大な海、そして水面を照らす美しい月の光を眺めつつ、日本文化の素晴らしさ、能の神秘的な世界を体感できる企画です。
日光の夏の風物詩の1つとして知られる「日光山輪王寺薪能」。日光山の静謐な夜空の下、世界遺産を舞台に演じられる幽玄の世界を、心ゆくまで楽しめます。今年は、8月23日と24日の開催です。
<演目>
・8月23日(金)
能「高砂」梅若玄祥/狂言「地蔵舞」山本東次郎/能「盛久」梅若猶義
・8月24日(土)
能「半蔀」梅若玄祥/狂言「昆布売」山本東次郎/能「殺生石」梅若猶義
昨年人間国宝に認定された山本東次郎さんをはじめとする最高峰の狂言師・能楽師の芸を間近で鑑賞できる貴重な機会です。
増上寺の薪能は、現在の東京タワー近くに位置する能楽堂で、江戸時代から行われてきました。度重なる天災や戦災によって中止となったものの、増上寺大殿の復興を機に、境内の特設舞台に場所を移し再開されました。重要文化財の三門と、大きなグラント松を背景に、かがり火の灯りで演じられる増上寺薪能は、観客を都会の喧騒からときはなたれた非日常の世界へと誘います。
第30回となる今年は、9月28日の開催です。
<演目>
・9月28日(土)
能「清経」梅若 万三郎/狂言「栗焼」山本 東次郎/能「土蜘蛛 入違之伝」梅若万佐晴
チケットは、7月29日(月)より販売開始です!
秋の風物詩「鎌倉薪能」は半世紀以上続く歴史ある薪能で、発祥といわれる奈良・京都に次ぐ長い歴史をもちます。55回目を迎える今年は、10月11日と12日の開催です。
<演目>
・10月11日(金)、12日(土)
素謡「翁 初日之式」金春安明
被災地復興に寄せて~鎮魂の舞~ 仕舞「松風」横山紳一「野守」山井綱雄
狂言「蝸牛」野村万作/能「高砂」香川靖嗣
金春流第八十世宗家 金春安明さん、狂言の和泉流人間国宝の野村万作さんなど、能楽界を代表する錚々たる出演陣を迎え、幻想的な雰囲気を醸し出す鎌倉宮の特設舞台で座席数800席規模で開催されます。
日本国登録有形文化財 会席料理 二木屋で開催される、秋恒例・二木屋薪能は、会席料理とともに有形文化財の空間で、ゆったりと能・狂言を楽しむことができる優雅な会。今秋は、10月5日、13日、14日の開催。芸術の秋・食欲の秋にぴったりの企画です。
<演目>
・10月5日(土)
狂言「名取川」大藏吉次郎/半能「葛城」高橋忍
・10月13日(日)
狂言「名取川」大藏吉次郎/半能「葛城」井上貴覚
・10月14日(月祝)
狂言「名取川」大藏教義/半能「葛城」山井綱雄
約600年もの歴史をもつ現存する世界最古の舞台芸術「能・狂言」の魅力を、夏・秋の夜風にあたりつつ、気軽に体感してみてはいかがでしょう?
(神森真理子)