今回は松本家の定番料理にまつわるエピソードを紹介します。
それぞれの家にある「うちの肉じゃが」
「さて、今晩は何にしようか」と考えて、悩みたくないときによく頭に浮かぶ、いつもの晩ごはんってありますか?
わが家の場合、そのひとつは、なんてことない、ふつうの「肉じゃが」です。こういうふつうのひと皿って、じつは家庭によって具材も調味も、一度に作る量も、少しずつ違っていますよね。それぞれの「肉じゃが」がそのおうちを語るというと大袈裟でしょうか。
ちょっとしたエピソードがあります。以前、次女がお友だちのお宅にお邪魔したとき、お友だちのお母さんが台所でお夕飯の支度をしているところで、「今日うちは肉じゃがなのよ」と教えてくれたそう。
鍋から漂う肉じゃがの匂いが、「うちの肉じゃがの匂いと全然違ったんだよねえ」と帰宅した次女が話してくれたことがありました。「うちの肉じゃが」っていう匂いが彼女にはあるんだなあと、ふんふんと何だかおもしろいなと感じたことをよく覚えています。
温め直してもおいしく、作りおきにも便利
そんな「うちの肉じゃが」は、豚肩ロース肉の薄切り、じゃがいも、玉ねぎをさっと炒めて油をまとわせ、出汁、酒、みりん、塩、白醤油で煮ます。水分量は少なめに、厚手の鍋で15分ほど煮て、あとは火を止めて味をふくませます。
休ませているうちにじわじわとおいしくなってくれるので、朝のルーチンが終わったあとに煮ておくのですが、お夕飯時にはほっくりおいしくなっています。帰宅して疲れた状態で急いで作ると、味つけが濃くなってしまうこともあるので、朝のうちに仕込んでおくと安心です。
作りおいて温めなおしても味や形が安定しているため、私に用事があるときは娘たちの留守番用としてもよく登場します。だから、肉じゃがを仕込みはじめると「今日はおでかけ?」と聞かれたり(笑)。
いつもの「うちのごはん」は、次の回でもご紹介したいと思います。
松本日奈(まつもと・ひな)
料理家。北イタリア留学中に現地の料理人やマンマから料理を学ぶ。オリーブオイルや白バルサミコなどの調味料を使い、シンプルで素材を生かした家庭料理を提案。レシピ開発やケータリング、ひな弁と活動の幅を広げる。自宅などで開催する料理教室は毎回キャンセル待ちになるほどの人気ぶり。目黒区鷹番にある食材店「ラ・プティット・エピスリー」を営む夫、ふたりの娘、愛犬と暮らす。インスタグラム
写真・文/松本日奈