そして今年9月に満を持して出版したのが、雑誌『LEE』での連載をまとめたエッセイ集『長谷川京子 おいしい記録』(集英社)です。
著書に込めた思いや、自身に根づく食の記憶について聞いた「前編」に続き、この後編では年齢を重ねるなかでたどりついた「気持ちよい生き方」について語ってもらいました。
正直、戸惑うこともたくさん
長谷川さんがエッセイを雑誌に連載していたのは、2014年1月号から2021年8月号までの約7年半。この間にお子さんはふたりとも小学校へ上がり、長谷川さんもさまざまな節目を迎えました。
著書に「30歳になったときは大人の仲間入りができたと、心からうれしく思った。できないことは何もないと、その先には輝く未来しか見えなかった」と書いている長谷川さん。30代ラストの誕生日には「30代最後の1年は、40歳を気持ちよく迎えるためのベース作りを」と抱負を述べ、40歳の誕生日には「後輩に『40代? なかなか楽しいよ』と笑顔で言えたら」と前向きな気持ちをつづっています。
さらにこれからのことを聞いてみると、「実はまだ見えていないんです」と正直な答えが。
「どんな自分でありたいか、目標を作らないといけないと思ってはいるのですが、まだ見えていません。正直、年齢を重ねることをまだ心からは喜べていないし、怖さもあります。まわりに素敵な年上の女性が多いので『こうなりたい』というお手本はたくさんありますが、まだ自分ごとにできていない。そこは私の課題ですね」
気持ちの戸惑いだけでなく、肌の不調や体の変化を感じることも。おなかについたお肉が落ちにくい、肌荒れが治りにくい……。
「経験したことがない変化に、はじめはとても戸惑いました。でも最近になって思うのが、ボディメイクやスキンケアに一生懸命になるのも素敵だけど、それだけではアンバランスだということ。これから必要になってくるのは人間性や女性性だと思うんです。それは今後の目標としたいことのひとつですね」
自分を慈しむことも身につけたい
長谷川さんが言う「人間性、女性性」についてもう少し聞いてみると、「まだ漠然としているけれど」と前置きをしながら、「それが慈悲深さなのか情の深さなのかはわからないのですが、身につけたいのは『人への配慮』ですね」と長谷川さん。同時に意識したいのが「自分を大切にすること」だそう。
「今まで『誰かのためになるなら……』という気持ちがとても強かったんです。でもその思いが強すぎると自己犠牲になってしまう。コロナ禍もあってか『自愛』という言葉が降ってきて(笑)。自分を大切にすることって実はものすごく難しいことですが、自分を大切にすることと人に配慮することの両方ができるようになったら、人間性はブレないのかなと今は思っていますね」
前編で「つらいことはしないで」と語っていた長谷川さんですが、それも自分を大切にするためにたどりついた思いなのかと考えると合点がいきます。
本書159ページより(『長谷川京子 おいしい記録』/集英社、撮影 /岡本充男)人生で初めて“くびれ”ができた
仕事については「もう、がむしゃらにがんばるというテンションではないかな」と長谷川さん。
「今まで忙しくお仕事をさせていただいて、それはとてもありがたいことなのですが、がんばるってスタミナとバイタリティがないとできないでしょう? 今はそのエネルギーを自分の暮らしに向けたいという気持ちがあります。そうなるとやっぱり“健康的な生活”になっちゃうんですよね。健康第一(笑)」
気をつけているのは食べ過ぎないこと。1日3食と決めず、おなかが空いていなかったらスキップしたり、カロリーを摂りすぎたなと感じたら3~4日でバランスを調整したり。また、お子さんを見送ったあとにゆっくりできる朝は、ごはんとお味噌汁、おかずをちゃんと並べて丁寧に食事する時間を作ることで、体だけでなく気持ちも整うのだとか。
また、食事や運動はプロに頼ることも。自己流では結果が得られずパーソナルトレーナーの指導を受けたところ、正しい食事法も身につき、おなかの脂肪も落ち始めたそう。
「プロの力を借りて腸腰筋を伸ばしたり、肋骨の柔軟性を意識したりすることで、人生で初めて“くびれ”ができました。ウエストラインは20代のころより今のほうがきれいかも。年齢を重ねて得られないことも手放すことも多いですが、できることもまだまだあるんだという自信になりました」
人生に前向きでいられたのは、母親が繰り返した言葉のおかげ
歳を重ねるなかでも「(これからもっと伸びるための)“伸びしろ”を作っていきたい」と著書で語っている長谷川さん。人間性、女性性、自愛の心、そして健康。長谷川さんが今整えているこれらのことが、これからの「伸びしろ」につながっていくのかもしれません。
そして長谷川さんがポジティブに自分と向き合いつづける気持ちの根底には、お母様に言われ続けてきた「あなたはダイヤモンドなの。磨けば磨くほど光り輝くんだから」という言葉があります。
「小さなころからおまじないのように聞かされてきました。成長するための努力を怠ってはいけないということだと思うのですが、幼心に『がんばればなんでもできるんだ』と思っていましたし、仕事をするようになってからも『ここで限界と思うか、もう少しいけると思うか』を天秤にかけて励みにしてきました。いろんなことに挑戦できたのは母の言葉のおかげかもしれませんね」
「日々の行いや人との接し方が、我が身を助く」と信じて
最後に、このインタビューのテーマでもある「気持ちよく生きる」ために意識していること、意識していきたいことを聞いてみました。まず挙がったのはきちんとした生活を送ること、そして時間の使い方。
「子どもが学校に行っている間に映画を観たりヨガのレッスンを受けたり、予定を詰め込んでしまっていたんです。そうするといつも走っているような気がして……。時間をもっと味わうように、大切に過ごしたいですね」
そして長谷川さんが心がけているというのが「毎日ちょっとしたいいことをする」ということ。「神様は見ている……じゃないですけど、日々の行いや日々の人との接し方が、我が身を助くって信じているところがあります」と長谷川さん。
「人に恵まれること、仕事に恵まれること。それらは『その人が積んできた徳のあらわれ』って聞いたことがあるんです。そのときに『本当にそのとおりだな。積めるものなら積んでみたい』と素直に思いました。徳を積むって難しいことのように思えますが、小さなことでもいいんですって。落ちているゴミを拾うとか、知らない人でもちょっと優しくするとか、1日ひとつでも続けていると気持ちがいいですし、自分や子どもから難を遠ざけてくれるはずと信じてやっています」
最後の晩餐は「ごはんとお味噌汁、玉子とたっぷりのねぎを入れた納豆」 がいいとか。近寄り難いほど美しく華やかな長谷川さんですが、実際にお話を聞いて感じたのは「著書のままの人」。地に足のついた正直で飾らない言葉は、著書で語られたものと同じ。一つひとつがすっと胸に入ります。
長谷川さんがこれから年齢を重ね、人生を歩むなかで、何をどう考え、自分にとっての気持ちよさをどう選んでいくのか。長谷川さんを心で頼りながら、自分も成長していきたいと思わせてくれたインタビューでした。
長谷川京子 おいしい記録 1,760 Amazonで見る 1,760 楽天で見る 長谷川京子(はせがわ・きょうこ)
1978年生まれ、千葉県出身。女性ファッション誌の専属モデルとして活躍後、2000年に女優デビュー。以降、数々のドラマや映画、CMなどに出演。「ハセキョー」の愛称で親しまれる。2009年に第一子を、2012年に第二子を出産。2021年よりランジェリーブランド「ESS by」をプロデュースするなど、活動の場を広げている。2021年9月には雑誌『LEE』で7年半連載したエッセイをまとめた『長谷川京子 おいしい記録』(集英社)を出版。
撮影/YUKO CHIBA
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