つねに“当事者の視点”で女性の不調に向き合ってきた
zoomでインタビューに応じてくれた増田美加さん。30年以上も前から、いち早く「女性医療」にフォーカスして取材活動をおこなってきた増田さん。情報の収集や発信をするなかで、いつも心がけてきたことは“当事者の視点を大切にする”ということ。
「私自身も30代には女性ホルモンによる心身の不調を感じるようになり、閉経前後には更年期障害にも悩まされました。2006年には乳がんも経験しています。しかし、その経験こそが私に“当事者”としての視点を与えてくれたと思っています。『私の悩みは、世の中の女性たちの悩みでもあるはず』という使命感に似た思いで活動を続けてきました」
知識と習慣を身につけて。意識することが未来の自分をつくる
増田さんがいつも声を大きくして伝えるのは、「女性には、その世代ごとに感じやすい不調やかかりやすい病気がある」ということ。
「子宮と卵巣を持ち、初潮から閉経後の数年まで女性ホルモンに左右される女性は、いつも女性特有の不調や病気のリスクと隣り合わせと言っても過言ではありません。どの世代でも自分の体のことに意識を向けること、何でも相談できるかかりつけ医を持っておくこと、その大切さをお伝えしたいです。若い世代にはとくに、です」
40代50代になり、更年期の不調を感じて初めて婦人科を訪れるのでは「遅い」と増田さん。若いうちから生理周期による不調を解決し、不調の背後にある病気の有無を検診で確認することを習慣づけることが大切。また、知識を身につけることも必要です。
「骨粗しょう症のリスクを招くから過度なダイエットはしない、骨盤底が衰えると尿漏れや子宮脱の原因になるから運動をしよう、といった知識を身につけて行動するのとしないのとでは、更年期以降の人生はまったく違うものになるはずです」
増田さん自身もピラティス、ランニング、筋トレ、ヨガを十数年続けている。「食事に気をつけて運動をしているから、30代の頃より疲れないし、体が動くんです」(増田さん)。Image via Shutterstock励まされるのが「閉経後の人生は、悪くないですよ」という増田さんの言葉。「カラダ戦略術」の100回目でも、閉経後の人生を「バラ色の時間」として紹介しています。
「女性ホルモンに左右されないって、こんなにラクで快適なんだと自分でも驚きます。閉経後は、女性がもっとも生きやすい時期じゃないかしら。その時期をバラ色の時間にできるかどうかは、若いころからの積み重ね次第。90歳まで生きるとしたら、閉経のあと人生はまだ40年もあります。だったら楽しいほうがいいに決まっていますよね」
つらいと言っていい。自分の健康を後回しにしないで
ここ数年、フェムテックなどのムーブメントも手伝って「これまでにない大きなうねりのような変化を感じる」と増田さん。かつては恥ずかしいことであり、小さな声でしかつぶやけなかった「更年期」や「尿漏れ」といったワードも、女性が声に出しやすくなってきたことを実感しているそうです。
実際、泌尿器系のトラブルを中心にまとめた増田さんの最新書『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』には、「よくぞ書いてくれた」「つらかったらつらいと言っていいんだ」という反響が多く寄せられたほか、本書で紹介されている最新の治療法やセルフケア法について「こんなに多様な方法があると知って安心した」という感謝の言葉もあったとか。
『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)増田さんが本書で伝えたかったのは「女性がどんどん活躍するこれからの時代、幸せな人生のためにもっと声をあげていきましょう」という思い。
男女の役割に差がなくなってきたとはいえ、 今の日本では、まだ 子育て、夫の健康管理、親の介護を担うのは圧倒的に女性が多い。家庭においても社会においても、まだまだ女性は健康の核であると言えます。そんななかで、「自分のことを後回しにすることはもうやめましょう」と増田さんは話します。
つらいと声に出すことが、自分の状況を改善するきっかけに。そしてその声は同じ悩みをもつ誰かに届きます。それにまた誰かが共感し、また誰かが知識をシェアしてくれる。そんな循環にもつながっていきます。
正しい知識を身につけてほしいから
「20代30代になっても婦人科に一度も行ったことがないという女性は少なくありません。生理痛は仕方ない、不調は仕事の疲れのせい、などと自分の体に目を向けられていない女性たちに対し、正しい情報を提供するのが私の仕事。かたい文章ではなく、やさしい言葉遣いを心がけ、デザインも読みやすく工夫して、とにかく“伝えたい”の一心でやっています」
もちろん、自分から積極的に情報を取りにいこうとすれば、いくらでも正しい知識が得られる時代。2021年3月、大学生たちのグループが子宮頸がんワクチンの無料接種を求めて署名を募り、厚生労働大臣に提出したニュースは記憶に新しく、これについて「正しい情報をつかんで行動に移した、とてもいい例」と増田さん。しかし一方で、「ヘルスリテラシーの高い人とそうでない人の格差が浮き彫りになった」とも感じるそうです。
大切なことは、正しい知識を身につけて、行動に移すこと。それは自分を大切にすることに他なりません。
「女性が自分の健康をもっと優先して考えられるようになれば、自分の人生が良くなるだけでなく、少しずつでもまわりへ、そして社会へといい循環が伝播していくのではないでしょうか」
連載「カラダ戦略術」は100回を区切りにいったん終了。今後は女性の心身にまつわることをその時々に執筆いただきます。1,650円
増田美加(ますだ・みか)さん
エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について、著書や女性誌、WEBメディアなどで情報を発信するほか、セミナーや講演、テレビ、ラジオ出演でも活躍。乳がんサバイバーであり、NPO法人女性医療ネットワーク理事「マンマチアー委員会(乳房の健康を応援する会)」を主宰するなど、がんの啓発活動にも力を入れている。近著『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)など著書多数。ホームページ