『慈恵医大管理栄養士が教える 美肌、太らない、老けないは食べ方が9割』(PHP研究所)の監修者である東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部 赤石定典さん、島本友希子さんに、新型栄養失調を改善するための攻略法を伺いました。
「新型」の栄養失調って何?
三大栄養素とは、人間の生命維持に欠かせない「炭水化物、タンパク質、脂質」のこと。食糧難の時代は食べるものが手に入らず、この三大栄養素さえ満たすことができませんでした。そして「栄養失調」となり、病気になったり死亡するケースもあったのです。
しかし、現代で増えているのは「新型栄養失調」。三大栄養素は足りているけれど、ビタミンやミネラル、食物繊維が不足しているという新しい栄養失調です。
赤石さん :
厚生労働省は「日本人の食事摂取基準」を設けています。1日にこれくらいの栄養素を摂りましょう、という基準です。
しかし、同じく厚生労働省が行っている国民健康・栄養調査をみると、ビタミン、ミネラル、食物繊維の摂取量は軒並み不足しています。とくにカルシウム(ミネラル)は全世代で不足しているというデータが出ています。骨粗しょう症の原因になっている可能性があります。
人生100年時代になり、私たちは「健康寿命」を伸ばすことが重要となってきました。ちょっとした不調は放置しがちですが、今のうちから不調をなくしておくことが、のちの健康寿命につながるのだそう。
島本さん :
新型栄養失調を示すサインは、肌荒れや便秘、貧血、めまい、風邪をひきやすい、口内炎ができる、肥満など。いわゆる不定愁訴も、新型栄養失調からきている可能性があります。
新型栄養失調になりやすい食生活
最近は健康意識の高まりもあり「食事には気をつけている」という人も少なくありません。しかし、それでも新型栄養失調が増えているということは、思ったよりも栄養が足りていないということを示しています。
赤石さん :
野菜は1日どんぶり1杯の量が目安です。小鉢でついてくるようなサラダでは足りていません。
さらに『その調理、9割の栄養捨ててます!』でもご紹介しましたが、現代の野菜は昔に比べて栄養価が低くなっています。加えて、間違った調理法や保存法などで、さらに栄養を逃していることも。野菜はいつも多めに食べることを意識したほうがいいでしょう。
島本さん :
現代人は忙しいこともあり、おにぎりやサンドイッチ、パスタだけで食事を済ませてしまうという人も少なくないでしょう。三大栄養素は満たせますが、それ以外の栄養素は不足しがちです。
よくコンビニの例が示されますが、例えばお茶を牛乳に変えればカルシウムが摂れますし、枝豆を追加すればタンパク質と食物繊維を追加できます。果物を追加すればビタミン補給にも。ビタミン、ミネラル、食物繊維を意識して摂るようにすれば、新型栄養失調の予防につながります。
ささいな不調を改善する食べ方のルール
将来、深刻な病気を引き起こしかねないささいな不調は、栄養が足りていないサイン。今から改善しておきましょう。
1.肌荒れ
肌は見えない体の中を示しています。体の中が健康なら肌も不調がなく、不健康になると肌にもトラブルが現れるので、健康状態を計るバロメーターにもなっています。
赤石さん :
肌にはビタミンCが大事だと思いがちですが、実は食物繊維が重要。食べ物のほとんどは小腸で吸収され、不要なものは大腸で排出されます。腸内環境が悪化するとそのバランスが崩れ、栄養が摂れない体になってしまいます。まずは食物繊維をしっかりとって、腸内をきれいにしましょう。
そして脂質は排便の潤滑油の役割があるので、ダイエットなどで油を控えると便秘を招きます。腸内環境を整えたうえで、ビタミンを摂るのが正解です。
2.肥満
栄養が足りないのに肥満になるのはなぜなのでしょうか。
赤石さん :
栄養失調はやせますが、新型栄養失調はむしろ太る傾向にあります。その理由は、ビタミン、ミネラル、食物繊維の不足が代謝の低下を招き、脂肪がたまりやすくなるからです。
たとえばビタミンB群は足りていないビタミンの代表ですが、豚肉などに多く含まれるビタミンB1は糖質をエネルギーに変えます。
ビタミンB2はレバーやうなぎ、乳製品などに含まれますが、脂質をエネルギーに変えます。ビタミンB6は魚類やバナナに含まれますが、タンパク質をエネルギーに変えます。このように、代謝を助けてくれるビタミンが不足すると、肥満の原因になるのです。
3.骨粗しょう症
健康寿命の要ともなる骨は、今からケアしておくべき臓器の筆頭です。
赤石さん :
カルシウムは牛乳、小松菜、ケールなどに含まれます。骨の材料になるのはもちろんですが、実は骨まで運んでくれるのがビタミンD、骨に定着させるのがビタミンK。これらのビタミンを一緒に摂ることで、ようやく強い骨を作ることができます。
ビタミンDは卵黄や魚、きのこ類。ビタミンKは納豆や緑黄色野菜に含まれます。ほうれん草の卵炒めは、カルシウムを骨に届け、強い骨をつくる理想的なメニューです。
細かい栄養素を覚えなくてもいい食べ方
どの食材が何の栄養素かを覚えられれば毎日の食事に上手に組み込めますが、やっぱりそれはなかなか難しい。そんな時はどうしたらよいのでしょうか。
赤石さん :
今日は野菜を食べたかな、大豆製品を食べたかな、牛乳を飲んだかな、果物を食べたかな、というように、バランスよく食べたかどうか思い出してみましょう。そこに不足分があれば、その次の食事で摂るようにしてみてください。
食事はおいしくいただくことが基本ですから、メインディッシュは好きなものを食べ、それ以外の食事で足りないものをプラスしていくという食べ方がおすすめです。
島本さん :
前の食事と違うものを食べるように意識すると、バランスよく食べることができます。例えば朝にパンと卵と牛乳とフルーツだったら、お昼にはお肉と野菜、夜には魚と大豆製品など。毎食同じようなものばかり食べがちな人は、新型栄養失調になる可能性があります。
現代病ともいえる新型栄養失調。後編では、具体的な食べ方をご紹介します。
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赤石定典(あかいし・さだのり)さん
東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部 係長。管理栄養士。院内での栄養指導をはじめ、各メディアで栄養の摂り方指導など、多方面で活躍中。
島本友希子(しまもと・ゆきこ)さん
東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部。糖尿病療養指導士の資格を活かし、内科班のリーダーとして入院患者さんの栄養指導を行う。
取材・文/島田ゆかり、編集/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock