大河ドラマ「八重の桜」で注目される福島県会津若松市では、主人公・新島八重がハンサムウーマンと称されることから、「街角で会えるハンサムウーマン」が選出されています。今回は、その中の一人、漆器職人として商品を生み出しつつ、販売も手掛ける鈴木あゆみさん(30)にお話を伺いました。
お話を伺ったのは、まだ寒さが厳しく、雪の舞う頃。
「かわいい漆器」がコンセプトの工房鈴蘭には、カラフルな塗り物が所狭しと並んでいました。
■外に出てみて分かった会津の魅力
女性で職人の道を選ぶ方は、まだまだ少ない印象です。
漆器職人の道には、学校を卒業してからすぐに入ったのですか?
「いえ。最初は地元の企業に勤めました。その会社で働きながら通信制の大学に通う機会をいただきました。たまに東京に出て授業を受けることがあったのですが、そのときに話した方々に、生まれたところに歴史があるのはいいね、と言われたんです」
その土地に住んでいると、なかなか気づけないですよね。
「そうなんです。会津の歴史などを全く知らなくて。まずいと思って勉強しました(笑)その中で地元に根付く『会津漆器』という伝統があるということを誇りに感じました。その漆器産業が衰退してきている現状を見て、無くならないでほしいと強く思いました。わたしにもなにかができるんじゃないか、何かしたい、という気持ちに自然になっていったんです」
■人生の選択は二択で問いかけた
会津漆器に関わるといっても、関わり方はいろいろありますよね。
職人になるというのは大きな決断だと思うのですが、どのようにして決めたのですか?
「和と洋なら、和だな。作るのと売るのなら、作る方が好きだな、というように二択していったところ、会津で漆器職人になることにたどり着きました。漆器職人の父がいつも楽しそうに仕事をしていたことも影響していると思います」
■挫折から始まった職人人生
23歳で最初の会社を辞め、漆器職人への道を歩み始めた鈴木さん。それから7年間、心が折れそうになったことはありませんでしたか?
「会社を辞めて、会津漆器の訓練校に入ったのですが、その際に参加したイベントで漆器のイメージアンケートをとったんです。その結果が、『古い、高い、扱いづらい、日常使いできない』と散々で...。漆器はもういらないのかも、と、どん底まで落ち込みました」
スタートから厳しい洗礼だったよう。
そこからどのように立ち直ったのですか?
「まずわたしが信じなければと思いました。そして、父のアドバイスもあって、3年間はこれならばやっていけるという形を見つけるために時間を費やしました。その間、さまざまなイベントに出店して、お客様の意見を聞きながら試行錯誤を繰り返しました。ベースを木ではなくガラスにするといった大きなことから、価格設定や箱の有無まで、とにかく毎回変えていくうちに、これならやっていけるのではないかという希望が見えてきたんです」
作り手の職人が店舗を持ち直接販売をするというのは、会津では珍しいことなのだとか。
店舗を出す、というのは大きな決断でしたね。
「これも3年間の中で、おのずと出てきた答えでした。ただなんとなくではなく、きちんと実績も出て見通せたので。それに、父をはじめ職人は、自分が作ったものを直接お客様に届けたいという強い想いがあります。その想いを形にしたいと思いました」
■使っていただけるものを作りたい
「かわいい漆器」というコンセプト、とても素敵ですね。
お店もぴったりな雰囲気です。
中身が見えるものが欲しいとの声からできた"お月見グラス"
"漆のグラス杯" 漆の匂いが気にならないよう外側のみに塗られている
ベースがガラスだったり、カラフルだったりと、今までの漆器のイメージにはないものが多くて新鮮です。
「スタート時は、やはり赤と黒だけで......。漆器と言えばこう、という固定観念がなかなか外せませんでしたが、お客様の声に応える形で、ひとつひとつ手探りで進めてきました。私たちが作っているのは、作品ではなく商品。使っていただけるものを作りたいと思っています。伝統的なものとは異なりますが、塗り物の入り口としてお客様が興味を持ってくださる役割を果たしていきたいです」
■繋ぐために、変わる
伝統を受け継いでいくためには、どのようなことが必要だと思いますか?
「いま、会津漆器は"伝統工芸"として守られるものになりつつあります。それはある意味、進化が止まってしまうということなのではないかと。でもじつは、現代にある漆器も、長い歴史の中で、生活スタイルに合わせて進化してきたのだと思います。同じ形のままで受け継いでいっては、どこかでしぼんでしまう。だから、その時代に合わせて、変わっていくことが大切だと思います」
これからも会津に住み、会津に来てくださる方を大切にしていきたいという鈴木さん。
最後に、これからは若い世代ががんばる番ですね、と話しかけると、「いえ、まだ父の世代の職人さんが完全燃焼していないので、まずは完全燃焼してほしいと思います。私たちはその後からですね。」と即答した姿が印象的でした。
柔らかく女性的な雰囲気なのに、仕事に責任を持ち、一本筋が通っている姿は、まさに新島八重と重なるハンサムウーマンでした。
[工房鈴蘭]
(渡部えみ)