エイジングケアの初歩となる亜鉛の働きについてうかがった前編に続き、後編では亜鉛の上手な摂り方をレクチャーします。
あなたも亜鉛不足かも? 簡単チェック
熟年期障害の専門家である平澤精一先生いわく、「亜鉛は生きる力を高めるミネラル」。前編では亜鉛不足による不調についてお伝えしましたが、症状がひどくなる前に、自分が亜鉛不足かどうかを判断する方法はあるのでしょうか。
平澤先生 :
ご自身でもできる、亜鉛不足の簡単なチェック方法があります。まずは次の中に当てはまるものがないか、考えてみてください。
□ 食べ物の風味(香りや味わい)に鈍感になってきた。
□ 味が薄く感じられて、つい塩や醤油、砂糖を“ちょい足し”してしまう。
□ 何も食べていないとき、口の中に苦味などを感じる。
□ 甘いものを苦く感じたり、甘みだけ感じられなかったりする。
□ 以前と変わらない味付けなのに、塩辛く不快に感じる。
□ 慢性的な肌荒れやかゆみを伴う湿疹がある。
□ 抜け毛が増え、髪のコシがなくなった。
□ 爪が割れやすくなった。
□ 爪に白い斑点が出るなど、なんらかの異常がある。
□ 風邪や肺炎などの感染症にかかりやすくなった。
チェック項目の前半は、亜鉛不足からくる味覚障害に関わるもの。後半は皮膚・髪・爪や免疫機能の異常に関わるものです。
複数当てはまるものがあった場合は、亜鉛不足の疑いあり! より詳しい味覚障害チェックを行うか、病院で血液検査をしてみましょう。
亜鉛はどれくらい摂ればいい?
亜鉛の1日の必要摂取量は、厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取基準 2015年版」によると、成人男性10mg、成人女性8mg。しかし実際の摂取量は、2017年の調査では男性8.9mg、女性7.4mgでした(「国民健康・栄養調査 2017年」より)。男女ともに不足気味であり、女性は0.6mgほど不足していました。
亜鉛不足を防ぐ第一歩は、毎日の食生活の改善です。亜鉛を多く含む食材としては下記のようなものがあります。
牡蠣……5粒(60g)で7.9mg 燻製牡蠣……60gで15.2mg 豚レバー……70gで4.8mg 牛肩肉(赤身)……70gで4.0mg ほたて貝柱……3個(60g)で1.6mg うなぎ……1/2尾(80g)で1.1mg 精白米……茶碗1杯で0.9mg 納豆……1パック(40g)で0.8mg 卵……1個で0.78mg プロセスチーズ……1切れ(20g)で0.6mg平澤先生 :
ダントツ一位は燻製の牡蠣で、牡蠣は生食用より燻製のほうが亜鉛の含有率が上がります。
残念なのは、牡蠣も豚レバーも日常的に食べる食材ではないこと。人によって好き嫌いも分かれますよね。
さらに問題なのは、亜鉛はそもそも吸収率が低いこと。摂取量の約20~40%程度しか体内に吸収されません。
「亜鉛チャージメニュー」を取り入れよう
亜鉛不足を防ぐためには、こうした亜鉛の特徴を正しく理解し、効率よく補給する必要があります。
平澤先生が提案するのは、毎日の食事に「亜鉛チャージメニュー」を取り入れること。亜鉛が含まれる食材を用いるだけでなく、亜鉛の吸収率がアップする食材などを組み合わせることで、より効果的に亜鉛不足を解消できるそう。
1.長生き卵かけごはん
調理例:「ブロッコリーライスの卵かけご飯」(『亜鉛チャージ健康法』P.96)は、若々しい肌や髪に。卵は亜鉛の含有量が1個あたり0.78gと多く、食物繊維とビタミンC以外の栄養素がすべて含まれたスーパーフード。白米をもち麦にすると、亜鉛量が2.8倍にアップします。
2.亜鉛チャージみそ汁
調理例:「ほうれん草とエノキのみそ汁」(『亜鉛チャージ健康法』P.106)は、ビタミンB群がエネルギー代謝を高めます。ダシに亜鉛量の多い煮干し粉を使うのがコツ。みそに含まれる乳酸菌が腸内環境を整えてくれることで、亜鉛の吸収率も高まります。
3.抹茶
調理例:「抹茶キウイヨーグルト」(『亜鉛チャージ健康法』P.110)は、ストレス対策のための栄養素が詰まっています。抹茶は緑茶類のなかでも、とくに亜鉛やカリウム、ビタミンCなどが豊富。ヨーグルトにお好みの量を混ぜた「抹茶ヨーグルト」にすれば、腸活につながり亜鉛の吸収率が高まります。
平澤先生の著書『亜鉛チャージ健康法』には、先生が管理栄養士の岸村康代さんと開発した「亜鉛チャージメニュー」がくわしく紹介されています。卵かけごはんのバリエーションや煮干し粉でダシをとる際のコツなど、ぜひ参考にしてみてください。
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亜鉛を上手に摂るポイントは?
亜鉛をしっかり摂取したいなら、いくつかポイントがあると平澤先生。
平澤先生 :
亜鉛は空腹時にもっともよく吸収されるといわれます。吸収率が高まる朝食時などに、亜鉛が含まれる卵かけごはんとみそ汁を食べるのはおすすめです。
前編ではストレスが亜鉛の吸収を妨げることをお伝えしましたが、亜鉛不足につながる要因はほかにもあります。
平澤先生 :
ひとつは食物繊維の過剰摂取。食物繊維によってミネラルが押し流されてしまうので、毎食大量のサラダを食べるような食生活はおすすめできません。
また、スポーツをする女性は亜鉛欠乏性貧血になりやすいという報告があります。亜鉛が筋肉の生成のために消費されることと、亜鉛は汗に多く含まれるため、多量の発汗により漏出してしまうことが原因です。激しい運動をする方は亜鉛チャージを心がけてください。
亜鉛を摂りすぎるとどうなるの?
亜鉛欠乏症は体に多くのダメージを与えますが、摂りすぎるのもよくないと平澤先生はいいます。
平澤先生 :
不思議なことに、亜鉛過剰症になると、亜鉛欠乏症と同じ症状が起こるのです。だるさや倦怠感、味覚の変化、皮膚や毛髪の異常、吐き気、嘔吐といった症状があります。
通常の食生活ではまず亜鉛過剰症になることはありませんが、サプリメントなどで大量に摂ると発症することがあります。できるだけ食事から補給するほうがよいでしょう。
また、亜鉛は鎮痛剤と相性が悪く、痛み止めの効果を落としてしまうことがあります。常備薬がある方は医師に相談してください。
亜鉛欠乏症が怖いのは、いったん体内の亜鉛量が低下してしまうと、治療に時間がかかることだそう。「亜鉛は急に摂っても効果がないので、食事から予防的に摂っておくことが大切」と平澤先生は話します。
免疫力を上げたい、肌・髪を美しく保ちたい、疲れにくい体になりたい、血糖値の上昇を抑えたい……そんなさまざまな願いに応えてくれる「亜鉛」。未来の健康を守るためにも、「亜鉛チャージ健康法」を実践していきましょう。
平澤精一(ひらさわ・せいいち)先生
医師。日本医科大学卒業。日本医科大学大学院医学研究科にて、医学博士号取得。日本医科大学付属病院、三井記念病院などの勤務を経て、1992年に「マイシティクリニック」を開業。2014年から東京医科大学地域医療指導教授として医学生の教育にも関わる。
現在では新宿区医師会会長をつとめ、東京都医師会、新宿区医歯薬会、新宿医療行政関連の委員、役員を兼任。所属学会・医学会は日本泌尿器科学会、日本性感染症学会、日本メンズヘルス医学会、日本抗加齢医学会等多数。健康寿命に深くかかわる「テストステロン」の研究者として、「熟年期障害」の治療、高齢者の健康を守る取り組みを数多く実践。新聞ほか、多くのメディアにその活動が取り上げられている。
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