手指や食品を介し、経口で感染するノロウイルスを防ぐには、正しい手洗いや嘔吐物の処理方法を知っておく必要があります。
ビオフェルミン製薬のセミナーに登壇した専門家のレクチャーから、家庭で実践できるノロウイルス対策をご紹介します。
ノロウイルスに下痢止めはNG
11月から3月にかけて流行する、ノロウイルスによる感染性腸炎。生牡蠣などを介する食中毒として発生しますが、感染力が非常に強いため、ひとりがかかるとまわりに集団感染してしまいます。
東邦大学医療センター大森病院の総合診療・急病センター(内科)で急患の治療にあたる前田正先生によると、ノロウイルスの潜伏期間は1日ほど。感染が疑われる場合は迅速検査もできますが、感度や特異性に限度があり、検査結果は確実ではないといいます。
「感染した場合、原則として治療は対処療法のみ。脱水になってしまった場合には点滴をする、お腹を壊してしまったら整腸薬を使うなどで、抗菌薬は使用しません。
家庭での手当てとしては、何よりも脱水症状にならないようにすることが重要。自分の免疫力で治すしかなく、下痢止めも原則として使用しません」(前田先生)
わずか10個のウイルスで感染が成立
とにかく強力なノロウイルスの感染力。わずか10個~100個程度のウイルスと接触しただけで、感染し、発症してしまう可能性があるそうです。
「それなのに、症状がある患者の糞便1g中には100万個~10億個、嘔吐物1g中には100万個ものウイルスがいるのです。あるノロウイルスが集団発生した施設の調査報告によると、トイレの便座には520個~15,000個/㎠、ドアノブには120個~270個/㎠、手すりには110個~5,900個/㎠のウイルスが確認されています。
家族が感染した場合には、いかに感染せずに嘔吐物・排泄物を処理するかが、対策の要になります」(前田先生)
吐いてしまったときはどうする?
前田先生が指南する、嘔吐物清掃の手順とポイントは次のとおりです。
処理をする人は使い捨てのエプロン、手袋、マスクを着用し、拭き取るための布やペーパータオル、ビニール袋を用意する。 水1000mlに対し、次亜塩素酸ナトリウムを含むハイターなど50ml(キャップ約2杯)混ぜた濃度0.1%の消毒液を用意する。 嘔吐物をまき散らさないように、外側から内側に集めて袋に入れ、そこに2の消毒液を染みこむ程度に入れて消毒する。 使用した布や手袋等は処分。処分が難しいときは、熱湯か、濃度0.02%の消毒液に30分~60分つけたあと、他の洗濯物とは別に洗濯を行う。 処理後は必ず手を洗う。「カーペットの上で嘔吐してしまったときは、0.1%の消毒液を染みこませた布や、ペーパータオルなどで覆うか、浸すようにして拭きます。次亜塩素酸ナトリウムは鉄などの金属を腐食するので、拭き取って10分ほどたったら水拭きしてください。
ウイルス感染を広げないように、嘔吐物清掃は最少人数で行うことも重要。処理後はよく手を洗い、トイレの共有もできる限り避けましょう」(前田先生)
手洗いの5つの盲点
ドアノブや食品、蛇口などの身近なものに人の手が触れることで、さらに感染を広げてしまうのがノロウイルスの難点。「手洗いを適切なタイミングで、“みんな”が行うことが大切」だと話すのは、日本食品衛生協会の神薗紀子さんです。
神薗さんによると、手洗いの際に特に洗い残しをしやすいのは次の5か所だそう。
指先 手のひらのシワ 親指の付け根のふくらみ 手首 爪と皮膚のあいだ「人によって手洗いの仕方にはクセがあります。利き手は特に洗い残しが出やすいので、意識しながら手を洗うことで予防につながります」(神薗さん)
また、財布やスマートフォンの裏面、鞄の持ち手には、特にウイルスが付着しやすいとのこと。
私たちがふだん使っているものにも、ノロウイルスをはじめたくさんの菌が付着しています。気温が低く慌ただしい年始は、とくに体調を崩しやすい季節。ウイルス感染についての理解を深め、まずは身近な手洗いをしっかり行うことが予防の第一歩になりそうです。
感染を防ぐ!
前田正(まえだ・ただし)先生
東邦大学医療センター大森病院総合診療・急病センター(内科)医師。 日本感染症学会専門医・指導医。
公益社団法人 日本食品衛生協会
昭和23年(1948年)11月1日設立。食品関係事業者への食品衛生管理の指導等、消費者への食品衛生知識の向上および飲食等に起因する中毒、感染症及びその他の危害の発生を防止するための各種事業を展開。
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