応用生理学とスポーツ医学を専門とする京都大学名誉教授の森谷敏夫先生は、「ダイエットの方法として、安易に糖質制限をすべきではない」という考えの持ち主です。

食事の7割は炭水化物から摂取しつつ、40年近く、体脂肪率ひと桁代をキープしている森谷先生に、「糖質制限」という食事法が生まれるきっかけとなった糖尿病、そしてがんにまつわるお話をうかがいます。

第4回 まとめ

糖尿病患者、急増の理由は「運動不足」 筋トレは、がんの予防にも効果的 糖尿病もがんも、遺伝しない。日頃からの生活習慣、なかでも運動の習慣が大事

糖尿病患者、急増の理由は「運動不足」

――「糖尿病」は遺伝しないって、本当ですか?

森谷塾長 :

ええ、そうですよ。糖尿病は遺伝が主な原因となって発症するものではありません

私が「糖質はたくさん摂ってもいいよ」と言うと、「親が糖尿病だから、私は糖質制限しないといけない」と反論する人がいますが、そもそも糖尿病は遺伝しない。だから、本人が発症していないなら、糖質制限なんてする必要ありません

WHO(世界保健機関)が糖尿病の診断基準をつくったのが1950年で、世界的に見ても、それまで糖尿病の患者は、ほとんどいませんでした。

ところが、2019年の調査によると日本人の糖尿病患者は1,000万人で、これは日本が独自の診断基準をつくった1955年の実に約45倍です。たった60年の間にこれだけ急増したことからわかるように、遺伝なんかじゃないんです。

――食生活が豊かになって、糖質を摂りすぎたからでしょうか。

森谷塾長 :

そういうことを言い出す人がたくさんいますが、それもハズレ

宮沢賢治の「雨ニモマケズ」(1931年)に、「一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ」と書いてあるように、昔の人は現代人より、うんとたくさんの炭水化物を食べていた。だから、糖質の摂りすぎが糖尿病急増の原因ではないんです。

第1回でもお話しましたが、人間の身体には一日に摂る糖質のうち、約70%を筋肉で使うよう、プログラムされています。なのに、現代人はあまりに動かないから筋肉がやせ細ってしまい、代謝しきれない糖が余って糖尿病を発症する。

つまり糖尿病の原因は筋肉を鍛えていないからです。糖尿病は中高年の病気と思われがちですが、最近は、若いやせ型の女性が発症するケースがたくさん報告されるようになりました。

――若い女性が糖尿病……。食事制限のダイエットを繰り返し、筋肉量が減っているからでしょうか。

森谷塾長 :

そうなんです。若いうちは自覚症状がないので放置する。そして、40代、50代になって気づいたときには、もう手遅れ、なんてことになりかねません。

そうならないよう、普段から身体を動かして、筋肉を鍛えておくことが重要です。それに、筋肉を鍛えることはがんの予防にもつながります。

筋トレは、がんの予防にも効果的

――筋肉を鍛えることが、がん予防に。がんこそ、遺伝の要素が大きいんじゃないんですか?

森谷塾長 :

みんなそう思い込んでいますよね。

がんが発生する要因は、第1位が食べもの35%第2位がタバコ30%第3位がウイルス感染10%で、遺伝に関しては項目にすら入っていない。

――では、どうしてがんは遺伝すると思われていたのでしょう。

森谷塾長 :

おそらく親の食習慣などを子どもが受け継ぐ傾向にあるからでしょう。

食生活でいうと、アンバランスな栄養過食脂肪や塩分の摂りすぎビタミンや食物繊維の不足などがあげられますが、日頃から筋トレを心がけている健康リテラシーの高い人は、食事にも当然、気を使っているので避けられます。

食べものに気をつけ、タバコを吸わず、輸血によるウイルス感染を避ければ、がんの原因の75%を回避することになる。

おまけに筋肉を鍛えることで、発生したがん細胞を除去する「免疫力」も高めることができるから、身体を動かして筋肉を鍛えておくことは、がん予防につながると言えるのです。

――なるほど。糖尿病もがんも、遺伝はしない。日頃からの生活習慣、なかでも運動の習慣が大事だということですね。

森谷塾長 :

そういうこと。今日の宿題は、運動嫌いの人でも家でテレビを観ながらできる、「クッション挟み」を教えましょう。

【今日の宿題】テレビを観ながら内転筋強化「クッション挟み」

イラスト/高村あゆみ

座った状態で、ひざとひざの間にクッションやボールを挟み、両ひざを閉じるように強く押しつけると、「内転筋」という、ももの内側の筋肉が鍛えられます。このときに、クッションやボールを挟んだまま、脚を上げ下げすると、さらに効果的。お風呂上りや外出しない休日など、テレビを観ながらやりましょう。

第1回:ダイエットの勘違い。ぽっこりお腹は体重を減らしても解消されません!
第2回:教授がぶった斬る! 「細くてきれいな脚」が危険な理由
第3回:「朝食を摂らないと、体脂肪が増えて確実に太ります」肥満の意外な原因は?

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森谷敏夫(もりたに・としお)教授
1950年、兵庫県生まれ。1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、Ph.D.)。テキサス大学、テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、カロリンスカ医学研究所国際研究員(スウェーデン政府給費留学)、米国モンタナ大学生命科学部客員教授等を経て1992年、京都大学大学院人間・環境学研究科助教授、2000年から同科教授。2016年から京都大学名誉教授。専門は応用生理学とスポーツ医学で、生活習慣病の温床になる肥満のメカニズムに関する研究や運動ができない人々のための骨格筋電気刺激研究などを精力的に進めている。

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