命の保証がない、と医師に言われるまでに……。
これは、昏睡状態で1週間以上を過ごしたオーストリア在住の元客室乗務員の手記。彼女を死の直前まで追いこんだものは、なんとインフルエンザでした。
だるいけど「風邪かな」と思っていた
ロザリンドさんオーストラリアでは冬にあたる7月。ある朝、風邪かなと思って起きたのですが、時間が進むにつれて、どんどん体がだるくなったのです。翌朝には、寒気が止まらず、私はがたがた震え続けていました。
夫に連れられて病院に行くと、熱は40度以上。医師は風邪なのかインフルエンザなのかは告げず、解熱鎮痛剤を飲み、気分がもっと悪くなったらまた病院へ来るように言われました。
6時間後、私は激しくせき込み、嘔吐。息をするのも困難に。車まで歩けないほど体が弱ってしまったので、夫が救急車を呼ぶことに。最悪の状態ではあったけれども、自分はインフルエンザにかかるわけがないほど丈夫だと思っていたし、こんなことで救急車を呼ぶなんてオーバーで恥ずかしい、という気持ちもあったのです。
1時間半後には集中治療室(ICU)にいた
image via shutterstock病院に着くと、看護師が綿棒で私の鼻の内側から検体を取り、15分後にインフルエンザにかかっていると伝えられました。また、呼吸を助けるために顔に大きな酸素マスクが付けられました。
最初の血液検査からは、主要臓器が機能しなくなる危険があると判明。救急室に入って90分後には私は集中治療室(ICU)に送られました。肺と心臓の働きを測定するために、中心静脈ライン(カテーテルの一種)が鼠径(そけい)部から挿入。ここからは必要なら体液補給も可能になっています。
その時点で私は長丁場になると悟りました。横たわりながら、しばらく入院しそうなことを夫は理解しているのだろうか……などと考えていました。
医師と看護師全員が、私ではなく、私の頭上のスクリーンを見ていたことを覚えています。酸素飽和度が十分にならない場合、臓器が停止し始める可能性があることを夫に説明していました。ひとつの臓器が機能しなくなると、ドミノ倒しのように、すべてが停止する可能性も。誰か別人のことを話しているようで、全く現実味がありませんでした。
ついに昏睡状態に……
10日間昏睡状態だったロザリンドさん(本人提供)3日後、私はまだICUにいて、呼吸が難儀な状態が続いていました。酸素マスクがうまく効かず、違和感を感じていた私は、無意識で外そうとさえしていたのです。
医師と看護師に「マスクを外さないで。外したら死んでしまう」といわれたのを覚えています。それが医療的処置による人工的な昏睡状態から覚める前の出来事として覚えている最後の言葉でした。
当時は分かりませんでしたが、十分に呼吸ができなかったのは、右肺の下部に肺炎を発症していたためでした。私が人工的な昏睡状態となっている間(私が病院に入院してから3日後)、それは私の左肺にも広がっていました。医師らによると、私は基本的に“窒息”している状態だったそう。
なんと、10日間も眠っていた!
ロザリンドさんとベリンダ(本人提供)昏睡状態から覚め、10日間眠っていたと夫に言われてショックを受けました。私は自力では十分な酸素を取り込めず、人工呼吸器を使うために医師らが昏睡状態にしていたのです。
夫は私に事態の深刻さを説明しました。病気なのはわかりましたが、死の淵をさまよったことまでは知らなかったのです。
10日間の昏睡状態の後、水の入った紙コップすら持てないほど筋力は低下。そのコップの水を飲んだときには、人生の中でも最高の飲み物と感じてしまいました。昏睡状態から覚めて数日後、けいれんの大発作を起こしました。医師によると何が原因かははっきりわからないのですが、昏睡の薬の一部をやめたことに対する反応だった可能性があるそう。
結局、その後も病院を1週間以上出られず、肺炎が治り、肺の力が回復した後にようやく退院。歩くためには車輪付きの歩行器(ベリンダと名づけました)が必要でした。数か月の間ずっと、ベリンダと一緒。ベリンダの助けはもう必要ありませんが、いまでも私のクローゼットに大切にしまっています。
なぜ彼女はインフルエンザにかかったのか?
image via shutterstockどこでインフルエンザのウイルスをもらったのか考え続けています。私は海外に行って風邪をひいて戻ってきた友人と会っていました。 病気になる数日前にもデイケアで過ごしました。しかし誰からもらったかはいまだにわかりません。
医師によると、私の経験した深刻な合併症は、まれとはいえ、通常のインフルエンザの株でも十分に起こりうることだといいます。
怖いのは、少し気分が悪くなってから入院するまでわずか36時間しかなかったこと。緊急治療室に入ってからも、事の重大さに気づけていませんでした。
インフルエンザ関連の合併症に最も弱いのは幼い子や高齢者ですが、何歳であろうと致命的になることがあるのです。私と同時期にインフルエンザで入院していた20代の男性は亡くなりました。なぜ私が生き延びて、彼は命を落としてしまったのかは分かりません。
インフルエンザの影響は続く
image via shutterstock死の危険にさらされて、私の生活だけでなく、周囲の人の生活も変わりました。感情的には、ポジティブな考えをもっと持とうと思えるようになりました。人生に投げやりな姿勢をとることはもうないと思います。
健康上の影響は残っています。肺に問題がないかを確認するため呼吸器の検査を受ける必要があります。また、長い間同じ姿勢で横たわっていたため、片足に神経障害も。そのため、歩行したり身体のバランスを保ったりするのが難しくなりました。医師らは、「9か月もあれば治るでしょう」と言いましたが、1年が経ち、まだ週3回、理学療法士に通っています。
この4月には、インフルエンザの予防接種が待ちきれませんでした。 肺炎ワクチンも受けました。 注射を2回受けてこんなにうれしかったことは初めてです。これで健康に自信が持てました。
正直なところ、今回のことがなければ、おそらくワクチン接種を受けようとも考えなかったはず。しかし私と同じ目に合えばみんな目が覚めると思います。それはもう、とてつもないものだったのです。インフルエンザの予防接種は永遠に受けます。
かかる前に予防を!
インフルエンザ予防接種を受けるべきか迷っています。医師の答えは…
「風邪・インフルエンザは大事なときほどかかりやすい」は本当でした
Rosalind Schell and As Told To Keri Wiginton/I Nearly Died of the Flu and It Forever Changed My Perspective on Vaccines/STELLA MEDIX Ltd.(翻訳)