効くと思って飲み続けていた薬が、ただの砂糖菓子だったら?
プラセボ(プラシーボ)効果とは、臨床試験に参加している患者が、効能のない錠剤などを服用した後に、治療薬と信じて楽になったと感じる現象をいうもの。
これまで、偽薬の効用を信じることおろかだ、とか、偽薬が効くのなら病気じゃなかったのでは? といったようにプラセボ効果はありえないと批判されてきました。しかし、研究が進展するにつれて、「プラセボ効果はない」という批判が徐々にしりぞけられるようになっています。
前回は、プラセボ効果のメカニズムを紹介しました。今回も、プラセボの具体的な期待できる作用について専門家に教えてもらいましょう。
痛み、うつ病など症状を和らげる?
image via shutterstockプラセボ(偽薬)を応用するために、脳の回路が健康とどのように結びついているのかの研究が進められています。
「プラセボは、痛み、うつ病、パーキンソン病に関連する症状に対して効果があります。それは、心の状態が気分や感情を制御したり、うまく適応したりできるからです」と、アプカリアン博士。しかし、感染症やがんの場合、プラセボは、ペニシリンや化学療法ととってかわることはできません。
たとえば、プラセボを服用すると、痛みを和らげることができます。これは痛みを和らげる脳内麻薬の経路を同じように活性化するため。
逆に、プラセボを服用する患者にオピオイド遮断薬を投与するなどしてこの経路を妨害すると、プラセボは効かなくなり、機能しなくなります。
悲しみ、心を落ち着かせることにも
また、メンタルヘルスの分野では、プラセボが痛みや苦痛の感情にかかわる神経経路に影響することも画像解析で示されています。
ある研究によると、精神的苦痛が軽くなると言われてスプレー式点鼻薬についての説明を受け、別れた人物の写真を見てもらいました。するとそのスプレーがプラセボであったとしても、悲しみが軽くなると分かったのです。
別の研究では、グリーンの色を見ると落ち着くと言われ、そのあと、グリーンを見た被験者は、落ち着きを感じると報告。暗示のためである可能性が高いとみられています。
あらかじめ「偽薬」と伝えても回復した
image via shutterstockプラセボについては、まだまだわからないこともあります。
まず、プラセボに反応する人とそうでない人がいるのは、大きな謎です。「反応する人が誰なのかを事前に予測しようとするのは、きわめて難しいのです。ある病状で反応し、別の病状では反応しないこともあります」(ウェイガー博士)
症例研究が少しずつ増えているので、医師は誰が反応するかを予測したり、また、反応しない人を反応するようにしたりできるかもしれません。プラセボの可能性を広げることが期待されています。
また、最新の研究フェーズでは、「オープンラベル(非盲検)」、または「正直な」プラセボ試験が行われています。
この試験では、患者に薬を使わない治療をすることをはっきりと伝えます。さまざまな側面がありますが、とりわけ、薬物の有効性を調べるために、患者をあざむくという倫理的ジレンマをなくすことにもなります。
すでに過敏性腸症候群(IBS)や、片頭痛の研究では成功しています。被験者ははじめから治療に薬は使用しないと告げられましたが、それでも具合が良くなったのです。
こうした研究に基づけば、プラセボ効果が本物であることを医師は患者に伝えることができるでしょう。それに、この臨床データを医師に提供し、興味がある場合には薬物なしの選択肢を提供できます。
アプカリアン博士は、「非盲検のプラセボが効果的というエビデンスは興味深いもの。プラセボをどう使うかという点ではまだスタート地点ですが、こうした研究が示す意味は非常に大きい」と話します。
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