アスリートのコンディショニングを研究する枝伸彦さん(国立スポーツ科学センター スポーツ研究部 研究員 博士)によると、この現象は偶然ではなく、人間の「免疫力」と関係しているとのこと。
「花王ヘルスケアフォーラム」に登壇された枝さんの講演から、アスリートに学ぶインフルエンザ対策のポイントをお伝えします。
過度の運動とストレスで免疫ダウン
体を鍛えているアスリートは風邪をひかない、というイメージがあるかもしれません。しかし、実際には試合前に風邪を引いてしまい、パフォーマンスを発揮できないアスリートはとても多いのだそう。原因はアスリート特有のハードなトレーニングとストレスだと枝伸彦さんは話します。
枝さん「運動と免疫機能・感染リスクの関係を調査したデータでは、中強度(適度)の運動は免疫機能を高めるのに対し、高強度(過度)の運動は免疫機能を平均よりも低下させてしまうことが明らかになりました。
原因は、高疲労・高ストレス。海外遠征するアスリートの場合は、飛行機による長距離移動や多大なプレッシャーなども、疲労とストレスを増大させます。その結果として免疫が低下し、感染リスクが上がってしまうのです」
高疲労・高ストレスになりやすいのはどんな人?
この調査結果は私たちにとっても人ごとではありません。
重要な会議・プレゼン前の社会人や、試験期間中の学生や受験生、乳幼児を抱えた子育て世代など、「がんばる人、失敗できない人ほど高疲労・高ストレスになりやすく、免疫低下による感染症のリスクが高い」と枝さん。
枝さん「一時的な強い疲労も、免疫の低下をもたらします。
たとえばフルマラソン直後は免疫機能が大きく下がり、翌日までその状態が続く。病原体を防御できなくなる、“オープンウィンドウ”と呼ばれる状態です」
「免疫向上ツール」で疲労・ストレス対策
いったん下がってしまった免疫機能の回復には、疲労・ストレスケアが不可欠です。
海外遠征するアスリートの場合、炭酸水温浴や畳の部屋を用意することでリラックスを促し、免疫をアップさせる試みも行われているそう。
さらに、以下のような「免疫向上ツール」が免疫低下対策として効果的だったといいます。
マッサージや鍼刺激など、物理療法によるリカバリー ヨガやアロマテラピーによるリラクゼーション ビタミンA・D、クロレラ、乳酸菌などの栄養補助食品の摂取これらはアスリートだけでなく、私たち一般人にとっても取り入れやすいのがうれしいところ。感染リスクが高まるこれからの季節、上手に活用していきたいですね。
体内にウイルスなどの病原体が入るのを防ぐ
インフルエンザや風邪を防ぐためには、免疫を高めることに加え、ワクチンの接種はもちろん、手洗い、マスクなどでウイルスなどの病原体を体内に入れないことが重要です。
枝さんはこうした対策に加え、ぜひ「水分摂取」を心がけてほしいと話します。
枝さん「水分を摂ることで、バリア機能をアップすることができます。なかでも、抗ウイルス作用があるカテキンを含む緑茶はとくにおすすめです。また、加湿やタオルの共有をさけるなどもよいでしょう」
「のどバリア」を高める新しい予防習慣を
この日のセミナーで花王株式会社の山本真士さん(パーソナルヘルスケア研究所)は、インフルエンザ・風邪予防のための「のどバリア」を高める研究知見を発表。
山本さんによると、「のどや鼻の粘膜細胞の表面にはウイルスなどの異物を体内に入れないように、最後の砦としてバリア機能が備わっています。感染症予防には、この『のどバリア』を高めることが大切」とのこと。
「のどバリア」を高める方法は下記があるそうです。
1.カテキンをのど粘膜に留める
カテキンには、抗インフルエンザウイルス作用があることが知られています。緑茶をこまめに飲んだり、とろみのついたカテキンを継続的に飲むと、のど粘膜にカテキンがとどまりやすくなります。
2.唾液の量・質を高める
唾液には、インフルエンザウイルスから粘膜細胞を防御する効果(抗インフルエンザ効果)があることが知られています。
なかでも「炭酸発泡刺激」は、インフルエンザウイルスに対する防御効果の高い良質な唾液の分泌を助けるといわれています。その他、あごの真下にある「舌下腺」と、あごの骨の内側にある「顎下腺」を指で押す「唾液マッサージ」もおすすめ。
絶対に失敗したくない仕事や試験の前には、さまざまな予防法を重ねて、インフルエンザや風邪に備えましょう。
予防と対策をしっかりと!
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枝伸彦(えだ・のぶひこ)さん
国立スポーツ科学センター スポーツ研究部 研究員。早稲田大学 スポーツ科学学術院 スポーツ科学部 助教授を経て現職。専門はスポーツ医学、運動免疫学、運動生理学。
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