Q.顎関節症とは何ですか?
顎関節症とは、ざっくり言うと、口が開きにくくて、食べたり話したりするという口の機能に支障が出てしまう状態のことを言います。口を開ける時に痛い、音がする。または、口が開かない。曲がって開くといったことに困っているならば疑っていいかもしれません。基本的に、あごを動かす時に症状が出ます。
軽い顎関節症の人はたくさんいらっしゃいます。大事なのは、日常生活に支障があるかどうか。日常生活に支障はなく、空けると「カクカク」と音がする、なんとなく開けにくいけれど困っていないという人は、あえて積極的な治療はしません。生活習慣を見直したり、ストレッチやマッサージをお勧めしたりして、悪化しないようにコントロールします。
しかし、そういう人でも波はあります。生活に支障なくよいときがあれば、悪いときもあるのです。徐々に悪化する場合や、生活に支障が出てくるようならば治療をすすめます。
顎関節症の要因はさまざまです。骨格、生活習慣、くせ、かみ合わせ、ストレスなどが関係し、ひとつやると治るというものでもありません。そういう場合は治すのが難しいのです。手術をすることもありますが、それも負担です。日常生活に支障があるレベルなのかどうかを基準に考えます。
Q.顎関節症はどう判定すればいいですか?
あごに指をあてて動かしてみるのがおすすめです。3本、耳の前に置いて、口を開けたり閉じたりするのです。あごの関節が触れて、動くのが分かると思います。
それで左右差があるときやあまりあごの動きを感じづらい人は要注意です。左右差があるならば、どちらかの顎関節が悪くなっていると考えられます。あごの関節の動きが分からないときは、いつも歯を食いしばっていて、筋膜が張っている可能性があります。そうした原因から顎関節症になっている可能性があります。
区別しなければならないのは、中耳炎や外耳炎などの耳の病気や神経痛です。耳の痛みから、顎関節に痛みを感じることがあります。また逆に、顎関節症の方の約半数は、耳の痛みを自覚すると言われています。
歯科医学の教科書に書かれているようなことから言えば、チェックポイントとしては次のような点に注意するとどうでしょう。
口を開けたときに、指3本が縦に入れられる あごが曲がって開く(日常生活で支障が出ている) 硬い物を噛んだときに痛む さわったときに、あごの動きに左右差があったり、感じられなかったりする(前述の通り)とはいえ、指3本で耳の前を触るのが一番分かりやすいと思います。
Q.顎関節症だとあごが動かしづらくなるのはどうしてですか。
あごの関節は複雑で二段階方式で大きく開くようになっています。この複雑さから、開きにくくなりやすいのです。あごの関節にトラブルがあると、一段階目で止まることがあり、あごが大きく開きません。ほかの関節はもっとシンプルですから、あごの関節は違うのです。
Q.顎関節症であごから音がするのはどうして?
あごの関節には、関節円板という小さな軟骨があります。この関節円板があることで本来であれば、あごの動きはなめらかになります。この関節円板の位置が正常でなかったり、形に異常があったりするとき、無理にあごを開けようとすると関節円板が障害となって音がすることがあるのです。
Q.顎関節症があると痛みはどうして出てくるの?
痛む可能性があるのは、大きく3つの部分です。
関節に異常があって関節が痛む場合。食いしばりなどがあって周囲の筋肉が痛む場合。さらに、ストレスなどで脳や途中の神経に障害が起きている場合です。いわば中か外、脳や途中の神経となります。
痛みがあるときは痛みの原因を探ることが重要ですが、複雑に絡み合っていて診断が難しいこともあります。顎関節症の原因として食いしばりが多くみられます。この場合は筋肉の痛みがほとんどです。かみしめると痛くなるのは、拳を10分くらい強く握って、開いたときに痛みが残ると思いますが、似たようなことがあごの筋肉で起こっていることもあります。
Q.顎関節症はどうして起こるのですか?
あごの骨には左右差があり、片方が大きいとなりやすくなります。あごの関節の変形が問題になることもあります。またひじをついていたりほおづえをついたりしても起こります。
バイオリンの演奏では左右の力の差が出てきてしまうので、顎関節症になりやすいです。歯を食いしばっていることが多い、かみ合わせが悪いといったケースでも、どこかの歯に負担が掛かっていてあごの関節の動きに無理がかかっていることもあります。
精神的な問題が関係することもあります。10代の成長期でなる人が多いですが、大人になると治ったりします。上のあごと下のあごの成長がずれたりして起こるのです。
女性が多く20代から30代がピークだと思いますが、年を取ってくると関節がゆるくなるのか少ない印象があります。
さらに、ぶつけたりして圧迫されて炎症が起こるとき、組織が壊れて痛む。それはどの関節でも起こりえることです。突き指もそうですが、転んだりぶたれたりしてあごを打つとそうなります。骨が折れてしまえば別ですが、1週間から1か月で治ることが多いです。
Q.顎関節症の診察はいつ受ければいいですか?
症状にも波があると思いますが、その波が気になってくるようであれば受診をおすすめします。原因を明らかにして、できるだけよい状態をキープできるようにアドバイスをもらうとよいと思います。 たとえば、ハンバーガーがかめない、サンドイッチを噛もうとしても口が開かない。そうしたときには治療を考えてよいと思います。1回でもそうした経験があれば受診してよいでしょう。ちょっと音がするなど、生活に支障がないのであれば、うまく付き合うといいのではないかと思います。
Q.顎関節症の治療はどう行うの?
もちろん原因によりますが、原因を明らかにして、それに合わせて治します。
あごの変形だけなのか、変なくせが関係しているのか、ストレスで緊張しているのか、歯の食いしばりがあるのか。かみ合わせが悪いのか。そのうちいくつの条件に当てはまるのか。理由を調べていきます。
かみ合わせが悪いならば、矯正治療を行うことになります。あごの関節の変形があるならば、手術を行い、形を変えたり、人工の顎関節をつけたりすることもあります。手術は最終手段ですから、関節の問題についてはマウスピースを装着したりストレッチをしたりしてもらうことがいいと考えています。
最近では、歯と歯がくっついて、かみしめている。TCH(ティース・クリンチング・ハビット)と呼ばれる口のくせが注目されています。よく上下の歯はくっついているのが日常だと思われることがありますが、そうではありません。
気がつくと歯がくっついているならば気をつけて離すようにするのです。くせを治すのが大切です。ほおづえや寝る姿勢も同じ方向に偏っていたりするとよくありません。
一般的にメジャーなのは、マウスピースです。マウスピースがファーストチョイスとして用いられることが多いです。これだけで治ることも多くあります。
マウスピースがよいのは、やってだめだったらすぐに外せばいいところ。歯を削ったり、手術で切ったりするわけでもありません。気軽にトライできる治療です。
一方で、手術はあまり行われなくなってきました。顎関節を洗い流すといった治療もありましたが、効果が一時的で続かないと考えられるようになっています。
Q.顎関節症である場合に生活で気をつけるといいことは?
大切なのは、無理して口を開けないことです。関節ですから、過度な負担をかけないようにします。お風呂などで温まった時に、やさしくストレッチをする程度で、うまく付き合っていくことが大切です。生活に支障が出ているならば、治療を考えるようにします。
Q.顎関節症を口腔外科で治療するといいのですか?
相談するのは口腔外科でいいかもしれません。虫歯や歯周病治療といった歯の治療以外は、口腔外科と考えられることが多いですね。かかりつけの歯医者さんがあるのならば、相談して紹介状をかいてもらうといいのではないでしょうか。原因が複雑なので、いろいろな先生の意見を聞いてみるのもいいと思います。
Q.顎関節症の治療にかかる費用は?
健康保険で治療可能です。マウスピースを使う場合は、3割負担で5000円くらいになります。このほかCT検査したり、関節を詳しく見たりするのに3割負担で5000円くらいになります。
一方で、かみあわせが原因で矯正治療が必要なときには自費になります。マウスピースなどの治療を行い、保険診療で何とかするのがほとんどですが、自費診療で顎関節症の治療をしている先生もいます。
口の中のトラブル
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徳永淳二(とくなが・じゅんじ)先生
歯科医師。医療法人メディスタイル理事長。 「美しく健康な生活を医学の力でサポートします」のコンセプトの下で、美容皮膚科と形成外科、歯科の診療を同じクリニックで提供。東京医科歯科大学を卒業後、勤務医などを経て、スウェーデンのイエテボリ大学にてDr.ウィドマークに師事し、神奈川県逗子市にて開業。逗子メディスタイルクリニック
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