皮膚科医の川島眞先生に聞く「光老化の基礎知識」。前編に続き、後編では誤解している人が多い日やけ止めの選び方や塗り方について、くわしく伺っていきます。
見過ごされてきた近赤外線対策
肌老化の主な原因は加齢ではなく「光老化」だという川島先生。光老化は肌のシミやシワ、たるみだけでなく、皮膚がんも引き起こします。
「オゾンホールの破壊が進み、太陽光線による悪影響が増している今、光老化の認知度が低いことは問題です。
また前編でお話したように、紫外線対策だけが広まり、ブルーライトや近赤外線に対して無防備であることも危惧しています」(川島先生)
※仕組みを理解しやすいように簡略化していますNPO法人 皮膚の健康研究機構 光老化啓発プロジェクト委員会HPより
紫外線よりも皮膚の奥深く、筋膜や筋肉にまで届き、たるみの原因になるという近赤外線(NIR)。
現在、日やけ止めの防御効果はUVB(紫外線B波)の遮断率を表すSPFと、UVA(紫外線A波)の遮断率を表すPAの数値だけが指標となっています。
しかし、これだけでは近赤外線の遮断率はわかりません。
今後の浸透に期待したい「SNIP」
image via Shutterstockそこで川島先生たちが考案したのが、「SNIP」という近赤外線の遮断率をあらわす数値です。
「近赤外線にも、その予防効果を計る指標が必要です。SNIPは1~4までレベルがあって、SNIP2以上は近赤外線の防御効果があります。
この数値を、SPFやPAに加えてもいいのではないかと提案しています」(川島先生)
残念ながらSPF・PA値が高くても、成分によっては近赤外線を防げないものがあると川島先生。
今まで使っていた日やけ止めが近赤外線を遮断してくれるものならラッキーですが、多くの人は知らずに浴び続けているはずです。
ブルーライトはUVAに近い害がある?
image via Shutterstockそれでは、太陽光線だけでなくスマホやパソコンからも発せられるブルーライトはどうなのでしょうか。
川島先生によると、ブルーライトはUVA(紫外線A波)に近い害を与えると考えられているそう。皮膚の表皮を抜けて真皮にまでたどり着き、シミやシワの発生に影響を与える可能性があります。
「ブルーライトは夜も当たっている人が多いと思いますが、それでシミ・シワができるというエビデンスはまだ十分ではありません。
しかし今後若い女性にシミ・シワが増えてきたら、“ブルーライトしみ”や“ブルーライトしわ”と言われるようになるかもしれませんね」(川島先生)
ブルーライトも近赤外線も、肌への悪影響についての研究は発展途上。
しかし太陽光線のパワーの大きさを考えると、これらを無視した光老化対策は得策とはいえません。
日常的に使う日やけ止めも、近赤外線やブルーライトを防ぐ効果があるものを選んだほうがよさそうです。
日やけ止めを正しく使えない人が多すぎる
image via Shutterstock川島先生によると、日やけ止めに関しては使い方を間違っている人があまりに多いとのこと。
「私たちがよく問題にしているのは、とにかく使用量が少なすぎるということです。
SPFやPAの数値は、皮膚1平方センチメートルあたり2ミリグラム塗布して計測されています。これは、皆さんがイメージする倍くらいの厚さだと思ってほしいのです。
ある実験でふだん通りに日やけ止めを塗ってもらったら、皆さん透明なジェルタイプでも1平方センチメートルあたり1ミリグラムぐらいしか塗っていませんでした。
白浮きするクリームなら0.6~0.7ミリグラム、スプレーなら0.3ミリグラムくらい。これでは、SPFもPAも半分くらいまで落ちています。スプレーはほとんど意味がないといってもいいくらいです」(川島先生)
現在、光老化を予防する最低限の目安は「SPF15・PA+」といわれます。しかし表示通りの効果を得たいのであれば、十分な厚さ・量を塗布することが大切。
薄塗りすることが多い美容下地やファンデーションのSPFやPA値は、表示より少なく見積もった方がいいかもしれません。
「日やけ止めのなかでも透明なジェルタイプは重ねても目立ちにくく、結果的に厚塗りできるのでおすすめです。
ある人がうまく表現していたのですが、SPFやPAは車の燃費みたいなもの。
あくまで性能を比較する目安であり、使い方によって全く効果が違ってきてしまうことを知ってほしいですね」(川島先生)
そしてショートヘアの人は、耳たぶや耳の上~裏側にもしっかりサンスクリーンをつけてほしいと川島先生。日やけ止めを塗る習慣のない男性は、耳や首筋に皮膚がんを発症するケースがかなりあるといいます。
【日やけ止めを使用する際のポイント】
日やけ止めはふだんの倍くらいの厚さに塗らないと、表示通りの効果はないと心得る。 厚塗りしやすい透明ジェルタイプの日やけ止めがおすすめ。 ジェルタイプをベースにし、さらにクリーム、仕上げにスプレーというように、剤形の違うものを重ねることも効果的。 耳まわりや首筋が出るヘアスタイルの人は、皮膚がん予防のため、この部分にも忘れずに日やけ止めを塗ること。上記を参考に、ぜひ効果的な光老化対策に取り組んでみてください。
川島 眞先生
1978年東京大学医学部卒業。東京女子医科大学皮膚科主任教授を経て、2018年 東京女子医科大学名誉教授に就任。専門はアトピー性皮膚炎、ウイルス感染症、美容医療。日本香粧品学会前理事長、日本美容皮膚科学会前理事長、日本近赤外線研究会理事長、日本コスメティック協会理事長、皮膚の健康研究機構副理事長。