そもそも「メンタル」とは何?
極度の緊張状態やプレッシャーのなかでベストパフォーマンスを求められるアスリート。大舞台で結果を残している一流のアスリートはみんな、メンタルの重要性を理解し、うまくコントロールしているようですが、そもそも「メンタル」って何なのでしょう?
「ペットボトルに水が半分ほど入っている状態を見て、『半分しかない』と思う人と『半分もある』と思う人がいます。目の前に起こった出来事をどう受け止めるか、その心の動きがメンタルです」(鈴木さん、以下同)
どうとらえるかで、気持ちや行動が大きく変わる。自信が持てずネガティブな思いにかられてしまうのは、「過去の経験によって、“マイナス思考のパターン”がすり込まれているから」だと鈴木さんは言います。
なぜネガティブマインドになるのか
「前髪を触ったり、貧乏ゆすりをしたりと人にはそれぞれクセがありますが、心も人によってクセがあります。いつもネガティブに考えてしまう人は、極端にマイナスなところばかりを見るクセがついていて、『どうしてできないんだろう』『なぜ私はダメなんだろう』と自分を否定する問いかけばかりして、悪循環に陥っているのです」
自分で自分にダメ出しをしているうちに自己評価がどんどん下がり、追い込んでしまう。そのような問いかけを鈴木さんは「ネガティブアスキング」と呼んでいます。ネガティブアスキングをすることが、物事をマイナスに見る“心のクセ”にスイッチを入れてしまう、ということですね。
では、「ネガティブアスキング」をやめて、心のクセを変えるにはどうしたらいいのでしょうか。
心のクセを変える対処法
対処法1:反省より改善
課題を意識化する「ポジティブアスキング」
「自分へのダメだしとは、いわゆる“反省”のことですが、自分を追い込んでばかりいても状況は変わりません。ピンチのときや落ち込んでいるときにやるべきは“反省”ではなく“改善”。改善のためには、前向きな問いかけ『ポジティブアスキング』をすればいいのです」
すぐに答えは見つからなくても、「どうやったらこのピンチを脱出できるか」「ほかに方法はないか」とつねに自分に問い続けることによって、解決のためのヒントを見つけやすくなるのだとか。
人間の脳は意識していないことには驚くほど無頓着。「ポジティブアスキング」で何を求めているかを明確に意識するだけで、いままで見えなかったさまざまなことに気づいて、解決の糸口が見つかりやすくなるんですね。
失敗してネガティブな思いにかられたときの対処法はわかりましたが、そもそも自分に自信がないという人はどうすればいいのでしょう。
対処法2:“なりたい自分”になりきる「モデリング」
「水泳で結果を出したいと、コーチングを受けにきた大学生の男の子は、自分に自信が持てなくて、人前で話すのが苦手。けっこうカッコいいのに、彼女ができたこともないと言うのです。自信がないことが競技にも影響を及ぼしていたのですが、ある日『1ヵ月間、サッカーの本田圭佑選手になりきって生活してください』という課題を与えました。変えるのは見た目ではなく内面だけです」
誰かになりきることを心理学では「モデリング」といいますが、1ヵ月後、鈴木さんのもとに訪れた彼は、ゆっくりとした話し方になり、眼光が鋭くなっていた。自分に自信が持てるようになり、なんと彼女までできた。この変わりぶりには課題を出した鈴木さんも驚いたそうです。
モデリングをするときは、他人に言う必要はなく自分のなかでこっそりやるだけ。女性であれば、憧れの女優やドラマの登場人物など、“なりたい人”になったつもりで所作や言動を真似してみる。1日中なりきるのが難しければ、帰宅後だけや週末だけのモデリングでも効果があるそうです。
でも、人の性格ってそんなに簡単に変わるものでしょうか?
人の性格は、変わりやすく変えやすい
「自分の血液型を知らなかったという知人の女性は、あるときB型であるとわかると、どんどん”B型らしい性格”に変わっていきました。血液型が性格に影響するなんてことは科学的根拠がないと証明されているにもかかわらず、彼女は都合の良い情報をあたかも占いが当たったかのような感覚に陥って、自分の性格を修正して変えていったのです。
この『思い込み』をバイアスと呼びますが、人間の性格はこのくらい変わりやすいということです」
変わりやすいということは、変えやすいということ。これまでずっとマイナス思考で生きてきて、「いまさら自分の性格は変えられない」とあきらめている人も、変われる可能性があるのです。
「お箸を使ったり自転車に乗ったりするのは、慣れてきて感覚をつかめたら、当たり前のこととしてできるようになるけれど、初めての日は誰もうまくできません。このことを“脳の可塑性(かそせい)”といいますが、性格を変えるのも同じこと。経験に応じて脳は変化するのです」
人は変化しやすい性質だ、ということを知った上で、「ポジティブアスキング」や「モデリング」をやってみると、より効果が出やすいのではないかと鈴木さんは言います。
自分をポジティブにしてくれる人とつきあうこと
それでも変われない人は、もっと根本的な幼少期の体験や記憶に「思い込み」の原因がひそんでいて、「思い込みのフタ」が固く閉まったままの状態になっているのかもしれません。その場合は自己分析をして、自分を見つめ直すことが必要です。
自己分析をひとりでやるのはかなり大変で、核心にまで到達できないこともあるのだとか。だからこそ、鈴木さんのような専門家がいるわけですが、鈴木さんによると、女性の場合は、“しゃべる”という行為によって「思い込み」に気づけることがあるそうです。
「『思い込み』というキーワードを念頭に置きつつ、悩みを相談したり、指摘されたりするうちに自分自身を見つめ直し、『思い込みのフタ』がパカッと外れることがあります。
そのときに気をつけてほしいのは、一緒にいるとポジティブになれる人たちと話すこと。ネガティブなことばかり言う人とは、いくら話しても答えは見つからないでしょう」
「人は、普段つきあっている人たちの平均で成り立っている」という鈴木さん。一緒にいるとポジティブになれる仲間を増やしていくことも、前向きになるための大切な要素なんですね。
鈴木颯人(すずき・はやと)
1983年、イギリス生まれの東京育ち。スポーツメンタルコーチ。Re-Departure合同会社代表。日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。7歳から野球を始め、中学ではピッチャーとして活躍し強豪高校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後も失敗や挫折を繰り返し、心身のバランスを崩して、うつ病と診断されるが脳と心の仕組みをイチから学び、うつ病を克服。これまでの自身の経験をもとに勝負所で力を発揮させる独自のメソッドを構築し、2013年にスポーツメンタルコーチとして独立。競技の種類やプロアマを問わず、パフォーマンスを激変させるアスリートが続出している。これまでコーチングしたアスリートは1万人以上、15万人を超えるTwitterフォロワーに日々メッセージを発信中。著書は『一流を目指すメンタル術』(三笠書房)、『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)、『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』(フォレスト出版)、『脳科学×心理学 うちの子のやる気スイッチを押す方法、教えてください!』(かんき出版)https://re-departure.com
https://twitter.com/HayatoSuzuki11
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