食習慣の変化による腸内細菌の異常が、さまざまな全身性疾患の要因になる――。そう警告するのは、腸内細菌研究の第一人者である慶應義塾大学薬学部教授・長谷耕二さんです。

江崎グリコ株式会社が主催した長谷さんのレクチャーから、“腸の健康”を保つ重要性と、忙しい女性が実践すべき3つのポイントについてご紹介します。

腸内細菌は「質」も大切だけど、「数」も重要

人生100年時代といわれる今、平均寿命と健康寿命のギャップをいかに縮めるかは大きな課題です。近年とくに研究が進んでいるのが、全身の健康における「腸」の重要性。慶應義塾大学薬学部で生化学講座の教授をつとめる長谷耕二さんは、こう語ります。

「2014年にニューヨーク・タイムズが腸内細菌についての記事を出したとき、“我々は大量の微生物を保有する入れ物である”という言い方をしました。ヒトは、自らの体細胞より多くの細菌によって作られています。しかも遺伝子も、体細胞より腸内細菌の遺伝子の保有数のほうが多いのです」(長谷さん)

これまでは、「人間の健康は腸内細菌に左右されるため、その質を高めることが大切」といった捉え方が一般的だったと長谷さん。しかし現在は、腸内細菌の「数」も注目されるようになってきたといいます。

トータルでどれくらいの腸内細菌を保有しているかも重要。保有数には個人差があり、6倍くらい差があることもあるんです」(長谷さん)

長谷さんいわく、大腸は「微生物発酵の場」。腸内細菌は、人間の消化器官だけでは分解できない炭水化物を分解し、人間が再利用できるエネルギーへと変えてくれます。

さらに、腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸などの代謝物は、宿主である私たちの免疫系や代謝系も調節しているのだそう。

腸内細菌の数や種類が減れば、産生される代謝物の数も減り、種類も限定されてしまいます。腸内細菌が多様性を保ち、元気に働いてくれることは、健康維持に欠かせない条件だったのです。

健康な人の便を移植! 欧米では「便バンク」も

「健康な状態なら、ヒトは腸内細菌との共生関係(シンバイオーシス)を維持できます。しかし、抗生物質をずっと飲んでいたり、高カロリー・高タンパクな食習慣を続けていると、ディスバイオーシス(共生異常)が起こります」(長谷さん)

ディスバイオーシスが起こると、肥満、メタボ、糖尿病、肝がん、リウマチなど、さまざまな疾患の原因となるとのこと。自閉症やパーキンソン病など、脳の病気を引き起こすこともあります。

これらの病気の改善策として欧米で注目されているのが、腸内細菌叢の移植です。

以前の記事でも紹介しましたが、健康な人の便を患者の腸に移植する治療法「便微生物移植」もそのひとつ。欧米では「便バンク」が次々と設立されているといいます。

「便移植による体質改善は、確かに腸内細菌をリセットする作用があります。しかし、急激な肥満を誘発するなど副作用の報告もあります」(長谷さん)

ポテンシャルは高いけれど、まだまだ危険性もある細菌移植。マイクロバイオーム(腸内細菌叢、腸内フローラとも)の改善には、やはり地道な食習慣の見直しが必要であり、ぜひ「シンバイオティクス」を実践してほしいと長谷さんは話します。

善玉菌とそのエサを一緒に摂る「シンバイオティクス」

「シンバイオティクス」とは、簡単にいえば腸の働きをよくする有用菌(善玉菌)と、そのエサとなる食物繊維やオリゴ糖を同時に摂取することです。(食事から善玉菌を摂取することを「プロバイオティクス」、善玉菌のエサとなるものを摂取することを「プレバイオティクス」といいます)。

「昔持っていた善玉菌を、現代人はどんどん失いつつある。それを私たちは、ミッシングマイクロバイオータと呼んでいます。

菌の種類も数も減っている私たちは太っているのに、腸内細菌はやせ細っている。そのひとつの原因は、食事が高カロリー・高タンパクの西洋食に偏っていることにあると考えられます」(長谷さん)

西洋食は腸内細菌のエサとなる食物繊維が少なく、それがディスバイオーシスにつながると長谷さん。日本人にとっては、昔の日本食に立ち返ることが最善の方法なのだそう。

雑穀を主食として、いろいろな野菜や漬物などの発酵食品、ゴボウなどの根菜をたくさん摂る。そういう食事が腸内細菌には一番よいんですね。しかしこういった食事は手間がかかり、忙しい現代女性には難しいこともよくわかります」(長谷さん)

腸内細菌を改善する3つのポイント

長谷さんが「ここから始めてほしい」と話すマイクロバイオーム改善のポイントは、次の3つ。

塩分は控えめにして、腸内の炎症を防ぐ。 高脂肪、高タンパクの食事を避ける。 食物繊維に富んだいろいろな種類の食材を摂る。

「まずは昔の日本人の食事をお手本に。忙しいときはシンバイオティクスに着目した機能性食品を使うのもひとつの手です」(長谷さん)

たとえばビフィズス菌に、食物繊維の一種であるイヌリンをプラスした機能性ヨーグルト「BifiX」であれば、ビフィズス菌だけを摂取するよりも効率よく善玉菌を増やすことができるそう。イヌリンはチコリ、ゴボウ、タマネギ、ニンニク、バナナなどに含まれる水溶性の食物繊維です。

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さまざまな全身性疾患の要因となるマイクロバイオームの異常。「シンバイオティクス」によって腸内環境を整えることは、単に「お腹の調子をよくする」だけでなく、病気を未然に防ぐ“健康の基本”なのだと実感しました。

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長谷耕二(はせ こうじ)さん
慶應義塾大学薬学部 教授。専門は免疫学、上皮細胞生物学。粘膜免疫系における宿主―微生物間相互作用の解析などを研究テーマとする。2014年より慶應義塾大学薬学部生化学講座教授。2010年日本免疫学会研究奨励賞、2015年日本学術振興会賞、2016年ベルツ賞(共同受賞)を受賞。

取材・文/田邉愛理、構成/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock

RSS情報:https://www.mylohas.net/2019/04/187996intestinal_bacteria.html