今回は、老化の原因物質AGE研究の第一人者である、内科医の山岸昌一教授に、糖化とは何か、AGEができる仕組み、糖化を起こさない食べ方のコツなどを3回にわたって伺いました。
01.「糖化」って何?
甘く香ばしい、こんがりと焼けたホットケーキ。この「きつね色」が糖化の正体です。ホットケーキの材料は小麦粉、牛乳、卵、砂糖ですが、「牛乳+卵」のタンパク質と「砂糖」の糖質がフライパンで加熱することにより結びつき「糖化」を起こし、こんがりきつね色になります。
糖化反応は、「タンパク質+糖質+熱=糖化」という図式になりますが、この条件が揃うと、あらゆるところでおこります。コーヒー豆の焙煎、ビールや味噌の発酵食品でも糖化反応は起きています。
人間の体はタンパク質でできていますから、当然、体内も糖化の危険にさらされています。食事から糖を摂取すると、36~37度の体温でもじわじわと糖化が進んでいき、細胞組織に焼き色や焦げ目が現れてくるのです。
糖は人間にとって欠かすことのできないエネルギー源であり、タンパク質は体の屋台骨と言えます。人間にとって糖化は、ある意味、避けて通ることのできない現象です。
糖化されたタンパク質は、糖の濃度が下がれば、正常な状態に戻ることができますが、体内に糖が長時間にわたり過剰に存在すると、元には戻れない状態になります。この糖化がかなり進行したタンパク質は、AGE(エー・ジー・イー/Advanced Glycation End Products/終末糖化産物)と呼ばれています。
タンパク質に糖がくっついてしまうと、元のタンパク質が持っていた働きがどんどん損なわれていきます。健康を維持する上で、できるだけAGE化は避けなければなりません。
02.「AGE」ってどうやってできるの?
クレームブリュレに砂糖を焦がした硬いカラメルが乗っていますね。あのように、人間の細胞をコゲさせてしまったものが「AGE」という物質のイメージ。細胞の表面にベタベタと糖がくっつき、時間が経って元に戻ることができなくなった最終的な生成物です。
AGEは「血糖値」×「持続時間」という掛け算式に増えていきます。掛け算が大きければ、それだけAGEの量も増え、蓄積することに。高血糖の状態が長く続くと、AGEはどんどん増えていくのです。
AGEが体内で蓄積される仕組みは2通りあります。
ひとつは、体内でつくられる「内因的」なAGE。これは血液中のブドウ糖濃度が高ければ高いほど、タンパク質を結びつきやすくなり、糖化を促進させます。この状態が長く続くとAGEが作られることに。
もうひとつは食べ物から体内に入る「外因的」なAGE。こんがり焼いたきつね色のもの、炒めたり、焼いたり、揚げたりしたもの。タンパク質+糖質+熱で糖化するわけですから、これらのものをよく食べる人は、AGE化が進みやすいといえます。
03.AGEがたまるとどうなるの?
タンパク質に糖がくっついて時間が経ち、AGEに変化してしまうと体に悪さをする物質として、周りのタンパク質もどんどんAGE化させながら、体内に長時間居座るようになります。強い毒性を持つ、やっかいな物質です。
AGEはタンパク質によりつくられるため、筋肉や皮膚、髪の毛、眼の水晶体など、すべてのタンパク質に蓄積します。
では蓄積するとどうなるかというと、AGEにより、歯の土台部分が不安定になる歯周病、毛細血管がAGE化する腎臓病、AGEが脳の組織にシミを作り、アルツハイマー病を引き起こすことも。ガン細胞の増殖にも関係している可能性があります。血管もタンパク質ですから、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞の恐れも。
そして、皮膚のハリがない、シワやシミが気になるようになった、という人もAGE化のサイン。皮膚にAGEがたまるとコラーゲンが変性してハリを失い、たるみがでてきたりします。老化の原因がAGEというのが実感できるかもしれません。
ほかにも、転んだだけで骨折する、ひざや関節が痛いなど、日常で感じることがでてきます。
また髪のコシやつやもなくなります。髪の毛のほとんどはケラチンというタンパク質でできているので、ケラチンがAGE化すると髪の強度が低下し、コシも失われてもろくなります。AGE化を実感しやすいパーツといえます。
このように体内のタンパク質がコゲていくわけですから、あらゆる弊害がでてきてしまうのです。
04.たまったAGEは排出できるの?
現時点で、AGEを排出できる可能性があるのが「吸着炭」です。吸着炭とは、高温で焼いた炭に水蒸気を当てることで、炭の表面に細かな穴をあけたもの。吸着炭の表面にある超微細孔がAGEを吸着する働きがあると言われています。
それを医薬品に応用したものが「クレメジン」という薬。ただし、これは慢性腎不全の薬であり、AGEの治療薬ではありません。また、高純度のセルロースを成分とした純炭(ダイエタリーカーボン)にもAGEを吸着する活性があります。
まずは「体に取り込むAGEを減らす」ことをから始めましょう。炒める、焼く、揚げるといった調理法のものはAGEを取り込みやすいとお伝えしましたが、生食、茹でる、蒸すはAGEが少ない食事法。これらの食事習慣を続けていくことがおすすめです。
05.AGEができやすい人はいるの?
高血圧の人は、血糖値が正常であってもAGEが作られやすいという研究結果があります。ただし、高血圧だからAGEが増えやすいのではなく、AGEが既に増えているから高血圧になっている可能性が。
血管が硬くなる原因は、コラーゲンのAGE化。弾力がなくなり、全身への血流がスムーズにいかず、血圧の上下の差が大きくなるからです。
さらに高血圧と高血糖を併発している人は、高血糖だけの人よりも糖化が早く進むことがわかっています。高血糖もAGE化の原因ですから、高血糖状態が続く病気である糖尿病の人もAGEができやすいといえます。
しかしAGEができる一番の原因は、毎日の食生活。「タンパク質+糖質+熱」によりできる料理は、AGEを取り込みやすいものです。低温調理した食材や生ものを食べることが多い人は、AGEができにくいでしょう。
ただし、AGEが溜まりやすい遺伝子を持っている人も中にはいます。家系に糖尿病で透析を受けている人がいれば、AGEを溜め込みやすい体質を受け継いでいる可能性がありますので、より一層食生活に注意が必要です。
次回は、「糖化」を減少、増加させる要因についてご紹介します。
山岸昌一教授
医学博士。金沢大学医学部卒。久留米大学医学部教授を経て、現在、昭和大学医学部教授。循環器、糖尿病、高血圧と多岐にわたる生活習慣病領域の専門医として診療に携わる一方で、糖尿病と合併症の研究から老化の原因物質AGEに着目。AGEに関する最新データを次々と発表し、世界で最も精力的にAGE研究に取り組んでいる医師の一人。AGEに関する医学研究で、アメリカ心臓病協会最優秀賞、日本糖尿病学会賞、日本抗加齢医学会研究奨励賞など多数の医学賞を受賞している。
参照元/『exAGEハンドブック』山岸晶一(一般社団法人AGE研究協会)、『「老けないカラダ」になる50の知恵 AGEを減らして10歳若返る!』山岸昌一/寺山イク子(メディアソフト)