性欲のスイッチはどこにある?
男性と女性、性別によって性欲のあり方は変わるのでしょうか。そう尋ねると、「性別は、そんなにパキッと分断できるものではないんです」と宋先生。あくまで平均的にという前提にはなるけれど、男女で「性欲のスイッチ」は異なる傾向にあると話してくれました。
「たとえば男性は、道を歩いている女性のスカートがひらっとして、下着がちょっと見えるとムラッとしたり。視覚的な刺激に反応しやすいんですね。
いっぽう女性は、肩をそっと抱かれたりするような、触覚を含めた五感の影響が大きいようです。相手との関係性やムード、安心できる環境かどうかも大事。初対面の人とはセックスできないという人も、男性より多いと思います」(宋先生)
男女で「最高のセックス」は違う?
以前、某雑誌で「最高のセックス」についてアンケートをとったところ、男女で顕著に差が出たのだそう。女性に多かったのは、「愛する彼とロマンチックなシチュエーションで……」。あるいは「最高のオーガズムに達した」といった思い出でした。
「ところが男性は、『モデルとやれた』『CAと……』『巨乳の女性と……』なんて、視覚とステータスばっかりだったんです。それだけでいいんか、中身はないんか、と(笑)。
女性の場合は、男性よりもセックスでオーガズムに達することが少ないので、すばらしいオーガズム=最高のセックス、という認識になるのかもしれません。
でも男性は自分が動く方だから、感じるかどうかはある程度自分でコントロールできちゃうのかな。そこはあまり男性に幻想を抱くのもよくないのかもしれませんね」(宋先生)
女性のライフステージと性欲の関係
あまり性欲がないという女性の悩みに関しては、「男性と比較してしまうと、女性は生物学的に難しい。仕組みとして男性の性欲のほうが勝っているわけですから」と宋先生。
しかも女性の性欲は、妊娠、出産、更年期、閉経といった体の変化に大きな影響を受けます。
妊娠中は性欲が上がる人もいれば下がる人もいるけれど、産後は基本的に減る人が多いそう。更年期から閉経後も、加齢やホルモンの低下とともに、性欲が減退する女性が増えてきます。
「前編で性欲は主に男性ホルモン(テストステロン)が司るといいましたが、もちろん女性ホルモンの影響もあるわけです。
産後の性欲が減るのは、プロラクチンという母乳を作るホルモンのせい。プロゲステロンという女性ホルモンも性欲に対してマイナスの方向に働き、エストロゲンはプラスに働くとされています」(宋先生)
妊娠中に性欲が増す人がいると言われるのは、妊娠するとエストロゲンが一気に増えるため。これは一時的なもので、出産すると一気に下がります。とはいえ、妊娠した女性全員の性欲が高まるわけではありません。
「女性は年を重ねると性欲が強くなる」の誤解
女性の性欲に関して、「年を重ねると性欲が強くなる」という噂を聞くことがあります。これについて宋先生は「医学的な根拠はない」としながらも、仮説があると話してくれました。
「同世代と付き合っているとすると、30代になると男性の性欲も落ち着いてきて、そんなに頻繁に求められなくなります。すると『私いま、性欲を持て余してる?』と女性が思う瞬間が出てくるのかも。
年齢を重ねて男性の性欲が相対的に減少することで、女性が自分の性欲を自覚するということです。
それに年を重ねると、女性も性的なことを人と話せるようになってきますよね。自分の性欲やセックスをマネジメントできるようになってくる。そういう点が性的にアクティブになったと見られるのかもしれません」(宋先生)
女性の性欲が認められたのは20世紀
自分の体のことなのに、知らないことだらけの「女性の性欲」。これは私たち日本人だけの問題ではありません。
「長い間、世界的に女性には性欲がないと思われていました。20世紀に入ってようやく、女性にも性欲があると認められるようになったんです」(宋先生)
性欲を認めないことは、性へのタブー視にもつながります。男性は思春期から、友達同士で性欲やマスターベーションについて語る機会があるけれど、女性はそうではないと宋先生は話します。
家庭で性的な話題がタブーだったり、友達と話す機会がなかったりして、性的なもの=恥ずかしいものだという認識を持った場合、性欲が極端に少ないまま大人になるケースも多いのだそう。性機能障害、性的興奮障害といわれる症状がこれに当たります。
性欲マネジメントの方法は?
宋先生によると、「性欲がわかない」と「性欲がありすぎる」という悩みは、クリニックでも難治性とされ、解決が難しいのだそう。
若い頃からマスターベーションをするなどして自分でコントロールしてきた人のほうが、性欲マネジメントはうまくいきやすいといいます。
「自分が何で欲情するかをわかっていない人は、欲情しづらい。私は“脳内おかず”と呼んでいるんですが、自分の性欲のスイッチをわかっている人のほうが、実際のセックスでもそういうことを思い浮かべたりしながら、体の反応を高めていくことができます。
それを相手と共有しなくても、自分でわかっているだけでもいいですし、長くパートナーとセックスをするのであれば、お互いの性的嗜好は知っていたほうがいいですよね」(宋先生)
相手と性欲を感じる方向が一緒で、どんどん2人だけのセックスが共有できれば、飽きずにセックスできる関係に近づけると宋先生。
「でも、それはワザではないと思うんです。そこだけじゃなくて、何に興奮するか、もっというと何に冷めるか。そういうところをパートナーとすりあわせていけたらいい。
『そういうことを話すと嫌われる』と思って、悶々とする人もいると思います。でも日本のカップルに言いたいのは、何も言わずに“あうんの呼吸”でいたいなんて、そんなのハードルが高すぎるということです。
2人で可能な範囲で、お互いの性欲について話せたら、きっといいセックスにつながるんじゃないかなと思います」(宋先生)
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宋美玄(そん・みひょん)先生
兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業、産婦人科専門医、医学博士。現在は東京都千代田区にある「丸の内の森レディースクリニック」院長。産婦人科の臨床医を務める傍ら、テレビや雑誌、講演などで、セックス、女性の性や妊娠・出産などについての啓発活動を行っている。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)など著書多数。
企画・構成/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock
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