でも一部の女性にとって、それらの不快な症状は自然におこることではありません。(アメリカでは)約60万人の女性が、いわゆる外科的閉経(子宮や卵巣の摘出手術を受けた結果、閉経すること)をむかえているからです。
手術を受けた理由は、人それぞれ。卵巣がんのリスクを最小限におさえるために手術を受けた人もいれば、のう胞ができたり、痛みがあったりして、卵巣がすでに悪い状態だったために手術を受けた人も。
でも、手術を受けた理由はさておき、ひとつだけ共通して言えるのは、彼女たちはすぐに閉経をむかえているということ。なぜならば、卵巣は生殖にかかわるホルモンの中枢であるからです。
「卵巣がないとエストロゲンが分泌されないため、自然に閉経したときとまったく同じ症状がみられます。たとえば、ほてり、膣の乾燥、不安、睡眠障害、気分の浮きしずみ、皮膚の変化、体重増加などがあげられます」と医師のマシュー・T・シードホフさん。シードホフさんは、ロサンジェルスのシダー・シナイ病院で婦人科医をつとめています。
限定的ではありますが、卵巣がんの遺伝的リスクの高い女性にとっては、卵巣摘出術を受けることに予防的な意義があると言えます。緊急事態を避けられるし、痛みを最小限に抑えることも可能。
また、予防医学の論文レビューによると、BRCA1とBRCA2という遺伝子の突然変異を持っている女性が卵巣を摘出した場合、乳がん、卵巣がんのリスクが約80%減少するとも言われています。
そうとは言っても、卵巣を摘出する手術を受けるかどうかは簡単に決められることではありません。今回は、卵巣の摘出に関するさまざまな疑問にお答えします。
手術による身体への負担はどうなの?
image via shutterstock「卵巣を摘出するときに身体のダメージがもっとも少ないのは、腹腔鏡下手術です。この手術では、おへその近くに小さな穴をあけ、小型のカメラを入れて卵巣を摘出します」と、シードホフさん。
「この方法だと通常の開腹手術と比べて、血液がかたまる血栓が生じたり、感染が起きたりする合併症が起きるリスクが小さくなり、入院期間も短くなります」(シードホフさん)
開腹手術の場合は、帝王切開したときのような傷口が残るのに対して、腹腔鏡下手術だと傷口が小さくてすむので、美容上のメリットもあるとのこと。一方、開腹手術は回復までにやや時間がかかるのですが、開腹手術でないと難しいケースもあります。
ホルモンは補充したほうがいいの? よくないの?
image via shutterstock卵巣を摘出することによって、卵巣がん、乳がんのリスクが下がるという利点は確かに大きいのですが、リスクがまったくないというわけではありません。心臓病、骨粗しょう症、認知症のリスクを高めることにつながります。その原因は、エストロゲンの急激な減少によると考えられています。
「35歳以下で卵巣を摘出すると、認知症のリスクが2倍近く、心臓病のリスクが7倍以上、心臓発作のリスクが8倍以上それぞれ高くなることが、研究によって示されています」と医師のフィリップ・サレルさん。サレルさんはイェール大学産婦人科、生殖科学、精神医学の名誉教授でAdvancing Health After Hysterectomy Foundationの理事長をつとめています。
少なくなったエストロゲンを薬で補うのは適当ではないと考える専門家もいます。「卵巣をとった女性のうち、手術後10か月までの間、エストロゲンを多少なりとも薬で補っているのは、たった25%です」とサレルさん。
2000年代のはじめに公開された「女性の健康イニシアチブ(WHI: Women’s Health Initiative)」による研究データは、議論を巻き起こしました(エストロゲンを薬で補うことが乳がんのリスクを高める可能性が示されました)。
手術なしで自然閉経をむかえた多くの女性と同じく、手術で卵巣を摘出した女性も、ホルモン補充療法(より正確に言うと、ホルモン療法)に不安を感じるようになりました。ここで当時の論争を蒸し返すつもりはありませんが、その研究結果は誇張されている面がないとは言い切れず、結果として、多くの女性がホルモン療法をためらうようになったのです。
一方で、「卵巣のあるなし、閉経の前後にかかわらず、多くの女性にとってホルモン療法のメリットは期待できると思います」と、シードホフさんは言います。
「卵巣を摘出した30代から40代の女性は、少なくとも自然に閉経となる年齢(だいたい50歳か51歳くらい)までエストロゲンを補うことを特におすすめします。」
サレルさんによると、ホルモンの減少によって起こる急性期の症状を避けるためには、卵巣を摘出した直後か、摘出の直前にホルモン療法を開始するのが理想的だそう。
ホルモン療法を開始する年齢が高ければ高いほど、WHI研究で発表された通り、リスクは高くなり、健康へのダメージがより大きくなるので、はじめるタイミングが重要とのこと。
たとえば、卵巣を摘出した手術から6年後にホルモン療法をはじめると、手術後3年ではじめたときと比べて、骨の健康状態が悪くなってしまいます。同様に、手術後2か月以内にはじめた場合と比べると、手術後3年ではじめたときのほうが、骨がより弱くなることと関連づけられます。
子宮を摘出しても、卵巣を残すことはできるの?
image via shutterstock子宮筋腫や子宮内膜症で子宮を摘出することになっても、卵巣は残すことが可能です。エストロゲンがなくなるリスクを考えれば、卵巣をそのまま残したいと思うのではないでしょうか。
「確かにその通り。子宮の摘出は、卵巣を摘出することを連想させるもの。過去何年にもわたり閉経前の女性に対して、そのふたつは同時によく行なわれてきたのです。でも今は、ほとんどの女性が卵巣からのホルモンによるメリットを考慮し、健康な卵巣を残すことを選ぶようになっています」とシードホフさん。
「手術で子宮をとった場合、その後のホルモン値の経過を観察する必要があります」とサレルさん。
サレルさんは次のような研究結果を発表しました。手術後6か月では、25%の女性に卵巣の血流不足による卵巣機能の停止がみられました。手術後3年だと、40%の女性に同じことがみられ、残り60%の女性にはまったく問題がみられなかったとのこと。
「この結果から、手術で子宮をとっても卵巣は機能し続けるということが推測されます。でも、卵巣が通常量のエストロゲンを産生しているかどうか、きちんと確認しないといけません」。
サレルさんによると、ほてり、睡眠障害、気分の落ち込みなどの症状は、エストロゲンが生み出されていないサインだそう。更年期の症状と同じです。
「これらの症状がみられたときは、エストロゲン補充療法を受けることが必要です。それで症状はおさまるでしょう」(サレルさん)
卵巣にできる袋状の腫瘍「卵巣のう腫」ができたときは?
image via shutterstockがんの予防を主な目的とする場合は、両方の卵巣を摘出することが必要です。片方の卵巣のみにのう胞などの異常があったときには、卵巣を残す方向で考えていきます。
「生殖能力を維持し、ホルモン機能の変化を避けるためです」とシードホフさん。月経が起こるので早期閉経に伴うリスクが避けられるし、妊娠する可能性も残すことができます。
卵管をとりのぞく場合もあるの?
image via shutterstock手術で卵巣を摘出するときは、卵管も一緒に切除することになります。卵巣がないと排卵が起こらなくなるので、卵のとおり道である卵管を残すべき理由がなくなるからです。
また、シードホフさんが付け加えるのは、卵巣がんについての次のような事実。卵巣がんがいちばんはじめにできるのは卵巣と限らず、先に卵管にできることもあるというのです。
(避妊などのために)卵管を結さつする(結ぶ)手術を受けた女性で、卵巣がんのリスクが小さくなると示した研究が報告されています。(卵巣に手を加えていないのに卵巣がんが減るという)こうした事実から、がんのリスクを避けるためには、卵管も一緒にとりのぞくことが必要と考えられています。
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