でも、膝やくるぶし、肘などと比べて、はるかに広範囲に動くので、痛みやケガも多くなりがち。「肩の痛みのために理学療法士のお世話になる人は本当に多いのです」と、ニューヨーク大学ランゴーン医療センター「ラスク・リハビリテーション医学研究所」の臨床専門家で理学療法博士のロバート・カウフマンさん。
首と肩の痛みの原因は?
image via shutterstock肩の痛みは必ずしもケガによるものとは限りません。同じ動作を繰り返すことで次第に痛みが強くなったり、胆のうの病気など、肩とはまったく関係のない原因により痛んだり。
次から、肩の痛みを引き起こす原因のなかでも特に多い7つの原因とその対処法をご紹介します。
重すぎるものを持ち上げたとき 筋肉のアンバランス 滑液包炎(かつえきほうえん) 正常な磨耗や断裂 肩関節不安定症 インピンジメント症候群 五十肩(肩関節周囲炎)01. 重すぎるものを持ち上げたとき
image via shutterstockよくあるのが、重たいスーツケースなどのような重すぎるものを持ち上げたときです「肩に力がかかりすぎて、肩が痛むというのは、単純ですがよくあることなのです」とカウフマンさん。
肩に力がかかりすぎたときに負担がかかるのが、肩の周囲の筋肉である「回旋筋腱板」と呼ばれるところ。「肩の問題でいちばん多いのが、回旋筋腱板に関係したものです」と、ジョンズ・ホプキンス病院整形外科の准教授、ミホ・タナカさん(女性のスポーツ医学プログラムディレクター)。
回旋筋腱板は、腕と肩との間をつなぐ筋肉の束。腕を上げるときなどに使いますが、炎症が起きたり、傷ついたりすることがあるのです。
02. 筋肉のアンバランス
image via shutterstock「肩を強くするときには、筋肉がアンバランスにならないようにするのが大切なのです。関節がやわらかくなるように、必ずさまざまなタイプの運動をします」とタナカさん。
「ベンチプレス(主に上腕三頭筋や三角筋前部を鍛える)やバイセップカール(上腕二頭筋を鍛える)ばかりやって、ロウイングマシーン(僧帽筋や背筋)や肩の伸展運動をしないと、アンバランスなトレーニングになってしまいます」(カウフマンさん)
03. 滑液包炎(かつえきほうえん)
image via shutterstock関節には、摩擦を減らしてくれる「滑液包」と呼ばれる液体の入った袋があります。
関節を使いすぎると、滑液包に炎症が起きて、滑液包の液体が増えてふくらんでしまうことがあります。「関節に過度な力がかかったり、関節が硬くなったりすると、関節の動きが悪くなります。すると滑液包を刺激してしまうことになるのです」と、カウフマンさん。
04. 正常な磨耗や断裂
image via shutterstock「回旋筋腱板が、年齢とともに薄くなって、すり切れてきます。このときに回旋筋腱板に炎症が起こって、肩の前や側面に痛みが出てくるのです」と、タナカさん。
このほか、年齢とともに起こりやすい関節炎でいちばん多いタイプである「骨関節炎」も問題になります。たいていは手や膝、腰、脊椎に起こりやすいのですが、肩にも発生するのです。肩の背面の深いところが痛くなってきます。症状が進んでくると、肩がこわばってきて、そちらの方が問題になってくることもあります。
タナカさんによると、手を使った単純作業をしている人や長くスポーツをしていた人で起こりやすいそう。
関節が繰り返し使われることで、骨の端のクッションになっている軟骨組織が劣化するのです。普通は30代から始まるようです。
肩の痛みをやわらげる方法3つ
市販の鎮痛薬:市販の鎮痛薬と、肩を安静にして冷やすことは、炎症と痛みをやわらげてくれます。
柔軟性トレーニング:肩のストレッチを頻繁に行うと、関節は動きやすくなります。
強化運動:前面や側面など、肩のいろいろな方向に動かして鍛えます。すると筋肉のアンバランスを防ぐ効果があります。
05. 肩関節不安定症
image via shutterstock肩関節を脱臼してしまうことはあるのですが、強い力がかからなくても肩がはずれることがあるのです。「関節がゆるんでいて、はずれやすい人もいます」と、カウフマンさん。「肩関節不安定症」と呼ばれています。
肩のほかの問題と同じく、改善するにはトレーニングに取り組むことになります。カウフマンさんによると、この場合は、特に肩を安定させるトレーニングを行います。
一例としては、ゴム製のバンドを使う方法があります。バンドを握って、腕と肩を一定の位置(肩の関節が不安定に感じられる位置の辺り)に保ち、誰かにバンドをさまざまな方向に軽く引っ張ってもらって、その動きに抵抗するというものです。
「関節がはずれてしまわないように、肩を回転させることになるのです」とカウフマンさん。
06. インピンジメント症候群
インピンジメントインピンジメント症候群(「水泳肩」や「投球障害肩」とも呼ばれます)は、滑液包炎や腱炎と密接に関連しています。「肩峰(けんぽう)」と呼ばれる、肩の上の部分で痛みが出てくるのです。
「さまざまな症状をまとめてこう呼んでいますが、どのようにして起こるのかはわかっていません」と、テネシー理学療法協会のチャタヌーガ地区長を務める認定整形理学療法士のザッカリー・リソーンさんは説明します。
07. 五十肩(肩関節周囲炎)
image via shutterstock「五十肩(肩関節周囲炎)」になると、肩の周りがこわばって、うまく動かせなくなります。「凍結肩」や「癒着性関節包炎」と呼ばれることもあります。五十肩は関節炎とは関係がありません。「固まりつつある(凍結しつつある)状態」「固まった(凍結した)状態」「ゆるんだ(凍結が溶けた)状態」の3段階があり、痛みがひどいのはたいてい最初のふたつの段階となります。
「かなりの痛みに始まって、ひどくこわばった状態に進行します」と、カウフマンさん。これといった原因はありませんが、なりやすいのは40歳以上の人、これまで肩に問題がなかった人、そして糖尿病、心臓病、甲状腺の病気がある人です。
カウフマンさんによると、どこが損傷しているかによって治療法が異なり、治るまでに長くかかります。「残念ながら、よくなったと感じられるまでに診断から少なくとも1年かかる人が多いのです」。
肩の痛みなのに肩のせいではない場合もある?
image via shutterstock神経系の異常がある場合に、肩の痛みが出てくることもあります。神経をつたって、ほかの場所の痛みとしてあらわれるのです。
典型的な例としては、心臓発作の最初のサインが、歯やあごの痛みとなってあらわれる場合です。「胆のうの病気と頸椎のヘルニアが、どちらも背中の上部、肩の近くに痛みをもたらすことがある」とタナカさんは説明します。
このタイプの痛みがある場合は、肩を動かして悪化することがありません。どちらかというと、休んでいるときも痛みが消えないのが特徴で、痛みがしつこく感じられます。「あてはまると思った人は、すぐに医師の診断を」と、タナカさんはアドバイスします。
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訳/STELLA MEDIX Ltd.