日本人のソウルフードである味噌。いま、がんや高血圧を防ぎ、整腸効果や美肌効果が期待できるなど、味噌がもつ驚くべきパワーに注目が集まっています。味噌の効能を30年にわたり研究している広島大学名誉教授の渡邊敦光先生に、女性のカラダにうれしい味噌のメリットについて聞きました。

渡邊先生の専門は、実験病理学と放射線生物学。発がん性物質や放射線を使い、がん化の機構の解明に取り組んでいます。味噌とはかけ離れた研究テーマのようですが、じつは味噌には放射線を防ぐ作用があるのだそう。

「味噌と放射線、マウスで実験したところ、放射線を浴びる以前から味噌を摂取していると、その障害が緩和されることがわかったのです。

調査の結果、それは味噌を褐色にするメラノイジンという物質と関係があるとわかりました。最近では、放射線の防御作用はメラノイジンだけではなく、ある物質も効果がありそうなことが分かり始めています」(渡邊先生)

ダイエットや美肌にもつながる…「メラノイジン」で腸をきれいに

このメラノイジン、じつは「腸活」にもぴったりの成分。腸内環境を整えて便秘を解消してくれるといいます。

「栄養学者の五明紀春博士の研究によると、メラノイジンを加えたエサを与えたラットでは、通常のエサを与えたラットと比べて、腸内の乳酸菌が10倍も増えることがわかりました。乳酸菌の働きが活発になれば、便の排泄がスムーズになり、腸がきれいになります。

腸内の粘膜組織の再生も活発になり、老廃物を効率よく排出できるようになりますから、体内の老廃物もため込まずに済むようになります」(渡邊先生)

腸がきれいになれば、ダイエット効果、美肌効果、アンチエイジングなども期待できます。メラノイジンが豊富に含まれるのは熟成が進んだ味噌なので、半年~2年間を目安によく熟成された味噌を選ぶことがポイントです。

「また、これはテレビ番組でも紹介されて話題になりましたが、味噌に含まれるグルコシルセラミドという成分には、角層の保水力アップなどの効果が期待できます。メラニンの合成を抑えるリノール酸も含まれているので、シミの予防や美白効果もあると考えられます」(渡邊先生)

実際に先生のまわりでも、「ミソガール」として味噌の魅力を広める活動をしている藤本智子さんなど、味噌汁をよく飲むようになってから「肌がきれいになった」という人がとても多いそう。毎日の味噌汁で、腸も肌もきれいになるとはうれしいかぎりです。

味噌のイソフラボンが「乳がん」を抑制する

味噌にはこのほかにもさまざまな成分が含まれ、それぞれに健康効果が認められていると渡邊先生。たとえば味噌に含まれるイソフラボンには、乳がんを抑制するはたらきがあるといいます。

「2003年、『味噌汁の摂取が多い女性は乳がんになりにくかった』という調査結果が、厚生労働省の研究班から発表されました(※1)。1日1杯以下しか味噌汁を飲まない人を1とすると、1日3杯以上の人の乳がんリスクは0.6。なんと4割減という結果が出たのです」(渡邊先生)

この乳がんと味噌汁に関する調査は、味噌汁や豆腐・納豆などの大豆製品の摂取率と乳がんの発生率の関係を調べたもの。40~59歳の女性21,852人を対象に、10年間にわたって調査が行われました。

味噌以外の大豆製品(大豆、豆腐、油揚げ、納豆)についても調べましたが、そちらでは明確な関連がみられなかったといいますから、これは味噌汁の効果とみて間違いないと思います。

さらに、Gotohが行ったラットを用いた実験では、乳腺腫瘍があるラットでも、味噌を食べる量が多ければ多いほど、腫瘍が大きくならないことが分かりました(※2)」(渡邊先生)

乳がんだけでなく、肺腺がん、日本人に多い肝臓がんや大腸がんにも、味噌の抑止効果が確認されたと渡邊先生。

味噌とがんの関係にはまだまだ解明しきれていない部分がたくさんあるけれど、「おおむね味噌にがんの予防効果がありそうだ」と結論づけても問題ないだけの結果が得られていると話します。

※1 出典:Yamamoto S.,J Natl Cancer Inst 95:906-913,2003.、※2 出典:Gotoh T Jpn Cancer Res 89:137-142,487-495 1998.

伝統的な和食で「がん対策」を

現在の日本の食生活を考えると、味噌の消費量が減り、欧米化が進んでいることに危惧をおぼえるという渡邊先生。

小麦から作るパンや牛乳、肉類、脂料理、乳製品を多くとる食事は、日本人には高脂肪で食物繊維が少なすぎます。西洋人より食物繊維を多くとってきた日本人の大腸は、彼らと比べると1メートルも長く、食物繊維に対応しやすい体になっています。

ところが西洋料理が浸透したことで、体に思わぬ影響が出てしまった。そのひとつが、がんの罹患率が増えたこと。食物繊維が少なく消化しやすい西洋料理を食べることで、大腸が発がん性物質に触れる機会が多くなってしまったと考えられます」(渡邊先生)

実際にデータ(※3)でも、戦後70余年で日本人のがん罹患率は増え続けていると渡邊先生。食生活の改善から効果があらわれるまでには、がんの潜伏期から考えると20年以上かかるため、できるだけ早く改善してほしいと話します。

1日2杯以上味噌汁を飲む食生活、すなわち和食に立ち戻ること。それが日本人の体質や遺伝子に合った“がん対策”になります」(渡邊先生)

渡邊敦光先生にうかがう味噌の驚くべき健康効果。第2回は味噌の栄養成分や、味噌を食べても塩分過多にならない理由など、味噌をもっと楽しむ基礎知識についてご紹介します。

※3 出典:がん情報サービス2015より

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渡邊敦光(わたなべ ひろみつ)先生
広島大学名誉教授、理学博士、医学博士。専門は実験病理学と放射線生物学。1940年福岡県生まれ。九州大学大学院博士課程理学研究科修了。1973年広島大学原爆放射線医科学研究所で助手、助教授を経て1996年教授。その間アメリカ ウイスコンシン大学、イギリス パターソンがん研究所で主に放射線生物学の研究を重ね、2004年退官後も名誉教授として日々研究を続けている。一方で1980年から、味噌の有効性について動物実験に基づく研究を本格的に始める。世界的な医学データベース「PubMed」にMisoについての論文を多数掲載。『味噌大全』(東京堂出版)を監修。著書に『味噌力』(かんき出版)、『味噌を使ってまいにち健康になる』(キクロス出版)など。

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