今回は、このところ人気が再燃している地中海食のキーアイテム「オリーブオイル」をピックアップ。有識者が注目するオリーブオイルの健康パワーや、オリーブオイルを使った簡単レシピをご紹介します。
地中海食がヘルシーな理由
2010年にユネスコの世界無形文化遺産に登録された地中海料理。心血管病や肥満、がんや糖尿病、アルツハイマーといったさまざまな病気を予防するといわれ、健康維持や栄養学的なモデルとしても高く評価されています。
地中海料理とは、魚介類、穀類、乳製品、野菜、フルーツなどをバランスよくとり、油脂分は肉類を少量、オリーブオイルを中心として摂取するというもの。適量のワインを飲みながら、ゆっくりとコミュニケーションする食事スタイルを好むのが特徴です。スペイン、イタリア、ギリシャ、モロッコの4か国が共同でユネスコに申請し、2013年にはクロアチア、ポルトガル、キプロスの3か国も加わりました。
でも、これら地中海沿岸地域の人々は脂肪摂取が多く、血清総コレステロール値もけっして低くはありません。それなのに心疾患の罹患率が低いというのは、うらやましくも不思議な話。2013年にはスペイン居住者で動脈硬化性疾患を治療中の患者を中心に、地中海料理と脂質制限食、それぞれを食すグループに分けて調査を行ったところ、地中海料理のグループは約30%も心血管病の発症が少なかったといいます。
そんな地中海食で毎日ふんだんに使われているのが、「Oil」の語源でもあるオリーブオイル。オレイン酸やポリフェノール類が豊富なオリーブオイルは、地中海沿岸では昔から「不老長寿の秘薬」と呼ばれるほど。実を絞るだけで作ることができるオリーブオイルは人類が最初に手に入れた油であり、その健康効果は6000年の歴史が実証してきたといえるかもしれません。
1日スプーン2杯を推奨。オリーブオイルの7つの力
オリーブオイルの力は世界で認められており、アメリカの食品医薬品局(FDA)では、「1日スプーン2杯のオリーブオイル摂取」をすすめているそう。欧州食品安全局(EFSA)が2011年に発表したのは、オリーブポリフェノールに含まれる「オレウロペイン」のパワー。「抗酸化作用があり、それによって血中コレステロールから身体を守る」として、健康強度表示を認めました。
エクストラバージンオリーブオイルに期待される働きは、簡単にまとめると下記の7点。オリーブオイルの“酸化防止力”には、さまざまなメリットがあるようです。
痛みを抑える……オリーブポリフェノールのひとつ「オレオカンタール」は、鎮痛薬成分のイブプロフェンと同じように作用するという研究結果が発表されている。 骨粗しょう症を防ぐ……オリーブの葉や若い実に多く含まれる「オレウロペイン」や、その代謝産物「ヒドロキシチロソール」によって骨密度の低下を防いだり、関節炎を改善するという研究結果が発表されている。 がんのリスクを下げる……日常的摂取により、乳がん、大腸がん、胃がん等のリスクを下げるという報告がある。オレイン酸やポリフェノール類の持つ抗炎症作用、抗酸化作用の働きとみられる。 生活習慣病を予防……オレイン酸がインスリンの働きをよくして糖尿病を防いだり、LDLコレステロールを下げたり、またポリフェノールが抗酸化に働くなどして、生活習慣病の予防作用が期待される。 便秘改善……オレイン酸が多く含まれるオリーブオイルは小腸で吸収されにくく、腸管内の滑りをよくする。大腸を刺激して排便を促してくれる。 美白……「オレウロペイン」と「ヒドロキシチロソール」が強力な抗酸化作用を持ち、シミを防ぐ成分グルタチオンの働きを高めることが判明している。 そのほか……いくつもの研究で、地中海型の食生活でアルツハイマー病、パーキンソン病の発症率に有意な低下がみられる。その理由のひとつがオリーブオイルにあると考えられている。オリーブオイルの抗酸化パワーで疲労回復も
エクストラバージンオリーブオイルは、他の油脂ではほとんど取り除かれてしまうようなフラボノイドなど、フィトケミカルの抗酸化物質があまり除去されずに絞り出されています。強い紫外線や酷暑に悩まされる夏は、疲労をもたらす活性酸素が増えやすい時期。抗酸化物質が豊富なオリーブオイルは、体内で過剰になった活性酸素の抑制をサポートし、疲労を回復させて体の中から元気にしてくれるのです。
こうしたオリーブオイルの抗酸化パワーには、日本の有識者も注目しています。総合内科医、循環器専門医の池谷敏郎先生は、血管の老化を防ぐ働きに期待しているとのこと。
「血管の老化、すなわち動脈硬化は、血管壁の炎症によって進行します。とくに食生活では、油の摂り方に注意することがポイント。“炎症”の生じやすさは摂取する脂肪酸の種類によって異なります。酸化しにくく熱に強いエクストラバージンオリーブオイルは、ポリフェノールが炎症を防いでくれる。そして、オレイン酸が炎症に悪影響を及ぼすことなく善玉コレステロールのHDLを維持しつつ、血中の悪玉コレステロールであるLDLを減らし、動脈硬化を防ぐことが期待されています」(池谷先生)
また、『炭水化物を食べながらやせられる! 地中海式世界最強の健康ダイエット』などの著書がある医学博士の横山淳一先生は、エクストラバージンオリーブオイルの抗酸化パワーをプッシュ。
「オリーブの実には強い太陽光線から身を守るために、多種多様な抗酸化物質が含まれています。それを絞ったエクストラバージンオリーブオイルには、各種のポリフェノール、ビタミンE、βカロテン、クロロフィルなどが溶け込んでいる。エクストラバージンオリーブオイルを効率よく、損なうことなくとることで、老化の原因となる活性酸素から、血管の内腔・血管壁を二重に守ることになります」(横山先生)
現在、日本人の平均寿命は男性が80.21歳、女性は86.61歳と世界トップクラス。しかし介護を必要としない健康寿命は平均寿命よりかなり短く、女性なら12.4年もの開きがあるのが課題です。
日本の高齢者は低栄養の傾向があり、意識して動物性たんぱく質と油脂類を摂ることが重要。健康寿命を伸ばすためにも、エクストラバージンオリーブオイルの得意分野を生かし、上手に油脂類をとる必要があるのです。
エクストラバージンオリーブオイルは食べる美容液
エクストラバージンオリーブオイルは、美容との関係から多くの美のプロにも注目されています。元ミス・ユニバース・ジャパン公式栄養コンサルタントのエリカ・アンギャルさんは、食べるスキンケアとして活用してほしいとアドバイス。
「2001年にギリシャ、スウェーデン、オーストラリア女性の肌を比較し、シワの多少と食生活の関係に注目した研究では、オリーブオイル摂取によってシワのできにくさのサポートすることがわかりました。また、2012年のフランスの男女3,000人を対象とした研究では、オリーブオイル、紅花油、バター、ラードの摂取グループを比較。オリーブオイルのグループがもっともシワやシミが少なく、肌の弾力の元であるエラスチンが多かったという結果も出ています」(エリカ・アンギャルさん)
脂質不足になりがちな日本女性に警鐘を鳴らすのは、美肌ドクターとして知られる阿部圭子先生です。
「脂質が不足すると肌のターンオーバーが正常に行われず、新しい細胞作りにも支障をきたし、乾燥して荒れた肌になります。ビタミンEが含まれるエクストラバージンオリーブオイルには、肌の代謝アップをサポートし、ターンオーバーの促進に役立ってくれます。オレイン酸には腸を刺激する効果があるので、便秘改善による美肌効果も期待できます」(阿部圭子先生)
天然の恵みである抗酸化成分を持ち、食べる美容液のようなオリーブオイル。食事のベースオイルとして取り入れると、さまざまなメリットがありそうですね。
オリーブオイルの色と品質は関係ない
医師も認めるオリーブオイルの健康効果ですが、購入しようとするとさまざまな種類があり、迷ってしまうことも。
実はあまり知られていないのが、オイルの種類と純度の名称。もっとも純度が高く品質が高いのは「エクストラバージンオリーブオイル」ですが、「ピュアオリーブオイル」と勘違いしている人も多くいます。また、オリーブオイルの品質を判断するのに色を見るという人もいますが、これも間違いとのこと。オリーブオイルの色と品質に関係はないのです。
バージンオリーブオイルは、洗浄・沈降・遠心分離・ろ過以外のオイルに変質をもたらす処理が許されない、オリーブの果実を絞っただけで得られるオイル。純度や酸度の違いにより下記のような区別があります。
バージンオリーブオイル(広義)
エクストラバージン:果実そのものの風味を持つ最高品質のオイル。酸度0.8%以下。 バージン(狭義):エクストラバージンほどではないが、オリーブの果実らしい風味の残る品質。酸度2.0%以下。 オーディナリーバージン:バージンに次ぐ品質のオイル。酸度3.3%以下。 ランパンテバージン:そのままでは食用に不向きな品質のオイル。酸度3.3%を超える。精製オリーブオイル+バージンオリーブオイル
ピュア:ブレンドの配合により、オリーブの果実の風味がほのかに楽しめる。これらのうち、よく聞く「ピュアオリーブオイル」は日本国内だけの呼び名。正式には「オリーブオイル(狭義)」という名前に分類されるのだそう。
ほとんどの食用油は植物の種子から搾取されますが、オリーブオイルはその実をまるごと絞った“果実100%のジュース”。食事には「エクストラバージンオリーブオイル」を選び、天然の調味料のような感覚で利用すると、ぐっと使用シーンを増やすことができそうですね。
「和食+エクストラバージンオリーブオイル」のレシピ
エクストラバージンオイルの使用法として、栄養士であり食物学の学術博士でもある佐藤秀美先生がすすめるのは「薬味を添える」感覚です。
「オリーブオイルには、日本のシソ、三つ葉、青ネギなどを連想させる“青葉の香り(緑の香り)”があります。伝統食材の豆腐や納豆に少量使うと、慣れ親しんだ風味に“新鮮さ”が増したような味わいになりますよ」(佐藤先生)
焼き魚“新鮮味”漂う大根おろし添え
<材料>
鮭の切り身 2切れ 大根おろし 約5cm 麩 適量 エクストラバージンオリーブオイル お好みの量<作り方>
鮭の切り身全体にオリーブオイルを塗る。 グリルで香ばしく焼く。 大根は皮をむいておろす。 麩をビニール袋に入れ、手でもんで砕き、大根おろしと混ぜる。 大根おろしを添えてオリーブオイルをかける。<ポイント>
鮭+大根おろし+オリーブオイルで体を抗酸化。大根おろしに麩を混ぜることで、水溶性ビタミンCなどの損失を防ぐ。鮭のアスタキサンチンは油と一緒にとると吸収率アップ。
エキストラバージンオイル納豆
<材料>
納豆 1パック オリーブオイル 小さじ1 オクラ 1本 梅干し 1個<作り方>
オクラは生のまま小口切りにする。 梅干しは種をのぞいて包丁で細かく叩く。 納豆にオクラと梅干しを入れ、オリーブオイルを入れ混ぜ合わせる。<ポイント>
オクラとオリーブオイルに共通する“青葉の香り”で納豆に新鮮さをプラス。オクラと納豆の脂溶性ビタミンは、オリーブオイルと一緒にとると吸収質が高まる。生活習慣病や高血圧の予防にも。
薬味を使うことが多い刺身や焼き魚、冷や奴や納豆にオリーブオイルが合うというのは便利! 薬味まで用意する余裕がないときでも、オリーブオイルがあれば定番メニューをぐっと健康的にすることができます。
和食にも相性抜群のオリーブオイル。簡単においしく取り入れて、ぜひその健康パワーを実感してみてください。
参考資料: 松生恒夫、鈴木俊久著『オリーブオイル・ハンドブック』朝日新聞出版/『食品工業』1997-4.15/ダニエラ・オージック著『南イタリアの美味と健康にあふれた食事』保健同人社/松生恒夫著『オリーブオイルで老いない体をつくる』平凡社/松生恒夫著『腸が元気になるオリーブオイル健康法』成文堂新光社/佐々木巌著『美味しくて健康的で太らない ダイエットなら地中海式』大学教育出版/守口徹著『カラダが変わる! 油のルール』朝日新聞出版(順不同)
文/田邉愛理、企画・構成/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock