大人の女性にもHPVワクチンは有効です
ワクチンというと、中学生、高校生が接種するというイメージを持っている人も少なくないかもしれません。でも、大人の女性にも“子宮頸がん予防(HPV)ワクチン”は有効です。
今、日本で子宮頸がんは、どの年代よりも20代から40代の女性がかかりやすいがんになっています。子宮頸がんで亡くなる女性も、日本では毎年増えています。先進国では日本だけです。
子宮頸がんの原因は、性交渉によるHPV(ヒトパピローマウイルス)による感染です(詳しくはカラダ戦略術 VOL.26)。性交渉を行なう前、HPVに感染する前の子どもたちに接種することは大事です。でも、仮に今、HPVに感染している大人でもHPVワクチンは有効なのです。
HPV16型、18型は頸がんの20~30代女性の約70~80%に見つかっている
HPVには100種類以上たくさんの型(タイプ)があって、がんになるものが約15種類。子宮頸がんになりやすい発がん性の高いタイプはおもにHPV16型とHPV18型。この2種類の16型、18型は、子宮頸がんを発症している20~30代の女性の約70~80%から見つかっています。
20代~40代の日本女性では、16型、18型の両方に感染している人はほとんどいません。たとえ、どちらかに感染していても、もう一方の感染は防げます。そして、多くのHPV感染は一過性で、しばらくすると免疫力で自然に消滅します。ワクチンは消滅したあとの再感染を防ぐこともできるのです。
このHPVは、性交渉のある女性の80%以上が50歳までに感染を一度は経験すると言われているほどありふれたウイルスです。ですから、性交渉があれば、何歳でも感染する可能性はあります。
中高生のHPVワクチンの積極的な接種は見合わせている
日本では2010年から、中学1年~高校1年までの女の子に、公費助成で無料ワクチン接種が始まりました。しかし2013年、厚生労働省では、接種のあと原因不明の体中の痛みを訴えるケースが30例以上報告されていて、当時、回復していない例もあったことから、全国の自治体に対して積極的な接種の呼びかけを一時中止しました。現在もそのままです。
しかしながら、この判断は、医学的な統計的根拠に基づかない日本の政策決定であることから、多くの非難を浴びています。日本産科婦人科医会、学会ともに、早期の接種再開を何度も厚労省に要望していますが、いまだに中、高校生の公費助成のHPVワクチン接種は再開されていません。
このままでは日本女性だけが子宮頸がんにかかってしまう可能性
WHO(世界保健機関)では、2015年12月に声明を出し、世界の中で日本だけが接種の勧奨を中止していることに対して、日本を名指しで非難しました。
「日本の若い女性は、本来なら避けられるはずのHPV(ヒトパピローマウイルス)の脅威に暴露されている、“薄弱な根拠”に基づく政策決定は、安全で効果的なワクチン使用を妨げて、結果として真の被害を招く可能性がある」と厳しい見解を示しました。
WHOが1国のみを名指しで非難することは異例のことです。
日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会も、なんとか早い積極的接種再開を望むとの声をあげています。世界中でHPVワクチン接種が行われているにもかかわらず、このままでは、日本だけにHPVが蔓延して、日本女性だけに子宮頸がんが増える状況になりかねません。
子宮頸がんを予防するHPVワクチンは、今、打てないの?
子宮頸がんは20代~40代に著しく多いがんで、毎年1万人の女性が新たに発症し、年間に約2900人もの女性が亡くなっています。(*厚生労働省「子宮頸がん予防ワクチンQ&A」より)その撲滅を目ざし、やっと日本でも予防ワクチンの定期接種が始まりました。しかし、前述のように2013年、厚生労働省はワクチン接種の積極勧奨(積極的な接種の呼びかけ)を一時とりやめました。
「HPVワクチンは、打たないほうがよいのでしょうか?」「HPVワクチンを1回接種しました。あと2回打たなくてはいけないのだけれど、どうしたらいいの?」という質問が私のところにも来ます。
現在では、原因不明だった体中の痛みなどの重篤な副反応とHPVワクチンとの因果関係はないことがわかっています。ワクチンとの因果関係が疑われていた起立性調節障害や複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、中高生にもともと多い症状で、HPVワクチン接種をしなくても同じ割合で発生していることがわかりました。
*厚生労働省 HPVワクチンに関する情報提供について 平成30(2018)年1月 より
HPVワクチンの接種を検討しているお子様と保護者の方へ
HPVワクチンを受けるお子様と保護者の方へ
出典:第6回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会 資料より
子宮頸がん予防を本気で考えるなら
「HPVワクチンは、打たないほうがよいのでしょうか?」
いいえ、子宮頸がんとHPVワクチンのことを知って、子宮頸がんを予防したいという気持ちがあるなら、摂取したほうがよいと思います。
「HPVワクチンを1回接種。あと2回打たなくてはいけないのだけれど、どうしたらいい?」
長期間、接種間隔が空いてしまった場合の効果を検討したデータはなく、各回の接種間隔がのびた場合、どの程度まで大丈夫なのかといった具体的な期間はありません。しかし最初からやり直す必要はなく、残りの回数を接種すればいいと言われています。HPVワクチン接種の相談ができる婦人科や内科で相談にのってもらってください。
大人の女性のHPVワクチン公費助成は、最初から行われていませんので、自分で支払うことになりますが、おもに婦人科や内科クリニックで希望すれば、接種可能です。
HPVワクチンは、肩に近い腕の筋肉に注射します。半年の間に3回接種します。費用は自費なのでクリニックによって違いますが、3回で5万円くらいが多いようです。
HPV16型、18型に加え、性感染症である尖圭コンジローマも一緒に予防できる6型、11型が加わったワクチンもあります。
子宮頸がん予防(HPV)ワクチン相談窓口のある全国のクリニック検索
子宮頸がん情報サイト 病医院検索
子宮頸がん予防情報サイト もっと守ろう.jp 病院検索
特にこれから妊娠出産を望む女性は、正しい情報を知って、ワクチンと子宮頸がん検診で、子宮頸がんを予防してください。
副反応のリスクを減らすためには?
HPVワクチンの接種で、重篤な副反応が起こる確率は、10万接種あたり0.01~0.2例という少ない発生数です。
副反応のリスクを減らすために、痛みに弱い、緊張しやすい、失神しやすい人は、ベッドに横になった姿勢で接種してもらう、接種後、院内で30分は休むなども大切です。それでも不安が大きい人は無理せず、積極的接種勧奨の再開まで待ってから打つ、ということも、対策のひとつです。不安があると、緊張して痛みを強く感じ、副反応のリスクが増す可能性があるからです。
すでに1回目、2回目のワクチンを打った人は、多少間隔が空いてもいいので、合計3回接種することが重要です。心配な場合は、接種してもらった先生に相談し、納得できるまで説明を受けてください。
増田美加・女性医療ジャーナリスト
予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。公式ホームページ