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1日5合のごはんを食べていた。食を楽しむ文化が生まれた江戸食の世界

2018/05/18 23:00 投稿

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5月の特集は「かしこい食の方程式」。今回は、和食のベースが築かれた江戸時代へタイムスリップします。案内してくださるのは、クックパッド株式会社でエンジニアとして働くかたわら、食文化の研究を続けている伊尾木将之さん。太平の世、庶民の暮らしのなかに花開いた食の楽しみ方とは? 江戸流レシピもご紹介します。

ひとりで1日5合のごはんを食べていた

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「栄養バランスや食材の豊富さを考えれば、江戸時代よりも現代のほうが圧倒的に恵まれています」と切り出した伊尾木さん。

死が今よりもずっと身近にあり、幼くして亡くなる子どもも多かった時代です。庶民の食卓は、ごはんにみそ汁だけも当たり前。おかずがついても、豆腐やきんぴら、煮物など、ごく質素なものが定番でした。そのうえ、江戸の人々は無類の白飯好き。成人ひとり当たり、1日5合ものごはんを食べていたというから驚きます。ごはんがメインで、主菜、副菜が少ないとなれば、栄養バランスは偏りがち。実際に、ビタミンB1不足による脚気に多くの人が悩まされました。

だからといって江戸の人々が単調な食生活を送っていたか、というとそれは大きな誤解のようです。

「当時の人の日記を読むと、とても楽しそう。今でいったら年収200万円くらいの下級武士が、友人からお金を借りて意気揚々とお酒を飲んだり(笑)。そば、すし、天ぷらは、江戸の人の大好物で、サッと食べられるファストフードでした。うなぎも人気があり、せっかちな江戸っ子もうなぎはじっくり食べたようですね。普段の食事は限られた食材をいかにおいしく味わうかに工夫をこらし、ときにはお店の味に舌鼓を打つ。そんなメリハリのあるリズムが作られていたように感じます」

食を楽しむマインドが料理や調味料の幅を広げた

お金をかけられない普段の食事にも、食を楽しむマインドはしっかり。

当時、豆腐レシピを100点集めた『豆腐百珍』というレシピ本が大ヒットしています。あの手この手で豆腐をさまざまな料理に変身させているんですね。江戸時代の食は、薬味の使い方にも特徴がありますよ。唐辛子、こしょう、くるみ、ごま、わさび、香味野菜など、香りや風味で変化をつけるのがとても上手ですね。これも、手元にある食材をいかにバラエティに富んだ、おいしい料理に仕上げるか、という工夫のひとつだと思います」

地産地消。食から四季のうつろいを感じる

物流や冷凍・冷蔵などの保存技術が発達していない江戸では、必然的にその土地でとれたものを、とれた時期に食べる地産地消が基本に。その時季にもっともおいしい旬の食材を使うことは、江戸の人にとって当たり前のことでした。一年が巡り、またこの味に出会えた喜び、というものも、旬を感じる1品がもたらしてくれる豊かさだったかもしれません。

「自然への感謝や生きていることへの喜びが、食にも現れていると感じますね。食養生や医食同源という考え方も浸透していて、季節に合わせた食で病気を防ごうとしていたことも伺えます。七夕の日にそうめんを食べる習慣も、夏バテしないように食べやすいそうめんで栄養をつけよう、というところから。お茶が健康にいいことも知られていましたし、百科事典のような本の植物、動物の項目をみると『腹痛によし』という記述があったりする。食べて予防、食べて治すという考えがあって、健康情報にも関心があったようです」

食材を使い切る発想から生まれた、ぬか漬け

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また、自然への畏敬の念や感謝の心が根底にあり、食べ物を無駄なく使いきることも徹底されていました。

「たとえば、魚のお頭もカリカリに焼いて砕き、ごはんにまぜるなどして食べていました。足のはやい脂身は肥料として活用。常に食材を丸ごと食べ切る、使い切る努力がなされていたと思いますね」

食材を使い切るという視点から生まれ、江戸時代に爆発的に広まったものも。

「精米した白いごはんを食べることがステイタスだった江戸では、ぬかが大量に出ることに。それを活用しようとして広まったのがぬか漬けです。発酵によって日持ちもするし、栄養価も高くなりますね。江戸の人は科学的なことは意識していなかったと思いますが……」

発酵食品が日常的に食べられていたことも、江戸食を形作るパーツのひとつです。みそ、しょうゆ、漬物、甘酒、納豆などは、現代にまで受け継がれる和の食文化に。

簡単&おすすめ江戸レシピ3選

クックパッドには、江戸の人々が愛したレシピを再現した「クックパッド江戸ご飯 のキッチン」のページがあります。そこから、伊尾木さんが太鼓判を押す手軽でおいしい3品をご紹介。

【江戸の味】煎酒 醤油以前からの調味料

<材料:作りやすい分量>

日本酒 300ml 梅干し 4個 かつお節 20g

<作り方>

梅干しの種をとり、実を叩く。(梅の酸味を抑えたい場合は、叩かなくてもOK) 鍋にすべての材料を入れ、半量になるまで10分ほど煮詰める。 ザルや布巾などでこし、軽く梅を押して汁を出す。

<ポイント>

しょうゆが広まる前に、調味料として愛されていた定番の味。さっぱりさわやかで、刺身やサラダによく合います。

レシピの詳細はこちらから。

【江戸の味】揚げ出し大根

<材料:2人分>

大根 300g 大根おろし 80g 赤唐辛子、しょうゆ 各少々 揚げ油 適量

<作り方>

大根は皮をむいて縦半分に切り、水けをふいておく。 フライパンに油を熱し、170度でじっくり揚げる。こんがりときつね色になり、竹串がすっと通るようになったら取り出し、油をきる。 熱いうちにしょうゆをかけ、大根おろし、赤唐菓子をのせる。

<ポイント>

大根を揚げる意外性もおもしろい一品。皮はむかなくてもOKです。また、好みでこしょうをふりかけてもおいしい。

レシピの詳細はこちらから。

【江戸の味】わさび味噌

<材料:1人分>

みそ 大さじ1 くるみ 3粒程度 すりごま(白) 小さじ1 わさび 小さじ1/2

<作り方>

くるみをあらめに砕く。 すべての材料をまぜる。

<ポイント>

刺身、豆腐、野菜スティック、なんにでも合う万能ディップ! 伊尾木さんのおすすめは、はんぺんに塗ってフライパンで香ばしく焼くアレンジ。

レシピの詳細はこちらから。

生きるための食事から「楽しむ食事」へ

平和が続き、生きるための食事から「楽しむ食事」へと精神的なゆとりが生まれてきた江戸時代。食べることに感謝し、純粋に食を楽しんでいた人々の姿が浮かび上がります。

「今の時代は、『健康増進に役立つ』『美容にいい』といった効果・効率を判断基準にしがち。江戸時代でもそういうことに関心があったようですが、現代のように効果・効率を絶対的な判断基準にしていなかったのではと感じます。メリットがあるから口にするというのではなくて、どう楽しもうかという意識のほうが強い。そういった精神的な余裕、ポジティブに食を楽しむ気持ちは、江戸の人に見習いたいポイントかもしれませんね」と伊尾木さん。

情報が溢れる現代は、つい頭でっかちになりがち。対して江戸の食文化は、「限られたものをどれだけおいしく食べられるか」と食事の醍醐味をシンプルに追求したもの。江戸食からは、私たちが見失いがちな、質素でも心満ち足りる食のヒントが見つかるかもしれません。

伊尾木将之(いおき・まさゆき)さん

大阪出身のうさぎ好き。 日本IBMを経て、クックパッドにエンジニアとして入社。 現在は研究開発部のメンバーとして、食文化の研究を行っており、日本家政学会 食文化研究部会の役員を勤めている。川崎フロンターレのサポーター。

取材・文/浦上藍子

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