連載「人生が変わる、脳2.0」第3回にご登場いただいたのは、スポーツドクターの辻秀一先生。前編では、なぜ運動が続けられないのか、ライフスキル脳を鍛えることがいかに重要かをご紹介しました。後編では実践編として、心のための4大自己ツール、15の思考習慣となるライフスキルを教えていただきます。

フローは万能!

「やりたいことができない、いいとわかっているのに行動に移せない。これらを解決するには、心をフロー化させること。フローには以下のような価値があります。


1.心がフローでいる、そのものの価値
2.健康のための機能が高まる価値
3.アウトプットのパフォーマンスが向上する価値
4.思考のパフォーマンスレベルが向上する価値
5.対人関係が向上する価値

フローを体験できるようになると、すべてのことに変化が起きます。仕事の効率が上がったり、やる気が溢れてきたり、新しいことにチャレンジしたくなったり。「変わりたい」という今の自分に変化をもたらすのに必要不可欠な心のフロー状態。以下に紹介する方法で、フローを会得していきましょう」


フローになりにくい「ポジティブ思考」


人間の心は常にフロー(ご機嫌)、ノンフロー(不機嫌)の二つの間で揺れています。これをライフスキル脳を鍛えることでフローに傾けることができるようになると、自分自身が変わってくることを前編でお伝えしました。

しかし、フローになりにくいケースがあります。それは『ポジティブ思考(不快対策)』です。ノンフローからフローに切り替えるための方法に、ポジティブ思考を使ってしまうと、とらわれのままになってしまいます。例えば、雨が降ってきたとします。本当は雨が嫌なのに『雨も人の役に立つ』と無理やり思う。でも本当の心はノンフローのまま。フローというのは、無理に持っていくことができません。そこが難しいところです。以下の思考はフロー化ができないので、この方法はオススメしません」

1.気にしない思考:気持ちを切り替えるために「気にしない」と思う。気にしないと思っている時点で気になっていて、ノンフローになっています。

2.逃げる思考:不快な出来事があると、逃げることで楽な気持ちになりますが、逃げた後悔の念などから本物のフローはやってきません。

3.あきらめ思考:結果を求めないのは一見楽観的ですが、自身のパフォーマンスが上がっていないし、一時的な自己満足で終わってしまいます。

4.考えない思考:ライフスキルを磨くには、考えることが重要です。頭を使わない癖は適切な行動につながらず、本物のフローを体験できません。

5.忘れる思考:「嫌なことは忘れて遊びに行こう!」と蓋をするケース。心の中では忘れていません。今の気持ちに向き合えないとフロー化できないのです。

6.耐える思考:耐えることが悪いのではなく、耐えることや我慢することで解決をさせる方法ではフロー化しません。我慢して耐えることがノンフローです。

これらの方法では「フロー化」を会得することができません。次の方法で、本当のフローを体感していきましょう。


フローになるための4つの自己ツール

フロー化できるようになるための自分ツールは以下の4つです。
1.言葉 2.表情 3.態度 4.思考

一方、心がノンフローになる外的要因は、
1.環境 2.経験 3.他人 の3つ。
多くの人は、ノンフローな状態に対し、前出の4つのツールに表現しているだけ。
(1.言葉)環境に文句を言う、経験に言い訳をする、
(2.表情)嫌な顔をする、
(3.態度)態度に出てしまう、
(4.思考)他人の目が気になる、......など。
一方、フロー化4大ツールは、「自分の心のために」使うことが大切となります。


「何か出来事が起きた時、自分をフローに傾けようと思ったら、4つのツールを使います。これを自己ツールによる『フロー選択』と呼んでいます。ノンフローから切り替え、最高のパフォーマンスをアウトプットできる状態に傾けていくのです。

なでしこジャパンのW杯優勝にも、このフローの力が働いていました。試合ですから、焦りや不安などのノンフローも当然襲ってきます。予選でイギリスに破れた時、悔しくなかったはずがありません。ところが選手全員が明るかったと言います。「終わったことは気にしない」と蓋をしたわけでもありません。ノンフローからフローの状態に切り替える脳力があったのです。最後のPK戦のとき、選手たちは笑顔でした。大変な緊張の場面で選手全員をフローの状態にするために、表情というツールを使ったのです」

自分がフローになれる言葉、フローになれる表情、フローになれる態度、フローになれる思考は何か、考えてみましょう。あなたが、「ご機嫌」になることは何でしょう? できればそれを、手帳などに書き出してみてください。

瞬時に心をフローに切り替えられるフローワードのリスト

フローになれる言葉を口に出してみたり、思い出すだけでも心はフローに傾きます。自分の気持ちが上がるものを列挙するだけで構いません。ポイントは、心がノンフローに傾いている時でも、この言葉によって自分の心に変化が起きるかどうかです」

例えば
●ハワイ
●パンケーキ
●彼やペットの名前
●1等宝くじ
●青い空

など。いつでもどこでもこの言葉を思い出すと、心がフローに傾く、というフローワードリストを作ってみましょう。できれば20個以上、書き出してみてください


ライフスキル脳脳による15の思考習慣

心の状態のマネジメント力をあげ、フロー(ご機嫌)に自分を持っていくためのライフスキル脳。この機能が高まれば自身のパフォーマンスが格段に上がります。
下記の15の力について、考え、書き出してみてください。 ぜひ手帳に書いたり、携帯端末に残すなどして、日々眺めるようにし、毎日一つでもいいので、意識を向けるようにしましょう。普段からどれかの思考を意識して習慣にしてみましょう。

1.フローの価値を考える
考えるだけでも心に変化が生じ、自分をフローに導く原点になると認識する

2.自分の心は自分で決めると考える
環境、経験、他人が原因でノンフローになっても、原点は自分だと決める

3.感情に気づく力
心の状態に脳を向ける習慣を大切にする

4.意味づけに気づく
ノンフローの原因である「認知の意味づけ」に気づき、本来は意味などついていないと考える

5.フローワードを考える
フローワードを思い出し、つぶやいてみる

6.表情を選択すると考える
自分の心がフローになる表情は何か考えてみる

7.態度を選択すると考える
自分の心がフローになる態度は何か考えてみる

8.「今に生きる」と考える
過去を引っ張り、未来を案じている自分に気づきリセットする

9.「好きを大事にする」と考える
好きは絶対で自由、強力にフロー化できる、極めて重要な思考

10.「チャレンジする」と考える
居心地のいい場所から出られる自分を作る思考の習慣

11.イメージすると考える
外の世界に影響されず、自由なイメージを考えるようにする

12.「一生懸命」を楽しむと考える
結果の楽しさではなく、一生懸命を楽しむと考える

13.「感謝する」と考える
14.「思いやる」と考える
15.「応援する」と考える
これらの思考はエネルギーを与えることで自らがフローになる考え。これをフォワードの法則と呼ぶ。

いかがでしたか?
覚えることがたくさんあるように見えますが、少しずつでも変わってきます。
"気づいて、考えるだけ"で良いので、どこでもできるトレーニングです。自分の機能をベースアップして、思い通りの人生を送りましょう。


Illstration / chao!

辻 秀一(つじ・しゅういち)先生
スポーツドクター。1961年生まれ。慶應義塾大学病院内科、同スポーツ医学研究センターを経て株式会社エミネクロス代表取締役。応用スポーツ心理学を基にしたメンタルトレーニングによるパフォーマンス向上が専門。37万部を突破したベストセラー『スラムダンク勝利学』(集英社インターナショナル)や『「第二の脳」の作り方』(祥伝社)など、著書多数。最新著書は、『さよなら、ストレス 誰にでもできる最新「ご機嫌」メソッド』(文藝春秋)。オフィシャルサイトはこちら

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