「D-アミノ酸」が肌に存在することを初めて明らかにしたのは、資生堂と九州大学のチーム。資生堂はその成果を応用し、肌での働きまでも明らかにしました。今回はこの研究に携わった資生堂の東條洋介さんと塚田真梨子さんにお話をうかがいました。
保水バリア機能を回復させる「D-グルタミン酸」赤ちゃんの肌に多く含まれる「D-グルタミン酸」。その発見は、医学の常識を覆す「世紀の大発見」と言っても過言ではありません。
「アミノ酸には20もの種類があり、鏡に映したように対称なL体(左型)とD体(右型)の立体構造を持ちます(※)。このD体が、私どもが初めてヒトの肌に存在すると発見した『D-グルタミン酸』。人に関わっているのはL-アミノ酸だけというのが古くからの常識で、私も学生時代はL体のことしか習いませんでした」(東條さん)
研究チームはこれまで困難とされていた「身体の中でのD-アミノ酸を全て分析する装置」から開発を始め、ついにアミノ酸のひとつであるグルタミン酸のD体(D-グルタミン酸)が人の肌に存在することを突き止めました。「D-グルタミン酸」のすごいところは、低下してしまった肌の保水バリア機能を、独自のメカニズムで"良好"にさせることができるということです。
(※)アミノ酸のうち、グリシンのみD/Lの立体構造を持たない
肌悩みを引き起こす「バリア機能」低下のメカニズム肌のうるおいが保たれるのは、たった0.02mmの角層が持つ「バリア機能」のおかげ。肌内側の水分を守るラップのような役割をしてくれるだけでなく、雑菌や化学物質といった外的刺激からも肌を守ってくれます。
しかし、乾燥や紫外線、タバコの煙、睡眠不足や仕事の悩みといった日常のストレスによって、繊細なバリア機能は低下傾向に。
そして肌がうるおいを失うと、毛穴の開き、小じわ、シミ、ハリや弾力の低下をはじめとするあらゆる肌悩みの原因となってしまいます。
「肌のバリア機能がしっかりと維持されている肌は、角層細胞の中にある『天然保湿因子(NMF)』と『細胞間脂質』が満たしています。NMFは水分を保持し、細胞間脂質が蒸発を防ぐ役割を担っています。どちらも大切な存在ですが、細胞間脂質がしっかり働いてくれなければ、水分をとどめることはできません」(塚田さん)
細胞間脂質を整えて、うるおいを「貯蓄」する肌へそこで活躍するのが「D-グルタミン酸」です。
「角層の下の顆粒層では、のちに細胞間脂質となる『脂質顆粒』という油滴のようなもの(正確には油滴ではありませんが、以下油滴として解説します)が作られています。肌の状態がいい肌は、その油滴が角層へ放出されて細胞間脂質となりますが、肌の状態が悪い肌では、せっかく作られた油滴がうまく働いてくれません。その油滴を角層へ放出するスイッチを押してくれるのが『D-グルタミン酸』です」(東條さん)
バリア機能が落ちた肌は、このスイッチを押すことができないため、肌荒れが長引くなどの悪いスパイラルに陥りがち。でも「D-グルタミン酸」は、肌のうるおいを守る「細胞間脂質」を整えることで保水機能を高め、不足したうるおいを補うだけでなく、うるおいを貯蓄できる肌に変えてくれるのです。美しくありたい女性にとっては、まさに「救世主」ですね。
「分析機器の開発、そしてD-アミノ酸の分析、『D-グルタミン酸』の"肌"での効果発見。それだけで6~7年、さらに製品化するまでに10年以上を費やしました。しかし、世界初、世界で唯一といわれるなかでの研究はエキサイティングなものです。これからもさらなるD-『グルタミン酸』の可能性を信じて、研究を続けていきたいですね」(東條さん)
「うるおいたっぷり肌」へ導いてくれる「D-グルタミン酸」のさらなる応用に注目せずにはいられません。
(イラスト・小鳥遊しほ)
株式会社資生堂 R&D戦略部
東條 洋介さん
2002年入社。2006年より九州大学との共同研究に参加し、2007年に皮膚にD-アミノ酸を発見。留学を経て、現在はD-アミノ酸の化粧品や食品への応用を進めている。
株式会社資生堂 化粧情報開発センター
塚田 真梨子さん
2011年よりスキンケア化粧品の処方開発に従事。2017年より資生堂化粧品情報開発部に所属し、新しい知見や発見を製品に生かす情報の開発をしている。