******
そもそも、「不安」って何?
不安とはなんでしょう。辞書には「気がかりで落ち着かないこと。心配なこと」とあります。脳は負荷がかかることを嫌がります。慣れていないこと、予測できないこと、安心できないことに抵抗する習性がある。それを「不安」という信号で拒否するのです。そしてどんどん「心配性」になっていきます。
また、リラックスを感じる脳内物質に「セロトニン」があります。人の気分を大きく左右する神経伝達物質で、これが不足すると不安を感じやすくなります。このセロトニンの量を調節しているのが「セロトニントランスポーター」と呼ばれるたんぱく質で、日本人はこの働きが弱い人が多いというデータがあります。慎重で、心配性な人が多いのはそこにも原因があるのです。
しかし、不安は「成功への近道」なのをご存知ですか? 心配性の人は、そうでない人に比べて、いち早く望みを手にすることができる特性を持っています。前編では、その仕組みについて解説していきます。
医者は心配性でなければ務まりません。患者さんがこの薬を飲んだら副作用がでないか、この治療法が正しいのか、ベストの選択をしているか......。トラブルの芽をすべて摘むには、心配性であることが必要です。なぜなら、心配性の人は「たくさんのリスクが見える」からです。
このように、医者の場合は、心配性であることが患者さんの病気を治すことに役立っています。しかし、医者でない皆さんでも心配性であることはむしろメリットです。心配性は「仕事でミスして仕事を失ったらどうしよう」「恋人にフラれたらどうしよう」など「高感度の不安センサー」を持っているという証です。「危険物アリ! 準備せよ!」という、未来(数秒先でも)への準備を促すアラームをキャッチできるのです。それは、とても優れたリスクマネジメント能力なのです。
では、不安を成功に変えるにはどうすればいいでしょうか。それは、じつに拍子抜けするほど簡単です。脳をダマせばいいのです。悲しいときに、無理にでも口角を上げると楽しい気分になるといいます。ミラーニューロン効果ともいいますが、口もとが笑っているだけで、脳は「あれ? 楽しいのかな?」と勘違いしてくれます。不安なことがあっても「無理かも......」と思わずに、「経験がないだけだから、やってみないとわからない」「慣れていないだけ」と思えば、脳はそのようにダマされてくれます。脳はそれくらい柔軟性があり、思い込みなど簡単に変えられるのです。
行動に移せない人は
●物事をネガティブに極端化する癖
●自分なりの常識にこだわる癖
●空気を読み過ぎる癖
があるのが特徴です。これらは、根拠のない思いこみ。これまでの経験とうフィルターに通し、勝手にそう決めているだけで、自分が思っていることは事実ではありません。
成功する人とそうでない人の違いはたったひとつ。「行動するか否か」です。行動できない人は、失敗する自分を見たくない、負けるという事実を認めたくない、矢面に立ちたくないといった強力なメンタルブロックがあります。そのため、そんな自分を肯定する情報ばかりが脳にインプットされてしまいます。これを「気分一致効果」といいます。
例えば、転職がうまくいかなかった人の話、結婚したくてもできない人の話、失敗して人生どん底まで落ちてしまった人の話。そういう情報ばかりにフォーカスし、「だから変わらない方がいい」と、自分を肯定したがるのです。そして思いこみに基づいて行動するうちに、思いこみが現実になるように自分でし向けてしまう。これは、要注意です。
成功(=ゴール)へたどり着く人は、不安要素を1つずつ消していくことで、それが達成します。不安を感じたということは、脳が拒絶したというサインです。エネルギーを使いたくない、省エネで動きたい。このままでいた方がラク。だから行動しないで。脳は私たちに訴え、思考停止します。しかし、ここがゴールへ向かうスタート地点。
不安を感じたらまず、「今、脳は大事なことをスルーしようとしてるな」と思ってください。そして、思いこみを書き換えます。料理が苦手なのに、手料理を振る舞わなければならなくなった。不安ですよね。でも「苦手」は過去の経験から来る思いこみです。かつて、おいしくないと言われた経験があると「私は料理が下手」と脳に刷り込まれますが、成功者は「料理をおいしく作るためにできることはなにか」と考えます。思考停止を解除し、物の見方を変えるのです。
料理がおいしくない → 私は料理が下手
ではなく、
料理がおいしくない → あの人の口には合わなかっただけ。次に美味しい料理を作るためにできることは何か?
と、このように、物の見方を変えるだけで、脳は簡単にダマされてくれます。
不安こそが成功へのヒント。ゴールへと着実に向かわせる原動力と道しるべになるのです。
動くということは、つまりやる気スイッチを押すということですが、不安は動くだけでスーッと消えていく。じつに不思議です。やる気スイッチの正体はドーパミン。報酬系と呼ばれる脳内物質で、喜びを感じたときに放出されるホルモンです。「早起きしたら仕事がはかどった」「ウォーキングしたら気持ちよかった」「仕事を褒められた」など達成感を感じたときに、脳はこの上ない喜びを感じています。人間は成長するために、この報酬系脳内物質が備わっているのです。
しかし「部屋を片付けるのが面倒」「企画書を書くのが億劫」「ずっとテレビを見ていたい」と、やる気がなく、行動できないこともありますね。やる気スイッチを押すには、まずワンアクション「動く」ことです。
頭では嫌だと思っていても、まずソファから立ち上がる、まず目の前の新聞を紐で縛る、まずパワーポイントを開く......など、行動を開始します。サボっていた脳はすっかりダマされて「作業興奮」が始まり、行動が加速していきます。そして、報酬系を得た成功体験はもう不安要素ではなくなり、自分が向かいたいゴールへ向かうのです。
後編では、「不安」を「行動力」に変える"科学的な方法"実践編をご紹介します。
菅原道仁(すがわら・みちひと)さん
脳神経外科医。菅原脳神経外科クリニック院長。
外来診療は月に1500人を診察することも。「病気になる前にとりくむべき医療がある」との信条で、新しい健康管理方法である予想医学を研究・実践。「人生目標から考える医療」のスタイルを確立し、心や生き方までサポートする医療を行っている。2015年6月、東京都八王子市に菅原脳神経外科クリニックを開院。著書に『成功する人は心配性』(かんき出版・2017年6月19日発売)、『死ぬまで健康でいられる5つの習慣』(講談社)、『そのお金のムダづかい、やめられます』(文響社)などがある。菅原脳神経外科クリニック
Illstration / chao!
■医学博士で脳画像診断医の第一人者である加藤俊徳先生に聞きました。
<<前編『苦手』は、脳の使い方であっという間に克服できる
<<後編『なりたい自分』になるための脳トレメニュー3