そのお店は、ウブドの中でも一番賑やかな繁華街からほんのちょっと奥まったところにある、「Warung 9 Angels(9人の天使のお店)」。
ただのレストランとは全く違う自由すぎる空間エコでヘルシーで、クリエイティブな空間に、アートと自然を愛するナチュラリストが集まり、お互いのスキルやナレッジをシェアするコミュニティが、今ウブディアンに大人気。
こんな不思議な道を100mほど入ると、
こんな不思議な空間が広がっています。
ここは一応レストランですが、ピアノを弾いたり、ギターを弾いている人がいたり、焚き火ができたり、何かわからないけど作っている人(笑)、みんな自由に時間を過ごします。リサイクル瓶で誰かが作ったであろう、新しいテーブルもできていました。
もっと奥に入ると、レストランがあります。
ベジタリアンフードがブッフェ式に置かれていて、好きなものを好きなだけとります。ご飯も、白米、バリ島伝統のオーガニック赤米、ウコンやレモングラスを入れて炊いた黄色いご飯の3種類から選べます(白米がしゃもじ一杯25円、赤米と黄色のご飯は50円)。
食べ終わったら、お皿洗いを自分でして......
自分で食べた分を計算して、テーブルに置いてあるジャーに入れて、帰る。だからこのレストランにいるスタッフは、ご飯を作ってくれるおばちゃん一人だけ。非常にお客さんが自立したレストランです。どうしてもお金がない人は、労働で支払うことも可能だそうです。
しかもここの食事は、動物性のものを一切使わないビーガン、そしてローフード! 最近大流行りで高値のローフードですが、ここは、この日私が大盛り食べたこの分量で、しめて200円! 人件費がかからないから安いとはいえ、申し訳ないようです。
シェアできるものは、すべてシェア本も無料で読めます。お客さんが読まなくなった本を寄付し、それが他のお客さんが読むことで新たな知識となる。
ここに来るお客さんによる、サルサやカポエラ、タンゴのクラスや、クッキングクラス、NGOによるエコな生き方のレクチャーなどのプログラムも、毎日組まれています。このボードには、「あなたのスキルやナレッジをシェアして、みんなで一緒に意識を高めよう!」と書かれています。
本も知識も、資源も、シェアできるものはなんでもシェアして、コミュニティとしての成長を促す。ウブドには、この手のことをしているシェアオフィスがいくつもありますが、ここにも立派な生きたコミュニティが出来上がっています。
それがまたとってもユニークで、手作りで、クリエイティブで、アーティスティックな内装で、心地よい音楽が流れ、ここにいるだけで、ウブドの喧騒から離れ(距離的には大して離れていませんが)、異次元でリフレッシュした気分になります。
着なくなった服を寄付してチャリティにここには、無人服屋さんもあります。これはじつはチャリティ・ショップ。お客さんが着なくなった服がここに寄付され、それを他のお客さんが買う(購入者が見合うと思う額を寄付箱に入れる)ことで、コスト実質ゼロで利益を出すことを実現。その利益を、丸ごと、Sari Hatiという、バリ島の身体障害者の学校に寄付しているのです。
こんなに気持ちの良い環境があるでしょうか!
「責任ある行動」が生まれる、新しいお店のカタチ普通のレストランだと、多めにご飯が出てきたものを残しても、捨てるのはキッチンスタッフで自分じゃないから、大して罪悪感はないかもしれない。でもここは、自分が残したものを自分でゴミ箱に捨てるので、とりすぎた自分を後悔。テーブルだって拭いてくれる人はいないから、きれいに食べます。そんな小さな一つ一つのことの積み重ねで、ちょっとずつ自分がより「責任ある行動」をするようになっていくのを、ここにいると感じます。
誰にも見られていないから、自分と神様しか自分の行動を知らないから、だからこそ、責任ある行動をしないといけない、と自分に厳しくなる。ここまで当たり前のように信用されると、自分の腹黒さはどんどんお腹の奥の方に帰っていき、良識ばかり湧き出てきます。もちろんお金を入れずに帰ろうなんて人はいないし、私もむしろ「掃除でもして帰ろうか」とまで思ってしまいます。子育てや人間関係、社会においても、相手をもっと信じきれたら、相手はもっと良い行動をするんだろうか、なんて、そんな人生観まで考えさせられたり......(笑)。
そんなことを考えていると、ここのオーナーはつくづくすごいなぁ、と思ってしまいますが、オーナーは、ジャワ島から越してきたインドネシア人の陶芸家トニー。この手の革新的で先進的な試みは、外国人がはじめることが圧倒的に多いですが、インドネシアの人からこういう試みが出てきたことが、また素晴らしい!
そして、信頼があってのみ成り立つこのシステムを、誰もが秩序を守って、尊重し、活用して、共に成長するウブドのコミュニティが、また素晴らしい!
今のところ、ここに来るのは外国人がほとんどですが、トニーならいつか、この場をローカルを交えたコミュニティに発展させてくれるのでは、と密かに期待しています。