じつはこの夏、私は自分がちょっとサンタクロースになったような貴重な体験をしました。というのは、サンフランシスコの出版社から出ている『DEAR SANTA〜サンタへの手紙〜 子供達が書いたサンタへの手紙と欲しいものリスト』という本の翻訳をさせていただいたのです。『DEAR SANTA』は1870年から1920年にサンタクロース宛に書かれた子どもたちの手紙をまとめた選集です。
何十通もの子どもたちの手紙を読んでは一つ一つ、これは日本語にしたらどんな感じかな......と、旅先の旅館やホテル、移動の飛行機やバスの中、浜辺や山の中でも、いつも思いを巡らせてこの一夏を過ごしたのでした。
当時、アメリカの新聞社に集められたという子どもたちの手紙は、どれもこれも真剣かつどこかユーモラス。同時にせつなく、なんとも愛らしいものばかりで、私はいただいた原書を夢中になって読んでしまいました。
幼い子どもたちが書いた手紙ですからどれも凝った文章ではなく、ちょっと綴りが間違っていたりして素朴なものばかりなのですが、何気ない言い回しの中にも家族に対する愛情、サンタさんに対する心遣いなどがとても感じられて、時々なんだか泣きそうになってしまいます。
また手紙の他にも、1870年から1920年の時代背景や当時流行したおもちゃなどの説明が分かりやすく書かれていて、それぞれの時代による子どもたちの思いや希望するプレゼントの違いなどが分かり、とても興味深く感じられました。
1870年から1920年というと、南米戦争が終わった再建の時代、アレクサンダー・グラハム・ベルの電話、エジソンの蓄音機や白熱灯、郵便配達システムの標準化、1890年シカゴでの万国博覧会、アインシュタインの特殊相対性理論、ライト兄弟の友人動力飛行、ヨーロッパの植民地の拡大化、そして1910年代に入り第一次世界大戦という地球規模の紛争など、まさに激動の時代です。科学の進歩による未来への希望と同時に、戦争中の貧困時代を子どもたちがどう生きていたのか......子どもたちの文章からは可愛らしさだけじゃなくて、彼らが持つ純粋に信じる心の強さを感じられました。
そんな貴重な手紙を訳すのは想像以上にとても難しくて、一時はもう間に合わないんじゃないかとヒヤヒヤ。しまいには、ブルクックリンで流行っているあご髭をのばした男性を街中で見ると、みな休暇中のサンタさんに見えてきたのには自分でも笑ってしまいましたが、解説等の翻訳をされたアーヴィン香苗さん、ネイティブの友人たち、私の夫、NYの公立小学校に通う我が娘の助けもあり、めでたく無事に仕上がりました。
そして原書の装丁も素敵なのですが、日本版の装丁はそれ以上に本当に素敵で、私の大好きなデザイナー藤田康平さん(Barber)が担当されています。
また『DEAR SANTA』を出版しているクロニクルブックスには、洋書・和書問わずジャンルも様々で面白いものがたくさん。書籍に対する愛やこだわりを感じる素敵な出版社です。プロの翻訳家ではない私に貴重な本の翻訳を任せてくださり、感謝でいっぱいでした。
書き終えた後に感じたのは、サンタクロースは本当にいるんだな、ということでした。この世界には目には見えない、見ることのできない素晴らしいものがあるんだなぁと......それを実感することは稀ですが、今回それをはっきりと実感できて本当に素晴らしい体験ができました。
『DEAR SANTA〜サンタへの手紙〜子供達が書いたサンタへの手紙と欲しいものリスト』は、心温まる素敵な本でクリスマスへの贈り物にもきっとピッタリだと思います。ぜひ読んでみてくださいね。
>>「カヒミ カリィの Wherever I go」をもっと読む
[DEAR SANTA 〜サンタへの手紙〜 子供達が書いたサンタへの手紙と欲しいものリスト, クロニクルブックスジャパン, クロニクスブックスUS]
コメント
コメントを書く