おいこファーム(千葉県我孫子市
)
代表 大岩友紀子
化学肥料不使用、無農薬。1200坪の畑で年間40品種以上の野菜を栽培
訪ねたのは女性ひとりで農園を経営する大岩友紀子さん。農家仲間たちからは、おいこちゃんの愛称で親しまれているアイドル的存在です。
案内してくれた畑は利根川の広大な河川敷。ちょうど冬野菜の収穫シーズン真っ最中、ニンジン、ダイ コン、カブ、ルッコラなどが立派に育っています。中には珍しいコールラビという品種もあったりと見ているだけで楽しくなります。これらすべてを1人で育てているんですか?
「はい、ほぼ1人でやってます。でも忙しいときは母に手伝ってもらったり、隣の畑の地主さんからトラクターを借りたり、夫の両親の作業場を使わせてもらったりと、まわりの人の力を借り、助けてもらっています」
コールラビ。蒸したり煮込んだりして食べる。シチューに入れると美味しい。
ルッコラ、赤水菜、赤カラシ菜などサラダセット用の野菜
ワサビ菜
オレンジカリフラワー
じつは大岩さんのダンナさんも農家、我孫子市の代々続く農家です。農家のヨメでありながら大岩さんは有機農業をやるためにひとりで農園を経営しています。
「大学を卒業して証券会社に就職しました。でも農業がやりたくて在職中から体験農園をしたり。そのうちに本格的に学びたいと想いがつのり、退職して有機農家へ研修に行きました」
農業にはどんな魅力があったのでしょうか?
「東南アジアが好きで学生の頃はよくバックパックを背負って旅行していました。アジアの地方へ行くと本当に何もない。店も娯楽も電気もない道端に人が集まっていて、でもすごく楽しそうで幸せそう。豊かさを求めるより、ただ食べものを作って近くの人とつながって生きていくだけで人っていいんじゃないかなって」
パクチーの収穫。夏野菜のイメージだけれど寒さにも強いので霜が降りる頃までは収穫できる。
大学で学んだのは人間環境学。自然を壊さない農業に魅せられ、宮崎の有機農家で長期の修行を始めます。その後、国内の自然農園や有機農家を訪ね歩き、滞在しながら農作業を手伝い、さらに農業の現場での経験を積みました。
「なるべく環境に負荷をかけないように食べものを作りたい。農薬や化学肥料を使わないのは自然環境の影響を受けやすいから難しい。でもきちんとやれば立派な野菜ができるんだって分かってオーガニックの畑をやりたいと思うようになりました」
ちはま五寸ニンジン。有機農家仲間が教えてくれた栽培方法を試したところ今年は大収穫。仲間の勉強会で新しい技術を教わる。
ひととおり農法も学び、そろそろ自分の道を歩むことを決めた大岩さん、実家へ戻り近くの千葉県で農地や一緒にやる仲間探しを始めました。けれど農地も仲間もなかなか見つかりません。誰もいなければひとりでやるしかないかもしれない、でもひとりでなんてできるの?と迷っているときに、野菜直売所に貼ってあった"農コン参加者募集"のチラシに目が止まります。直売所に出荷している独身農家男性と一般女性の合コンです。ふと、農家のヨメってどうなの?と応募してみました。
「じつは応募してから開催までの間に貸してもらえる農地が見つかったんです。もうこうなったらひとりで農園をやるぞ!と決意もできていました。なので農コンはキャンセルしようと思ってたんです。けれどキャンセル料がかかると言われ。じゃあもったいないから参加しようと(笑)」
当日の農コンの会場は田んぼの中。くじ引きでペアを決め、一緒に稲刈りしたりお弁当を食べたりと楽しく和気あいあいの雰囲気、大岩さんもペアとなった男性とメルアドを交換しました。
畑の肥料は米ぬかのみ。葉ものは土の栄養が多いと虫が増えるのでなるべく少なめに。
「自分の畑を始める頃だったので彼に相談に乗ってもらったり、耕運機を借りたり。そのうちに自然と付き合い始めていました」
農コンから1年半後にプロポーズ、2人は結婚を決めます。でも農家のヨメになるってことはダンナさんの農家を手伝うのでしょうか?
「農家のおヨメさんって自分の仕事をしている人が多いんですよ。企業に勤めるOLだったりエステティシャンをしていて、家族で助け合いながら夫婦それぞれが活躍している。彼も私の農園を仕事として認めてくれていて、両親にも話してくれました。農家のおヨメさんになるのはかなりオススメですよ。昔と違って農作業も機械化されているので家族揃って畑へ出ることもほとんどないんです。ただ家の中は泥で汚れますけど(笑)」
今は農家のヨメのイメージは変わってきているそう。今後はもっと農家のヨメの魅力を知ってもらえるよう、新しい出会いの場を作る橋渡しもしていきたい考えています。
ハクサイの品種ワワサイ。小ぶりだけれどこれが収穫サイズ。
収穫したての野菜でサラダを。パリパリとした食感が特徴のワワサイはサラダ向き。
「まだ慣れない頃はマルシェの前日になると夜中12時くらいまでひとりで袋詰めすることもありました。そうしたら家族が見かねて手伝ってくれるようになったり。お互いの畑の農法や作る野菜の品種は違うけれど、使う機械や資材は同じなので貸してくれたりと本当に助けられています」
理解のある家族のおかげで結婚後も順調に農園を続けました。野菜の品種も少しずつ増え、セット野菜の宅配や近所のマルシェで野菜を販売するようになりました。
「勤めている頃はお給料をもらっても実感がなかったんです。これは何に対してのお金だろう?って。でも今は価値がすごくよくわかる。自分が作ったものをお客様に喜んでもらえてお金をいただく。これからもずっと農業には関わっていきたい、一生やりたいと思っています」
[おいこファーム]
撮影・文/柳原久子
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